【兵力想定】中国最大の「台湾上陸作戦」

2021.4.27

政治

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写真:ロイター/アフロ

2021年1月に米バイデン政権が発足して3カ月、米中対立はますます激化し、今や「新冷戦」と呼ばれるほどになっている。この余波というべきか、中国が悲願の国家統一を果たそうと近々台湾に一大上陸侵攻作戦を展開するのでは、との観測がにわかに高まっている。しかし、それが成功する可能性はほぼゼロ。理由は簡単、今の中国軍の実力では無理なのだ。

中国が第1陣で上陸可能な兵力は3万人

2021年3月初旬、米インド太平洋軍デービッドソン司令官(今年春退任)は「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性あり」と“爆弾発言”、さらに彼の後任として同司令官に就任予定の米アキリーノ海軍大将も「台湾有事は多くの人が理解する以上に切迫している」と警鐘を鳴らす。

だが純軍事観点から冷静に考えると、現在の中国軍の実力では台湾上陸作戦が成功する可能性はほぼゼロだろう。理由は簡単で、まず軍事作戦の中でも最難関の上陸作戦を、経験もノウハウもない彼らが達成できるほど現実は甘くなく、甚大な犠牲を払った挙句に全滅か降参、または大混乱の中で撤退するしかないということ。

約70年前の朝鮮戦争(1950~53年)では機械力に勝る米韓連合軍に対し中国軍(表向きは正規軍ではなく志願軍)は人海戦術で対抗し多大な死傷者を出しているが、現在は状況がまるで違う。中国軍の将兵は「1人っ子政策」(1979~2014年)世代で、仮に無謀な作戦で「一人息子」が戦死すれば遺族らが猛反発すること必至。大げさではなく、SNSなどを通じて政府批判が急速に高まり、ひいては習近平国家主席の失脚どころか共産党政権も崩壊しかねない状況に陥ってしまう。

同時に中国軍は実戦経験も乏しく、直近の大規模な実戦参加といえば1979年の中越戦争で、以後40年以上戦火をくぐったことがない。しかも、近年急激に強大化する中国軍だが、台湾全土の完全占領となると話は別で、全く戦力は足りない。

台湾島は意外と大きく地形も険しい。面積は約3.6万平方キロメートル、南北約380km、東西100~140kmで九州とほぼ同じ。中央には標高3000m級の山脈群が南北に走り最高峰の玉(ユイ)山は同3952mで富士山(3776m)より高い。

中国軍の上陸作戦能力

一方、別表を見ると中国の軍事力は確かに台湾を圧倒、現役総兵力や戦車数は実に10倍、大型水上戦闘艦数で3倍、戦闘機・攻撃機数で約4倍の戦力差を誇る。

ミリタリーバランス2021年より

だが中台間には幅130~180kmの台湾海峡があるため、中国軍の陸軍力がどれだけ強大でも、簡単に台湾には攻め込めない。地上部隊を載せ一気に海を渡る能力、「パワープロジェクション」(戦力投射力)の充実が不可欠で、具体的には大中小織り交ぜた多数の揚陸艦艇と、水陸両用装甲車を装備し上陸作戦を得意とする海兵隊(中国では「陸戦隊」)が必須。また、戦闘機・攻撃機で空から揚陸艦艇や上陸部隊や援護する空母も欲しいところで、並行して速攻・奇襲に優れる空挺部隊(落下傘降下やヘリコプターで強襲する部隊)と彼らを空輸する多数の大型輸送機・大型ヘリコプターも欠かせない。

これを踏まえつつ中国軍の上陸作戦能力を分析すると、揚陸艦艇の総数は約370隻で、うち上陸部隊を満載し130~180kmの台湾海峡をムリなく渡航できる艦艇(大体満載排水量500トン以上)は70隻程度、輸送可能兵員数は2万数千人。これに民間フェリーの徴用やヘリコプター、落下傘降下で展開できる兵員数千人を加え、上陸作戦第1陣の投入兵力はざっと3万人程度だろう。

だが実際は待ち構える台湾軍が雨あられのごとく銃弾と砲爆撃を浴びせるなかでの強行上陸となるので、最低でも全体の20~30%が死傷、実働戦力は2万人前半レベルまで落ちると考えるべきだろう。

片や台湾軍の動員兵力は約180万人。上陸が予想される西海岸(台湾海峡を臨み上陸作戦に最適な遠浅海岸のため地理的にここ以外ありえない)を、例えば「北・中・南」の3戦域に分け各戦域に50万人ずつ配置(残り30万人は他地域の防備や予備部隊)したとすれば、上陸地点における中国軍上陸部隊と台湾守備部隊の兵力差は「3(実質2)対50」となる。これでは中国軍側が一方的に大打撃を被るだけで短期間のうちに全滅または全面降伏するしかない。

中国側がどれだけ秘密裏に上陸作戦の準備を進めたとしても、多数の艦艇や大部隊が動くため、偵察衛星や偵察機、通信傍受、大陸に張りめぐらせた台湾・アメリカのスパイ網など現在の科学技術を使えば予兆は瞬時に察知され、台湾側は即座に西海岸沖に機雷をびっしりとばらまいたり、海岸に地雷や障害物を置いたりなどして、迎撃準備を整えるはず。

