「個人自立社会」への転換 人材のスキルシェアリングから始まるレジリエンスの向上

撮影:小池彩子

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「個人自立社会」への転換 人材のスキルシェアリングから始まるレジリエンスの向上

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多様な価値観の広がり、働き方の多様化のなかで「企業依存社会」から「個人自立社会」への転換が求められている。「個人自立社会」は社会に何をもたらし、何を変えるのか。あらゆる人材に対して、スキルや経験を活かし活躍する機会を提供する株式会社パソナJOB HUBの代表取締役社長である髙木元義さんに話を聞いた。

株式会社パソナグループ 常務執行役員広報本部長 兼 株式会社パソナJOB HUB 代表取締役社長

髙木元義 たかぎ もとよし

専修大学経済学部卒、グロービス経営大学大学院MBA修了。2000年、株式会社パソナに入社。丸の内エリアや金融業界などを担当する部門の営業責任者を経て、株式会社パソナグループにて人事・人財開発責任者を担当。同時期に、働きながら経営大学院で経営・事業推進力を磨き、人財開発部長・大学院生・サッカーコーチというトリプルキャリアを実践。2018年よりパソナグループ 常務執行役員 広報本部長(現職)、2020年8月より株式会社パソナJOB HUB 代表取締役社長に就任。

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スキル、ノウハウ、経験がある人材が複数社で活躍する社会

デジタル技術の進歩による産業構造の高度化や、新型コロナウイルス感染症の拡大により、テレワークの浸透や副業(複業)の拡大、地方移住やワーケーションの推進など、企業や個人を取り巻く環境の変化が著しい。他方で少子高齢化による将来の働き手の不足は、日本の未来に漠然とした不安を広げている。

株式会社パソナJOB HUBの代表取締役社長・髙木元義さんは、そのような状況のなかで、終身雇用で1社に人生を委ねる「企業依存社会」から、一人ひとりが、雇用という概念にとらわれず自分のライフスタイルに合わせて働く「個人自立社会」へ変わりつつあると語る。

「日本型経営のあり方は、変革のときを迎えています。戦後から続く年功序列制度や、社風や風土にマッチする人材育成などは、これまでは大変有効に機能してきました。しかし、それは右肩上がりの経済において成り立つ会社のあり方であって、未来永劫続くとは限りません。いまは企業に依存して、大企業に入れば安泰という時代ではなくなってきています。

日本のGDP(国内総生産)は世界第3位。2050年も概ね4位と推定されており、日本には非常に高いポテンシャルがある企業も多いといえます。ただ、これからも世界の経済をリードしていく存在であるためには、外部環境の変化に柔軟に対応し、さらなる変革を行っていかなければいけません。そのための一つの手段として、スキルやノウハウ、経験を持つ人材が1社に限らず、複数の企業で活躍する社会の仕組みは、非常に有用であると考えています。

福澤諭吉の『学問のすゝめ』に『一身独立し、一国独立する』という言葉がありますが、個人がそれぞれの価値観に基づき自立してキャリアを築いていくことで社会全体が豊かになる、つまり『個人自立社会』の実現です。今はそういうパラダイムシフトが起こっている段階だと思います。個人にフォーカスしていますが、俯瞰的に見ると日本全体の生産性が向上し、一人ひとりがイキイキと働くことで、心豊かな社会につながると考えています。」(高木さん、以下同)

株式会社パソナJOB HUBの代表取締役社長・髙木元義さん(撮影:小池彩子)

プロフェッショナル人材を顧問に招くメリット

株式会社パソナJOB HUBは、まさにそういったさまざまなスキルや経験、ノウハウがある人材を企業の経営課題に合わせて紹介し、課題解決を支援する事業を行う。昨今は、役員・管理職経験者や専門領域を持つプロフェッショナル人材を“顧問”というかたちで企業とつなぐ「顧問コンサルティングサービス」のニーズの高まりが顕著だ。

「現在、専門家の登録者は8000人ほど。顧問というと60代、70代のぐらいをイメージされがちですが、実際はそういった方々は6割ほどで、20代から40代の人材も多数登録されています。多くの方が『元・CxO』など、経営経験を持つ本当のプロフェッショナル。悩んでいる経営者やさまざまな経営課題を抱える企業に対して、自身のスキルや経験を活かせるならば……と登録いただいています」(高木さん)

CxO

Chief(組織の責任者)とOfficer(執行役)を組み合わせた経営用語で、企業活動における業務や機能の責任者の総称。xは代入される頭文字で職務や職責が変わる。例えばEならばCEO(Chief Exective Officer)で最高経営責任者、FならばCFO(Chief Financial Officer)で最高執行責任者となる。

企業のコンサルティングということであれば、経営戦略からITやシステム化までフォローするコンサルティング会社やシンクタンクも多数あるが、パソナJOB HUBは何が違うのか。

「われわれは企業経営者とプロフェッショナル人材をマッチングし、経営課題の解決を行う役割を担っています。案件の多くは、コンサルティング会社に相談するような内容ですが、当社のサービスのように組織ではなく個人のプロフェッショナルであればコスト的にも抑えられ、特殊な事例にも柔軟に対応ができます。

例えば、ある大手医薬品メーカーがイスラエルのベンチャー企業の買収を検討していたことがありました。しかし買収の決め手に欠けるため、アドバイザーとして医療に詳しく、イスラエルにも詳しい人を求めていました。そこで、パソナJOBHUBの登録者から2名の顧問をご紹介し、プロジェクトに参画。その結果、企業が納得のいく答えを導き出すことができました。このように、必要な人材を必要な期間だけ柔軟に活用して課題解決ができるのは、顧問コンサルティングサービスの大きな強みではないでしょうか。

