共生社会の障害者雇用を考える

カエルは環境に対応するために多様な進化を遂げたといわれる 写真:ロイター/アフロ

社会

共生社会の障害者雇用を考える

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少子高齢化が進んだ日本は、年齢や障害の有無にかかわらず社会参画ができる共生社会の構築が求められています。その一つとして障害者を社会から疎外し一方的な支援を行うのではなく、障害者も社会に参画し、自分らしい生き方ができるような環境づくりが進められています。しかしながらまだまだ問題点は多く、特に就労の場面で大きな壁があります。雇用の観点からその問題を考えてみたいと思います。

障害者雇用の実態

障害者雇用率制度により、企業は一定率の割合で障害者を雇用する義務があり、達成できなければ納付金が発生したり、罰金や企業名の公表等のペナルティーを受けなければいけません。しかし2018年、中央省庁において障害者手帳を所持しない人を障害者とカウントしたり、本人に確認もなく勝手に障害者とした「障害者雇用水増し問題」が発覚し、民間にペナルティーを科しながら行政機関が満たしていないということで、障害者雇用がクローズアップされました。

2020年2月21日、厚生労働省は2019年12月末時点で公的機関の法定雇用率を満たしたと発表しましたが、その実は、公務員試験を通じた正規雇用ではなく、多くが非正規雇用で法定雇用率を満たしたものです。また、一般企業でも法定雇用率を満たすため、本業と全く関係のない障害者が働く事業所を買収するなど、本質的に障害者が社会参画する社会形成に向かっているのかは疑問です。

外見からは見えない障害

障害者の定義には、身体障害、知的障害、精神障害があり、知的障害と精神障害にまたがるものとして発達障害があります。発達障害は1980年代より認知され始め、発達障害者の総合的な支援を目標とした「発達障害者支援法」が2005年に施行されさまざまな支援がされるようになりました。

しかし、発達障害は外見からは見えない障害のため、また、症状が多岐にわたるためなかなか障害を理解してもらえません。遺伝的要因や脳の機能の問題にもかかわらず、努力不足や、親のしつけが悪いと不当に非難されたり、就職活動では、何社も受けたのに内定が出ない、働いている職場の無理解から組織から疎外されるなど、社会に受け入れられず、本人に非があるわけではないのに苦しんでいる人が多いのが現状です。

実際に私の経営する公務員受験予備校でも学生の就職の支援をしていて一番苦しんでいるのが発達障害、または発達障害の傾向を強くもつ人たちです。前段が長くなりましたが、今回は障害者雇用の中でも発達障害に着目してみたいと思います。

発達障害の種類

発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスから、自分の置かれている環境や人間関係で問題が生じ、社会生活に困難が生じる障害の総称のことをいいます。代表的なものとして、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠如・多動症、注意欠陥・多動性障害)、LD(学習障害)があります。

ASDは、社会的なコミュニケーションや他人とのやりとりが苦手で、こだわりが強く、興味や活動が偏るといった特徴を持っています。

ADHDは、年齢あるいは発達に不相応に、不注意、落ちつきがなく行動をコントロールできない多動性、感情を押さえられない衝動性を特徴とします。

LDは、知的発達には遅れなどがないが、ある特定の領域で学習に困難が生じるのが特徴です。

突然ですが、あなたに当てはまる項目はありますか?

  1. 会議などで空気を読まず発言したり、無意識で人を傷つける発言をしてしまう
  2. 相手の目を見るのが苦手で、表情が乏しいといわれる
  3. 予想外のことが起きると、うまく対処できない
  4. 音、照明、気温、物の形に対して人より敏感(鈍感)
  5. 手先が不器用
  6. 細部にとらわれて、物事を最後まで成し遂げることが苦手
  7. 学業・仕事中に不注意な間違いが多い
  8. 他の物に注意が移り、注意を持続することができない
  9. 物事の優先順位をつけるのが苦手
  10. よく物をなくす
  11. 片付けや整理整頓が苦手
  12. 落ち着いてじっとしているのが苦手
  13. 約束や時間、期限を守るのが苦手
  14. 相手に自分を合わせるのが苦手
  15. 皮肉や例え話が理解できない
  16. 暗黙のルールが理解できず、集団行動で困ったことがある
  17. 難しい言葉や表現を好んで使ってしまう
  18. 変化に対応することが苦手
  19. 臨機応変、柔軟な対応ができない
  20. 文章を読むことに何かしらの困難を感じる
  21. 文章を書くことに何かしらの困難を感じる
  22. 計算や図形、グラフの理解が苦手

私自身該当する項目がありますが、誰しもが複数個は自分に当てはまる項目があるのではないでしょうか? 実は、これらは発達障害の具体的症状の一例で、1~6がASD、7~19がADHD、20~22がLDの症状です。

予備校でも障害者のコースを設け就職の支援をしていますが、障害を持つ学生に接していて私が感じるのは、彼らは誰しもが持つ特性の凸凹が激しいだけで、能力が無いわけではなく、仕事をする能力を持っている方がほとんどだということです。さらに、一部の人は「ギフテッド」と呼ばれ特定の能力が非常に高いケースがあります(注:ギフテッド≠発達障害)。

