警備ロボの実用化で人手不足を解消 画像・動作認識AIでデータベースの活用へ

2021.4.21

技術・科学

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監視カメラ(イメージ)

少子高齢化は社会保障費を圧迫するだけでなく労働人口の減少をもたらす。生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8716万人をピークに減少し続けており、2020年には7500万人を下回った。総務省の試算によると2050年には5000万人になるとみられている。産業界は将来的な人手不足に対処すべくロボットやAIの導入を進めており、特に厳しい警備業界は業界をあげて精力的な取り組みを行っている。今後、セキュリティ分野でどのような新技術が研究されているか見ていきたい。

空港に導入が進む巡回型警備ロボット

人手不足が著しい警備業界は8倍を超える有効求人倍率を推移しており、通常は1.0~1.3を推移する全体平均と比較すると、すでに壊滅的な状態にあることがわかる。さらなる状況の悪化が予想されるなか業界にとって新技術の導入は喫緊の課題である。

怪しい人物を追い回す技術には至っていないが、警備ロボットはすでに実用化されている。2019年に開発されたALSOKの自律型警備ロボット「REBORG-Z(リボーグゼット)」がその一例だ。REBORG-Zは高さ150cm・重量180cmの車輪駆動型で、施設を自律して巡回するロボットである。悲鳴などの異常音や火災を探知する機能を有しており、異常は本部の警備員に伝えられることになる。顔認識機能もあり、事前に登録した不審人物の特定も可能だ。また、正面に取り付けられたタッチパネルはフロアマップの表示など、施設利用者への案内として使うことができる。

警備ロボット「REBORG-Z」(ALSOK)
「REBORG-Z」の仕様(ALSOK)

すでに静岡空港で使われており、今後は大型施設での導入が進むとみられる。同様のロボットとしてセコムが「セコムロボットX2」を投入しており、こちらは熱・金属探知機能を有するアームによってゴミ箱内の不審物を探知できる点が特徴的だ。第1号機は成田空港で活躍している。

現段階ではロボット単体で警備を完結させることはできないが、異常を通知する機能を通じて協働型ロボットとして働くだろう。巡回要員の代わりとなることで本部要員のみで警備が可能になる。アフターコロナでは再びインバウンドの増加や都心部への一極集中が予想されるものの、警備業界の人手不足は深刻だ。今後、警備ロボットは大型施設で頻繁に見かけるようになるかもしれない。

画像認識AIで広範囲をカバー

監視カメラ(イメージ)

警備ロボットも人手不足に対応できるが、それだけでは不十分だ。ロボットが巡回する範囲しか異常を探知できないため広範囲の警備にはロボットの台数を増やす必要がある。資金力の乏しい設備での導入は難しいかもしれない。全体を俯瞰する監視カメラとAIを組み合わせればより低コストで広範囲の監視が可能になるだろう。

日立製作所が提供する「高速人物発見・追跡ソリューション」は顔検知機能や服装からの人物検知機能、侵入検知機能を有する画像解析システムだ。あらかじめリストに記録した人物を特定できるほか、映りこんだ怪しい人物を指定することでカメラに自動追尾させることができる。事前に写真を登録しなくても服装の色を指定して人物を特定できるため迷子の捜索にも使えるだろう。日立はハードに頼る製造業からIT・ソフト事業へのシフトを進めており、本サービスは脱製造業の一環といえる。

カメラとAIを組み合わせた技術はさまざまな用途への応用が可能だ。例えば商業施設内の人の動きを探知して客層のデータベースを構築できるほか、作業員の動きを探知して最適な人員配置を提案するシステムが構築できる。そして単にサービスを提供するだけでなく、そこから得られた情報を蓄積すればデータベースを基にしたソリューション事業が展開できるだろう。日立以外に各社もAIとカメラを組み合わせた提供しているが、得られた情報を基に新たな事業創出を見込んでいるのかもしれない。

動作認識AIで犯罪を未然に防ぐ

画像認識に近い技術として動作認識AIを使った技術があり、同技術は犯罪を未然に防ぐのに役立つだろう。2017年設立のベンチャーVAAK社が提供する「VAAKEYE(バークアイ)」は店内の万引きや窃盗、トラブルなどを判定し管理者に知らせるシステムだ。異常行動が見られた際に警備員を派遣すれば犯罪を未然に防ぐことができ、すでに三菱地所が運営する高層ビルや自治体などで導入されている。

「VAAKEYE」のような動作認識AIの精度は機械学習が肝となる。万引き犯の場合、「周囲をキョロキョロ気にする」、「狙っている棚の近くに人が居ないか歩いて確認する」などの行為が見られるため、これらの動きを万引き犯の特徴としてAIに学ばせることで判定が可能になる。学習対象となる映像が多いほどAIの精度が向上するため、サービス提供を通じて万引き犯の映像を入手できればさらに精度が磨き上げられることになる。

万引き以外にも応用でき、泣いている子どもの特徴を機械学習の対象にすれば迷子を見つけるのに役立つだろう。一見難しそうだが、機械学習は人がいちいち教えるのではなくAIが大量のデータを基に“自分で”学ぶため構築には手間がかからないといわれている。

次世代のセキュリティ技術から見える雇用の未来

警備ロボット、画像認識、動作認識などの次世代技術によって警備業界の人手不足は解消されるかもしれない。現場に配置する人員を削減でき、本部にだけ人員を配置すれば警備体制は機能することになる。だが今回紹介した新技術は警備業界にとどまらずさまざまな業界への応用が期待されており、本格的な導入が業界を問わず進んでいる。

ユニクロやGUではすでにレジが自動化されており、サポート要員1人で5、6台以上のレジを回すことができる。製造業でも人と一緒に作業する「協働ロボ」が導入され、人員削減につながっている。今後は単純作業を中心とした求人は少なくなり、ロボットを扱える人材が重宝されることだろう。

また、こうした自動化や画像認識技術などの新技術は大手に限らず中小企業でも需要が増すと思われる。資金の乏しい中小企業が自前で揃えるのは難しいため、月額制でロボット類を貸し出すソリューション企業が伸びるのではないだろうか。一方で新技術によって淘汰される企業も現れるはずだ。自分の職業、ひいては自分の勤め先が新技術の波を乗り越えられるか今のうちに考えておくといいだろう。