また、設立間もないベンチャー企業などは、どれだけ優れたサービスや技術を持っていても、実績が乏しいため大手企業との協業や契約はハードルが高いのが現状です。そんなときに、顧問を活用して大手企業を紹介してもらうことで、決裁権者に直接自社の強みをアピールすることができます。

顧問になる方々は、自分の会社を持って兼業している方もいれば、顧問として5~10社と契約しながら働いている方もいます。このように、多様な顧問の働き方があり、ハイレイヤー人材のワークシェアリングは非常に進んでいると感じます」(髙木さん)

「パソナ顧問コンサルティングサービス」 顧問が支援を行う様子。経営課題の解決だけでなく社員育成にもつながっている

パソナJOB HUBに顧問登録をしている高木友博さん(60代)は、複数の企業の社外取締役、顧問を兼任。普段は明治大学の理工学部の教授を務め、計算型人工知能の世界的権威でもある。松下電器産業(現パナソニック)では、研究に加えて事業企画の経験もあり、これまで顧問としてDX(デジタルトランスフォーメーション)で多くの実務実績がある。高木友博さんは顧問という仕事を通して、企業にとっての顧問コンサルティングサービスの活用における注意と有用性について次のように語る。

「企業が抱える課題に対して適切な顧問と会うことができれば効果は非常に大きいと思います。ですが、最初から完璧にマッチングすることは難しい。私も多くの企業の方にお会いしてきましたが、その企業の背景、社員のスキル、実行能力、解決したい課題、課題の大きさなど一様ではなく、時間をかけなければわかりません。

もちろん私たちは早く理解するように努めますが、企業側も顧問が万能だと考えるのではなく、適切な協業の形や内容を探索する努力が必要だと感じます。その結果、社外のプロフェッショナル人材を含めた適切なチームを作ることができれば、それまで社内に存在しなかったスキルを取り入れられ、ビジネス課題の解決だけでなく、さらに社内の人材育成にもつながるため、効果は非常に大きいでしょう」(高木友博さん)

人材のスキルシェアリングを通じたレジリエンスの向上

パソナJOB HUBでは、“ミドルレイヤー”と呼ばれる人たちの活躍の場も提供している。

「ミドルレイヤーは、副業(複業)やフリーランスとしての活動などを通じて、自分たちのスキルを企業に提供している方たちですが、経験を積み重ねていくことで将来的に、ハイレイヤーのいわゆる“顧問”になっていく方が多いと思います。

パソナJOB HUBでは、地域企業と都市部の複業人材をマッチングする『JOB HUBローカル』という事業を行っています。この事業は、経営課題を抱えた地域企業に対して、副業(複業)を希望する都市部の人材とのマッチングを行います。オンラインや現地での交流を通して、双方が理解を深めた後、複業人材が企業に経営課題の解決に向けた提案書を提出します。企業が承諾し契約が決定すると、複業人材は時にはアドバイザーとして、時には実務にも携わる形で支援を行っていきます。若い方は特に、『自身のスキルアップにもつながる』と意欲的で行動力もあり、企業ニーズに対して柔軟に活動してくださいます」(髙木さん)

「JOB HUB ローカル」都市部の人材が地域企業を訪問し、企業理解を深めている様子

こういったハイレイヤー、ミドルレイヤー人材の知見やスキルを企業がシェアしていく形は、今後どんどん進んでいくと髙木さんは語る。

「そうなると、社会の変化に対して会社や個人のレジリエンス(適応力)が高まっていくでしょう。レジリエンスが高まると社会に活力も生まれる。生産性も向上されますし、ハイレイヤー、ミドルレイヤーたちの知見やスキルを目の当たりにすることで、『ああいう風になりたい』と刺激を受ける人も現れるでしょう。日本の働き方や組織、雇用の在り方に変革を起こし続けることが私たちパソナJOB HUBの指名、役割だと考えています」(髙木さん)

人材のポートフォリオを柔軟に変えていくのが今後の経営

今後、人材のスキルシェアリングによる社会の活性化が期待されるが、その一方で、自分のキャリア形成のために主体的に「1社で働く」という選択肢を選ぶ人もいるだろう、と髙木さんは考える。

介護や育児をするために、限られた時間でしか働けない方、今は仕事よりもプライベートに重きを置きたい方など、働く方たちの価値観やライフスタイルはさまざまです。中には1社で長く勤めたいという人もいるでしょう。企業もいろいろな人たちがバランス良く働くことによって、企業としてのレジリエンスが高まると思います。

例えば新規事業に挑戦するときは社外から知見やスキルを持った人材を増やし、ビジネスモデルが固まって成長軌道に乗ってきたら、それをしっかりと実行してくれる人材を増やすなど、企業の環境や置かれている状況によって人材のポートフォリオも柔軟に変えていくことが今後の経営のあり方ではないかと思います。

大事なのは企業が柔軟性とレジリエンスの強い社員の育成をするということ。それが今後の経営の本質だと思います」(髙木さん)

人材の育成や企業経営の変革というのは一朝一夕で成し遂げられるものではなく、すぐに結果が出ないこともあるだろう。しかし、挑戦しなければ何も始まらない。パソナJOB HUBが支援するのは、ハイレイヤーやミドルレイヤーなど変革に挑戦している人たちがたくさんいる現場だ。それはきっと、新しい働き方を提供するだけでなくその先の豊かな社会の創造にもつながっている。

株式会社パソナJOB HUB

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