歴史上の人物では、アインシュタイン、エジソン、織田信長などはASD、コロンブスや坂本龍馬はADHDの特徴を持っています。現代では、俳優のトム・クルーズが文字の読めないLDであったことを告白していますし、最近ではテスラのイーロン・マスクがアスペルガー症候群であることを公表しています。ほかにも大きな業績を上げている起業家、スポーツ選手、芸術家、政治家、芸能人など多くの方が発達障害にもかかわらず活躍しています。時代背景や体制、環境が適合すれば発達障害は障害ではなく、強みになる可能性が十分あるのです。

これからは働く環境も変わる

そういったなかで、なぜ今の日本が発達障害傾向を持っている方が働く、生きることに困難を感じる社会なのかを考えると、高度成長以来の働き方や学び方が変わっていないという点が挙げられるでしょう。

同じ時間に出社し同じ時間に帰り、みんなで集まってコミュニケーションを密にとりながら画一的に働く日本式のメンバーシップ型は、空気を読んで忖度しなければならないなど、発達障害の傾向を持っている人には苦手なことばかりです。実際、経団連の「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」では、選考にあたって特に重視した点で「コミュニケーション能力」と答える企業が82.4%での1位、それも16年連続だったことからもわかります。

しかし、コロナ禍で働き方は大きく変わりました。テレワークなどオンラインや個人が中心となり、今までのコミュニケーションを前提としない仕事自体の成果が問われるジョブ型に移行しています。その結果、コスト削減と効率性に気づいた経営者はアフターコロナでもこの体制を続けていく可能性は高いでしょう。

コミュニケーションの方法も、同じ場所にいなければいけないリアルからオンラインに変わりました。発達障害を持つ人は、オンラインでのコミュニケーションが得意という学術論文もあり、今後は発達障害傾向を持つ人の本来の仕事能力を発揮でき、困難さが減少する可能性が高い上、活躍する場や機会も増加すると考えられます。

また、学校でもオンライン学習の結果、それまでクラスに溶け込めなかった自閉症の児童が元気に溶け込み、逆にクラスの中心だった児童がコミュニケーションを取れずふさぎ込んでしまったという報告もあります。

つまり発達障害は、もって生まれた能力と社会環境の適合性の問題なのかもしれません。社会が大きく変わりつつある今、発達障害といわれている人も、自分の能力を十分に発揮できるようになるかもしれません。

では発達障害の人が働きやすい環境を考えてみます。

  • 好きな時間に働ける、休める
  • 好きな場所で仕事ができる
  • 基本的に嫌な人と無理にコミュニケーションをとならなくていい
  • いやな仕事を無理強いされない

症状により求めるものは違いますが、こんな感じではないでしょうか。そんな職場は無いだろうと思うかもしれませんが、世界を牽引しているGoogle、Amazon、Facebook、AppleらいわゆるGAFAといわれる成長企業の職場はそのような環境だといわれています。

もし共生社会に向かうことを受け入れるのなら、経営者は今までの職場環境をリセットし、発達障害傾向を持つ人の才能を生かす環境作りをすることが不可欠です。それが企業成長のカギになるかもしれないのですから。

共生社会を促すための政策を

現在、発達障害者に対する支援は、「発達障害者支援法」などで発達障害支援センターを設けたり、受け入れた企業には助成金を交付したりするなど、政府や自治体も力を入れています。しかし、主に発達障害者に対して一方的に支援する制度がほとんどです。

共生社会を実現する上では、社会、会社、学校などで発達障害者を自然に受け入れ、現在障害を負っている人がストレスを感じないような環境づくりが重要なのではないでしょうか。その鍵になるのが“理解”だと考えます。

発達障害の特性である空気の読めない発言も特性だと理解できていれば受け入れられます。曖昧な指示が苦手な特性であれば、明確に指示を出すようにすれば仕事に支障はきたしません。マルチタスクの苦手な人には、シングルタスクで仕事を行ってやればよいのです。

しかし、厚労省の「平成30年障害者雇用実態調査」によれば、発達障害者雇用の方針として、「積極的に雇用したい」が5.5%、「一定の行政支援があれば雇用したい」が14.4%、「雇用したくない」が22.0%、「わからない」が58.2%と、企業の側が“理解”を示す姿勢が乏しいことがわかります。

共生社会実現のためには、企業や社会の理解を深めるような政策が必要です。例えば、見えない障害を見えるようにするような政策、障害の特性を公的機関が証明するようなシステムが存在し、それを基に企業が理解した上で自社の仕事に適合するかどうか判断し採用すれば、障害者採用の問題は大幅に減少し、また企業も理解が深まるのではないでしょうか。

障害は人類多様性

私自身が障害者の学生とかかわりを持ち、学び、感じたことは、障害といわれるものは障害ではなく、人類多様性なのではないかということです。

人間はさまざまな特性を持っており、皆、必ずといっていいほど発達障害傾向の特性を持ち合わせています。現在(自称)健常者といわれる人も現在の時代や体制、環境に適応できているだけで、異なる能力が求められる戦国時代、第2次世界大戦時、明治時代などで活躍できたかどうかはわかりません。

その意味で、発達障害者を障害者とするならば、私は「僕らはみんな障害者」だと言いたい。発達障害のみならず、あらゆる障害を持つ人たちを“理解”することが、少子高齢化を迎えた日本にとって、共生社会、持続可能性を実現するために最も必要なことではないでしょうか。