春の衆参3補選・再選 菅首相が乗り切るための最低条件は

2021.2.18

政治

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春の衆参3補選・再選 菅首相が乗り切るための最低条件は

菅政権の浮沈握る新型コロナワクチン接種が2月17日から開始。 写真:ロイター/アフロ

菅義偉首相の就任以来、初めての国政選挙が4月25日に行われる。衆院北海道2区と参院長野選挙区の2補選に加え、公職選挙法違反で有罪判決が確定した河井案里氏の失職に伴う参院広島選挙区の再選挙が同日投開票。自民党は北海道の候補者擁立を見送ることで早々と不戦敗を決めたほか、残る2つの選挙も厳しい戦いが予想される。仮に全敗となれば首相の“選挙の顔”への期待が萎み、秋に予定される自民党総裁選での再選に黄信号が灯る可能性がある。

与党は苦戦か、3補選の行方

衆院北海道2区の補選は、自民党所属だった吉川貴盛氏が農水相在任中に鶏卵業者から賄賂を受けとったとして収賄罪で在宅起訴され、体調不良を理由に議員辞職したことに伴うもの。参院長野選挙区の補選は、立憲民主党の参院幹事長だった羽田雄一郎氏が昨年末、新型コロナウイルスに感染し、53歳の若さで急逝したことに伴って実施される。

衆院北海道2区:野党が統一候補を模索

衆院北海道2区では自民党が1月15日に「襟を正して、まずは有権者の信頼回復に努めることを最優先すべきだ」(山口泰明選挙対策委員長)として、候補者の擁立見送りを表明。公明党も候補者を立てないことから与党の不戦敗になることが確定した。

野党では立憲民主が元職の松木謙公氏、共産党が新人の平岡大介前札幌市議の擁立をそれぞれ決めており、候補者の一本化を模索する動きもある。与党が候補を立てないことから複数の保守系候補が無所属で立候補する意向を示しているが、よほどの知名度がない限り、小選挙区で勝ち抜くのは難しい。

参院長野選挙区:“羽田の地”で自民党が勝つのは困難

参院長野選挙区では、自民党が前回参院選で羽田氏に敗れた医師で、衆院議員を2期務めた小松裕氏(59)の公認を決定。立憲民主党は雄一郎氏の実弟である羽田次郎氏(51)を擁立する方向で調整しているという。

亡くなった雄一郎氏と次郎氏の父親は長野県を地盤とし、首相まで務めた故羽田孜氏。前回参院選では雄一郎氏が小松氏に15万票の大差で勝利するほど地盤を固めているほか、実弟が立候補すれば「弔い合戦」の様相を呈してますます戦況は有利に働く。菅内閣の支持率もじりじりと低下しており、自民党が参院長野選挙区で巻き返すのは相当な困難とみられる。

参院広島選挙区:自民にチャンスが見込めるも、全力投球はリスクに

唯一、チャンスがありそうなのが参院広島選挙区の再選挙だ。広島は伝統的に保守地盤とされ、前回参院選でも2位で当選した河井氏と3位で落選した自民党候補の得票を合わせると、トップ当選した野党系候補を23万票ほど上回る計算。自民党広島県連は2月16日に地元出身の経済産業官僚、西田英範氏(39)の擁立を決定。近く党本部に公認申請する方針を明らかにした。

最大野党の立憲民主党も月内に候補者を擁立する方針。れいわ新撰組も候補の擁立に意欲を示しているが、野党内では「自民党に勝たせないことが大事」(れいわの山本太郎代表)として、野党候補を一本化して無所属で立候補させる案も浮上している。

保守王国の広島とはいえ、再選挙のきっかけとなったのは河井氏の“政治とカネ”問題。夫の克行元法相と併せて2人の選挙違反問題は長期間にわたって繰り返し報道されており、地元の有権者は自民党に厳しい視線を向けている。与党は唯一のチャンスであるこの選挙に全力を注ぐとみられるが、そこまでして候補を落とせば菅首相の求心力は大きく低下しかねない。

地方知事選は“保守分裂”の様相

今春は国政以外でも重要な選挙がある。4月4日の秋田県知事選と、入院中の現職知事が辞職の意向を周囲に示したという福岡県知事選だ。

秋田県の現職知事は現在3期目で、4選出馬を表明している佐竹敬久氏(73、無所属)。しかし、橋本龍太郎内閣で官房長官を務めた村岡兼造元衆院議員の次男で、日本維新の会などから立候補して衆院議員を2期務めた村岡敏英氏(60)も立候補を表明した。

自民党の秋田県連は佐竹氏支持を決めたが、一部の地方議員は村岡氏の支援に回る意向を示し“保守分裂選挙”の様相。秋田出身の菅首相は村岡氏と親交があり、陰で肩入れしているとの見方もあり、選挙戦の行方に注目が集まっている。

福岡県知事選が注目されるのは2019年4月の前回選挙で保守分裂となった経緯があるからだ。過去2回の選挙で自民党が支援した現職の小川洋氏に対し、地元選出の麻生太郎財務相兼副総理らが主導して対抗馬を擁立。自民党は麻生氏が支援する新人候補を推薦したが、麻生氏と“犬猿の仲”で知られる二階派の武田良太総務相ら一部の国会議員が現職を支持し、結果的に小川氏が約95万票の大差をつけて圧勝した。

それから約2年という短期間で再び選挙となれば、再び麻生氏と武田氏との間で候補者の選定をめぐる熾烈な争いが予想される。麻生氏と、武田氏が所属する二階派の領袖、二階俊博幹事長はともに菅内閣を支える2本柱。菅首相は難しい調整を迫られることとなり、調整に失敗すれば政権の屋台骨がぐらつく可能性もある。

ワクチン接種と五輪組織委員会の後任人事

国会議員にとって最大の関心事は衆院選の行方だ。特に小選挙区制度になってからは“風”(浮動票)に大きく左右されるようになったため、自分の政党が有利な状況で選挙を戦いたいというのは議員たちの脳裏に強く刻み込まれている。

現在の衆院議員の任期は2021年の10月21日で、それまでに必ず総選挙が行われる。仮に菅首相の下で初めて行われる3つの国政選挙で全敗し、地方選でも調整力を発揮できなければ“選挙の顔”や“自民党総裁”としての適性に疑問符がつく。そうなれば発信力の高い河野太郎行政改革担当相らに“顔”をすげ替え、総選挙を戦った方が良い……との声が噴出する可能性もある。

首相にとって就任以来、最大の試練となる4月の3補選・再選。これを乗り切るには、まずは足元の課題である新型コロナウイルスのワクチン接種と東京五輪組織委員会会長人事、この2つを国民の理解を得られるかたちできっちり進めることが最低条件となる。組織委員会会長には橋本聖子五輪相が浮上しているが、候補者検討委員会のメンバーすら公開しないことに“密室人事”との批判もある。コロナワクチンの接種も2月17日に始まったが、首相にとっては気の抜けない日々が続く。