通常国会が6月16日に会期末を迎える。9日には与野党トップが“直接対決”したが、東京オリンピック・パラリンピックの開催や会期延長をめぐる議論はかみ合わず。野党は3カ月程度の延長を求めているが、政府・与党は7月の東京都議選に集中するため延長しない方針だ。野党は内閣不信任決議案を提出する構えを見せており、秋までに行われる衆院総選挙を視野に、与野党は最後の攻防を繰り広げる。
かみ合わない党首討論
「国民の命と健康という観点で最大のリスクは、五輪開催を契機として国内で感染拡大を招くことではないか」(立憲民主党・枝野幸男代表)
「感染対策、水際対策を徹底して安全、安心なものにしなければならない。海外から来る大会関係者は当初18万人といわれたが半分以下に絞る。それをさらに縮小する方向で今、検討している」(菅義偉首相)
6月9日に行われた2年ぶりの党首討論で、菅首相は立憲民主党の枝野代表を相手にこれまでの発言と同様に「安全、安心」とのフレーズを繰り返した。その後、首相は当時、高校生だったという1964年の東京オリンピックの思い出話を披露。枝野氏が「総理の話はここにはふさわしくなかった」と苦言を呈するなど、最後まで“討論”はかみ合うことがなかった。
最後に登場した共産党の志位和夫委員長は「今、命をリスクにさらしてまで五輪を開催しなければならない理由を答えてください」と追及したが、首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務ですから、そうでなければできない」と答えるにとどめ、明確な答弁を引き出すことはできなかった。
立憲民主の枝野氏は「補正予算の議論や感染症対策のための新たな立法が緊急に必要になる場合が想定される。国会が閉じていれば協力のしようがない」として会期延長を求めたが、首相は「国会のことは従来通り今国会で決めてもらいたい」とかわした。
今国会で成立した重要法案は?
通常国会は毎年1月に召集され、会期は150日間と決まっている。2021年は1月18日から6月16日まで。通常国会は1回だけ会期を延長することができるが、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年は通常国会を延長せず閉会した。
今国会では新型コロナワクチンの接種体制整備や時短要請に応じた飲食店への協力金などを盛り込んだ2020年度第3次補正予算や過去最大となる歳出総額106兆円の2021年度予算、菅内閣の目玉政策であるデジタル改革関連法などが成立。憲法改正の手続きを定める改正国民投票法も国会提出から3年の月日を経て、11日の参院本会議で可決、成立する見通しだ。
一定以上の収入がある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる改正高齢者医療確保法や、一部の高収入世帯の児童手当を廃止する改正児童手当関連法も成立。新型コロナウイルスに感染し、自宅や宿泊施設で療養する患者に選挙での郵便投票を認める法案も今国会で成立する見通しとなった。建設現場でアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けた人や遺族のうち、未提訴の被害者を救済するための給付金創設法も成立。2022年春から一人あたり550万~1300万円の支給が始まる見通しとなった。
残る重要法案のうち、自衛隊の基地や原発など国家の安全保障上重要な施設周辺の土地利用を規制する法案は6月1日に衆院を通過し、4日に参院で審議入り。一部の野党が「準備不足で穴の多い法案。私権が制限されたり、プライバシーが侵害されたりすることへの歯止めをどうかけていくのか、線引きができていない」(立憲民主党・安住淳国会対策委員長)などと反対しているが、与党は今国会で成立させる方針を固めている。
出入国管理法改正案等は見送り
一方、外国人の収容や送還のルールを見直す出入国管理法改正案については、名古屋出入国在留管理局の施設でスリランカ人女性が亡くなったことへの批判が高まったことを受け、与党が今国会での成立を断念。秋の衆院解散に伴い、廃案になる見通しとなった。
与野党内では新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて追加経済対策を求める声もあるが、会期延長を見送ることで審議日程が確保できないとして、政府は2021年度補正予算案の提出は見送った。LGBTなど性的少数者への理解増進を図るためのLGBT法案についてはいったん与野党で合意案ができたものの、自民党内で保守系議員から異論が噴出。党内で了承を得られず、今国会への提出が見送られた。
内閣不信任決議案は淡々と否決し、国会を閉会
残り少ない会期中の注目は土地利用規制法案など未成立の法案の行方と、内閣不信任決議案をめぐる与野党の攻防だ。
立憲民主党の枝野氏は党首討論終了後に「五輪の安全性と意義、補正予算、会期延長、3つのゼロ回答が明らかになった」と指摘。10日に共産党、国民民主党、社民党と党首会談を開き、内閣不信任決議案の提出に向け調整に入ることとなった。
自民党の二階俊博幹事長は「覚悟を持って不信任案を出される場合はどうぞ。直ちに解散します」とけん制しているが、政府・与党内では現時点で総選挙を実施すれば感染拡大につながりかねないとの見方が多い。新型コロナワクチンの接種が進んでいない現状では与党に不利だという判断もあり、野党が内閣不信任決議案を出しても淡々と否決し、国会を閉会する方針だ。
首相の念頭には秋に向けてワクチンの接種を一気に進め、支持率を回復させたうえで衆院を解散。大型の経済対策を公約に盛り込んで総選挙に勝ち、国民の信を得て自民党総裁にも再任される、というシナリオがあるもよう。そのシナリオが成立するかどうかは、ワクチンの接種が首相の想定通りに進むかどうかによるだろう。