もちろん中国側もこうした状況は想定ずみで、上陸作戦の前に猛烈なサイバー攻撃や多数の潜入工作員・特殊部隊にテロ・ゲリラ活動、短距離弾道ミサイル(最大1500発)による重要施設へのピンポイント攻撃、海上民兵による数千隻の武装漁船を使った攪乱作戦、数で勝る戦闘機・攻撃機を駆使した制空権確保などあの手この手で台湾側を揺さぶり、同時に台湾を支援する日米の動きも強力に牽制するだろう。

上陸しても船舶での補給は困難を極める

仮に中国側の上陸作戦が成功、西海岸のある地域に橋頭保(足掛かりとなる拠点)を確保したとしても、次に増援部隊や武器・弾薬、食糧を最前線に送る兵站線(補給線)の確保が困難を極める。

物資輸送の主軸は船舶だ。商船保有数実質世界1位の中国は、面子を懸けてコンテナ船やタンカーをかき集めて補給路確保に努めるだろうが、前述の機雷が行く手を阻み除去にも時間がかかる。その上、西海岸には大型船が接岸可能な港湾がそもそも少なく(7カ所程度)、もちろん台湾側は有事となれば即座にこれらを使用不能にする。これに対処するため中国軍はコンクリート製の浮桟橋を多数用意、遠浅の砂浜に瞬時に港を構築できると豪語するが、果たして戦火の中で実現可能なのだろうか。

台湾側は山岳地帯に隠した長距離対艦ミサイルや潜水艦、ドロ―ンによるミサイル・自爆攻撃などで西海岸に接近する中国軍艦船を狙い撃ちし、多数の船舶が海中に没してしまうだろう。こうなると中国軍上陸部隊のさらなる進撃どころか、物資不足が深刻化し部隊の維持すら厳しくなってくる。

占領は制圧よりも治安維持のほうが大変

それでもなお楽観的な観測で、中国軍は数十万人規模の上陸を成功させ、いよいよ台湾全土の完全占領に臨むとしても、今度は3000m級の山岳地帯と周辺に広がる密林地帯。さらには2400万人の台湾市民が待ち構えている。

占領作戦は敵地の制圧よりもその地の治安を確保・維持するほうがはるかに大変で、日中戦争で中国大陸に進出した日本軍や、イラク戦争、アフガン戦争(2001年~)のアメリカ軍、アフガン紛争(1978年~)の旧ソ連軍など過去に苦戦した例は枚挙にいとまがない。いずれも占領軍はテロ・ゲリラ活動で出血を強いられ、敵が誰だかわからない状況で占領軍将兵のモチベーションは大きく低下、犠牲や戦費も膨大となりやがて国家財政にとっても重圧になってくる。

中国軍が台湾を短期間で軍事占領するならば、最低でも100万人規模の兵力が必要だと考えられるが、この数字、実は現在の中国陸軍(96.5万人)に相当する規模となる。加えて台湾全土に展開する100万人の中国軍の戦力を維持するため、中国は本土からあらゆる物資を海上輸送で台湾に運ばなければならず、その手間・ヒマ・コストはまさに天文学的数字だろう。

参考までに、第2次大戦末期にアメリカを中心とする連合国軍が、台湾とほぼ同じ大きさの九州の南部に上陸を計画していた「オリンピック作戦」では、当時、九州の人口を800万人弱、九州南部に展開の日本軍兵力最大20万人と想定。これに対し、連合国軍は兵力76万人、空母40隻以上、艦載機1900機、戦艦・駆逐艦など戦闘艦400隻、揚陸艦・貨物船など補助艦船3000隻以上を準備している。

なお同作戦は1945年11月初旬に実施予定だったが、日本がポツダム宣言を受諾、同年8月15日に終戦を迎えたため幻に。

日米の“支援”も立ちはだかる

以上、中国軍が本気で台湾上陸作戦に臨む場合、どれだけの兵力が必要かを想定した。

それでも、あくまでも日米、特にアメリカの正式な参戦は考えていない。実際はアメリカの“軍事顧問団”(「正規軍」だとあからさまに参戦になるので)による台湾の主要軍事拠点への展開や(アメリカ人への被害を恐れ中国が攻撃できない)、アメリカによる武器弾薬の供給、日米による秘密裏の潜水艦作戦(潜水艦活動は極秘なので、仮に日米の潜水艦が中国の艦船を撃沈したとしても、中国は非難のしようがない)など、日米の強力な台湾支援も立ちはだかる。

しかしだからといって、中国が戦闘地域を台湾に限定せず、例えば沖縄やグアムの米軍基地、さらには日本本土への攻撃にまで戦線拡大すれば、それはもはや第3次世界大戦への突入、そして核戦争を意味する。中国指導部はそこまで愚かだとは思えないが……。

2021年4月23日、中国は初の強襲揚陸艦「075型」の一番艦「海南」(満載排水量約4万t。空母のように全通飛行甲板を持つ)を就役するなど、台湾上陸作戦能力を強烈にアピールするが、実際は極めて困難だ。

中国から台湾を抜けたらアメリカ本土まで一直線。香港を押さえた中国が次に狙うのは台湾だといわれるなか、米軍将校が中国による台湾侵攻の懸念を口にする理由はわからないではない。しかし、現実的に考えれば考えるほど杞憂に終わりそうだ。