菅政権発足後、初の国政選挙となる衆参3選挙が4月25日に投開票され、いずれも野党候補が当選、与党は“全敗”という厳しい結果となった。菅義偉首相は立て直しに向け、新型コロナウイルス対策に集中する姿勢を表明。早期の衆院解散は困難な情勢で、解散・総選挙は東京オリンピック・パラリンピック後の秋となる公算が大きくなった。
2敗は想定内
「大変厳しい結果となった。国民の声に耳を傾け、党と力を合わせて取り組むことで、今後結果を出していきたい」。菅義偉首相は選挙から一夜明けた4月26日、自民党役員会でこう反省の弁を述べた。
自民党の二階俊博幹事長は役員会後の記者会見で、選挙結果が今後の政権運営に与える影響について「無いとは言えない」と指摘。「謙虚に受け止め、衆院選に向けて党としてしっかり巻き返しを図り、必ず勝利するよう頑張りたい」と強調した。
吉川貴盛元農水相の議員辞職に伴う衆院北海道2区の補選について、自民党は早々に“不戦敗”を決定。立憲民主党の元職で、野党各党が支援した松木謙公氏が当選した。
立憲民主党の参院幹事長だった羽田雄一郎氏が新型コロナウイルスに感染して死去したことに伴う参院長野選挙区の補選では、自民党は元衆院議員の小松裕氏を擁立。しかし、長野は羽田氏の父で、首相を務めた故・孜氏以来の野党地盤。“弔い選挙”を掲げる羽田氏の弟、次郎氏に約9万票の差をつけられて敗れた。
政府・与党にとってこの2敗までは想定内。衝撃だったのは保守地盤として知られる広島だ。
強固な保守地盤・広島で敗れる
参院広島選挙区の再選挙は、自民党公認で2019年に初当選した河井案里氏の公職選挙法違反による当選無効に伴うもの。“政治とカネ”をめぐり自民党には逆風が吹くとみられていたが、それでも強固な地盤だけに勝利は揺るがないとの見方が多かった。
過去3回の参院選では自民党候補が野党を大幅に上回る50万票以上を獲得しており、2017年の前回衆院選でも広島県内の7つの選挙区のうち、6区で自民党候補が当選している。与党は、事前に決まっていた衆院北海道2区と参院長野選挙区の2つの選挙だけでは“全敗”になる可能性があったため、“1勝2敗”に持ち込む目的で河井案里氏を説得して議員辞職させたといわれるほどだ。
しかし、蓋をあければ、与野党の一騎打ちを制したのは野党。立憲民主党などが推し、野党統一候補となった新人の宮口治子氏が約37万票を獲得して当選し、自民党が擁立した新人の西田英範氏は約3万4000票差で届かなかった。
注目すべきは投票率。広島再選挙の投票率は33.61%で、前回参院選より11.6ポイント減少。「今回は自民党に入れたくないが、野党には投票したくない」という有権者が増えたとみられる。
与党内の対立が影響、首相も選挙区に入れず
当選枠2つの参院広島県選挙区では、長く自民党と野党系候補が1議席ずつ分け合ってきた。2019年の前回参院選では、改選期だった溝手顕正元参院議員会長が早々に自民党から公認内定を受けていたが、党本部主導で安倍晋三首相(当時)や菅官房長官(当時)に近い河井克行の妻、案里氏を2人目の候補として擁立。結果的に案里氏が初当選し、それまで5期連続当選だった溝手氏が落選の憂き目を見た。
実は、安倍首相にとって溝手氏は因縁の相手。第1次安倍政権で与党が参院選に敗北した際、続投を表明した首相を溝手氏が公然と批判したからだ。2019年の参院選では、自民党本部から案里氏側に、溝手氏の10倍となる1億5000万円の選挙資金が渡っていたことが判明。露骨な“溝手潰し”に自民党広島県連内では大きな反発が出ていた。
今回の再選挙でも、広島県連は案里氏擁立に動いた菅首相の地元入りを拒否。政権発足後初の国政選挙にもかかわらず、首相が一度も選挙区に入らないという異例の選挙戦となった。案里氏と同様に公選法違反で起訴され、議員辞職した河井克行氏の地盤、広島3区をめぐり、次期衆院選で公明党が候補を擁立することになったことにも自民党県連から反発が出ている。
都議選との同日選は見送り、解散は秋へ
3選挙で全敗した背景には、政府・与党の新型コロナウイルス対策もある。ちぐはぐな対策により東京や大阪では3度目の緊急事態宣言が出され、ワクチンの普及も2%に満たず遅々として進んでいない。菅首相は選挙結果を受けて「コロナ対策に最優先で取り組む」と表明。一時、観測の浮上していた衆院選と7月の東京都議選との同日選は見送りが確実となった。
7月4日の都議選が終わるとすぐにオリンピックが始まり、パラリンピックが終わるのは9月5日。そうなると首相が衆院を解散するタイミングは秋しかない。首相が解散・総選挙を戦ってから総裁選に臨むか、総裁選が終わってから総選挙に臨むかのどちらかとなる。
「ポスト菅」の有力候補の一人で、前回総裁選を戦った岸田文雄政調会長は地元広島での再選挙を落とし、さらなる求心力低下が必須。目下、一番人気の河野太郎氏は菅政権の重要閣僚であり、首相と戦うことは想定しづらい。2番人気の石破茂元幹事長も前回総裁選以降、党内での支持は減る一方。となると次期衆院選における与党の顔は菅首相しか考えにくい。
今回、3勝した野党は勢いづきそうだが、野党共闘の成果というよりは、与党の“敵失”とみるべきだ。日本経済新聞が4月23~25日に行った世論調査によると、内閣支持率が47%で2ポイント増、自民党の政党支持率が47%で4ポイント増となった一方、立憲民主党の支持率は9%で2ポイント減だった。劇的な勝利を挙げた広島でも野党が票を伸ばしたのではなく、与党が票を減らしただけだ。
野党は勝利に浮かれるのではなく、支持の伸び悩みを解消するための方策を練るべきだ。東日本大震災で右往左往した民主党政権時代と同じ顔ぶれでは、コロナ過における政府のかじ取りを任せたいとは到底思えない。