CO2原料の合成燃料が未来のエネルギーの主役!? 日本が有利な「カーボンキャプチャー」

2021.2.17

技術・科学

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CO2原料の合成燃料が未来のエネルギーの主役!? 日本が有利な「カーボンキャプチャー」

JERAの富津火力発電所。参考写真(2013年2月) 写真:ロイター/アフロ

世界が「カーボンニュートラル(CO2の排出量と吸収量でプラス・マイナス・ゼロとする)」を競うなか、CO2を排出元で一網打尽にする「カーボンキャプチャー(CO2回収)」という手法がにわかに注目されている。CCS(Carbon dioxide Capture & Storage/CO2回収・貯留)の技術で、最近はCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization & Storage/CO2回収・有効利用・貯留)とも。実はこのカーボンキャプチャーの技術、日本が有利なのだ。

「回収」「貯留」「有効利用」のCCUS

世界のCO2総排出量(2017年)は約328億トンで、1位中国(28.2%)、2位アメリカ(14.5%)、3位インド(6.6%)、4位ロシア(4.7%)、5位日本(3.4%)、以下ドイツ(2.2%)、韓国(1.8%)、カナダ(1.7%)、インドネシア(1.5%)と続く。

日本のCO2排出量の最新値は約12億1300万トン(資源エネルギー庁)。約40%がエネルギー転換部門(直接値)で大半が火力発電(石炭とLNG)によるものだ。次に多いのが産業部門で約25%(直接値)だが、発電所からの電力由来も加味すると35%にアップし、うち14ポイント分は石炭を大量消費する鉄鋼業(主に製鉄所)のもの。

CO2回収技術には「液体吸収」(CO2をよく溶かすアルカリ性溶液を使う)や「膜分離」(分子レベルでふるいにかける)、固体吸着(活性炭などで回収)など多岐にわたるが、いずれも大幅なコスト低減が最重要課題となっている。

CO2貯留技術は地下数千メートルにある帯水層(上部に水や気体を透過しない不帯水層があるのが必須)に注入する方法が王道で、海外ではすでに実用化も。日本でも2010年代初めに北海道・苫小牧で大規模な実証試験が始まったが、大陸性の安定した地面を持つ欧米とは違い、4つのプレートが激突し火山噴火と地震が頻発する日本列島で、果たしてCO2を安心・安全に長期にわたり貯められるのか気になるところだ。

一方、今回注目するCO2有効利用に関してだが、主軸はやはり「合成燃料の生成」。主として[1]CO2と水素ガス(H2)の化学反応、[2]藻類の光合成でバイオ燃料を製造、の2つのアプローチがあり、とりわけ前者の動きに注目したい。

合成燃料の生成は、CO2のC(炭素)にH2(水素ガス)を反応させてガソリンや灯油、軽油などの炭化水素系燃料や、またはアルコールを造ろうというもの。

「燃やせば結局CO2が排出される」との指摘もあるが、例えば石炭火力発電で排出されたCO2を回収、これでガソリンを造りクルマが消費しCO2を排出する場合と、同じく石炭火力発電でCO2を排出、一方原油から直接ガソリンを造りクルマが消費しCO2を排出する場合とを比べた場合、大まかだが前者はCO2排出量が半分で済むという計算。

なお、使うH2は「グリーン水素」、つまり太陽光や風力、水力など再生可能エネルギー発電の電力で水(H2O)を電気分解して得たものでなければ無意味だろう。

日本が合成燃料にこだわるわけ

エネルギー資源に乏しく、歴史的背景もあって公害・省エネ対策に熱心な日本は、CCUSの中でも特に「回収」と「有効利用」の技術が得意で、世界のトップを走る。そしてそのキーワードが「合成燃料」である点も注目すべきだろう。事実2020年12月に菅政権が打ち出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」でも「合成燃料」が各所に散りばめられている。

「グリーン成長戦略」で突如現れたアンモニアと合成燃料のナゼ?

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これに関しては上記記事も参照されたいが、要するに「日本」という島国は、エネルギー資源の自給率がほぼゼロで、化石燃料や液体や電力融通などエネルギー供給で頼れる同盟国も近くにない“電力の孤島”、という実態を自覚することが重要。

しかも脱炭素戦略の下、再エネ発電の比率を上げたいのはやまやまだが“風任せ、おてんとうさま任せ”の太陽光・風力発電は不安定であるため(間欠性)、電力の安定供給が可能な原発や火力発電のバックアップが必須。しかも日本の場合、福島第一原発事故による“原発アレルギー”が根強いため火力発電が頼みの綱で、できればLNGよりも調達コストや、長期・大量保存コストで数段有利な石炭のウエイトを厚くしたいと考えるのが人情だろう。

「CO2排出量の少ないLNGの比率をアップすべき」との声もあるが、2021年1月、全国的な豪雪・厳冬で電力需要が急増、太陽光発電は不調で肝心のLNGの在庫も不足、結局休止中の石炭火力のボイラーを再稼働させ、重油を燃やして発電というウルトラCで“ブラックアウト(大規模停電)”を食い止めた。まさに“綱渡り”だ。

政府が描く2050年脱炭素のシナリオでも総発電量のうち4割を原発と化石燃料(石炭とLNG)で賄う模様で、現在よりも割合が減るものの依然として石炭がエネルギー源の主軸の一つであり続ける。

これらを総合すれば、日本はCCUS技術にさらに磨きをかけ、石炭の燃焼で生じるCO2を低コストで確保・有効利用、という国家戦略は正鵠を射ている。

発展途上国への技術提供で存在感を高めるチャンス

国連によれば世界の人口は2020年に約78億人で、2050年には97~100億人に達すると推計。大部分が新興国や発展途上国での人口爆発でエネルギー消費も急増、太陽光や風力など再エネ発電も活躍するが大半は安価な石炭を頼るはず。上から目線で「CO2排出が多いではないか」と非難するだけでは“先進国のエゴ”とのそしりを免れない。

そのとき日本は、CCUS技術と合成燃料技術を発展途上国にODAとして積極的に提供、むしろ“脱炭素大国ニッポン”として世界で存在感を高める、千載一遇のチャンスと考えるべきだろう。

いずれにせよ、コストの大幅低減で価格競争力をいかに早くつけるかがカギだが、いつものように(?)もたもたしていると諸外国にあっという間に抜かされてしまうのでご用心。