ワクチン接種で新型コロナの規制撤廃する国々、一方で再規制も

「EURO2020」で6万5専任を収容した英ウェンブリー・スタジアム 写真:AP/アフロ

社会

ワクチン接種で新型コロナの規制撤廃する国々、一方で再規制も

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英オックスフォード大の研究者らによるデータベース「Our World in Data」によると、世界のワクチン接種は欧米諸国を中心に進み、8月6日現在、全人口の29.7%が1回以上接種し、2回接種が完了した人は15.3%だ。日本は現在ワクチン不足に陥っているとはいえ、欧米諸国に比べて後発ながら人口の約半分の人たちが1回以上接種した。東京五輪はほぼ無観客で行われているが、欧米ではすでに観客を入れた大規模なスポーツイベントが開催されるなど、ワクチン接種が進んだ世界が見えてきた。それは各国政府が今後コロナをどのような存在として扱うのかという表れでもある。

新型コロナと共存することを決めたイギリスやシンガポール

世界の政府各国は新型コロナウイルスの新規感染者の拡大を抑えることを主眼とする防疫対策を行ってきたが、ここへきて大きな政策の変更があったのがイギリスとシンガポールだ。

イギリスの2回目接種完了率は8月5日現在58.6%、1回以上接種は7割を超える。7月19日からソーシャルディスタンス、屋内のマスク着用義務、スタジアムの収容人数制限解除などほとんどの規制を撤廃。その前の7月11日には、サッカー欧州選手権「EURO2020」の決勝をロンドンのウェンブリー・スタジアム(収容人数9万人)で開催したが、観客動員数を75%まで認め6万人以上が入場した。これは明らかに制限解除を見据えての実験だった。

ドミニク・カミングス前英首相上級顧問は、ジョンソン首相は「死ぬのは高齢者だけ」という発言をしたとBBCのインタビューで答えたが、発言の有無や是非は置いておいて、経済活動再開のため、日常生活を取り戻すためには一定程度の犠牲はやむを得ないと覚悟を決めたことは間違いなさそうだ。

規制撤廃された7月19日は“自由の日”と呼ばれた。ナイトクラブも解禁。 写真:ZUMA Press/アフロ

シンガポールのオン・イェクン保健相らは6月下旬に、ロックダウン、一日ごとの集計体制を撤廃し、隔離無しの移動も認めるなどという方針を明らかにした。また、新型コロナウイルスをインフルエンザなどと同じ扱いにするという。なお接種完了率は8月4日現在で63.4%と、感染拡大を抑制しやすい集団免疫を獲得するといわれている接種率7割に近づいている。

簡単にいえば、新型コロナウイルスが撲滅することほぼありえないことから、両国とも新型コロナとの共生を選んだということだが、世界的にもこの考えが今後、主流になっていきそうな気配はある。

中国はあくまでゼロ方策、香港も影響を

イギリスやシンガポールと比べると対照的なのは中国だろう。中国の武漢は最初に新型コロナの感染が最初に始まったが、強権を行使できる政治体制を利用していち早く新型コロナの封じ込めに成功した。数字のからくりがいろいろあるとしても、日本や欧米諸国と比べると経済活動も活発で、日常生活もかなり戻っている。中国政府は自身の防疫対策に自信を強め、基本的に新型コロナはゼロを目指す方策をとっている。なお、中国の接種完了率は不明だが接種回数は8月6日現在で17億5千回を超え世界全体の約4割を占める。

香港は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験を生かして、強制隔離期間を世界最長の21日間にすることでデルタ株の侵入を抑え、ロックダウンをせずに市中感染がほぼなくなった。そのおかげで、レストランもかなり活気を取り戻し、ショッピングモールでは東京オリンピックのパブリックビューイングすら行われている。

ワクチン接種完了率は8月8日現在35%。2月26日から始まって約5カ月が経過し、人口がわずか750万人という数字を考えると高いとは言えない水準だ。しかも、ワクチン量は人口の3倍確保しワクチン不足に陥ってもいない。

これは、2019年の逃亡犯条例改正案に端を発したデモが尾を引いて政治不信になっているためで、PCR検査やワクチンを打てば個人情報が中国に流れるのではないかという噂が流れていることが要因の一つにある。

香港のワクチン接種会場。人の数はまばら。

香港国家安全維持法が制定されても依然として世界の金融の中心地となっており、香港政府としてはある程度、渡航を解禁したいと考えているが、中国政府の「ゼロコロナ」政策に引っ張られる形で政策転換をしにくい状況だ。

再びマスク着用を始めたアメリカとイスラエル

アメリカは、スポーツ観戦は人数制限があるものの有観客で、ブロードウェイは9月から人数制限なしで再開することが決まっている。8月6日現在の接種完了率は50.5%だ。ワクチン接種の高まりを受けて米疾病対策センター(CDC)は5月13日にワクチンの接種を完了した人はマスクをつけなくてもよいと定めた指針を発表したが、その後、ワクチンを接種していな人を中心に新規感染者が増加傾向を示したため、感染状況が深刻な地域ではワクチン接種を完了していても屋内ではマスクを着用するよう勧告し直した。

ワクチン接種が先行して進んだといわれるイスラエルの接種完了率は8月6日現在、59.6%だ。4月早々に屋外でのマスク着用義務を廃止し、6月15日からは屋内でのマスク着用義務も原則解除したが、わずか10日後の6月25日にデルタ株による新規感染者の拡大を受けて屋内でのマスク着用が再び義務付けられた。

これは、ワクチンを接種すれば一定の感染予防効果はあるが「もう感染しないから安心」というのは誤解ということを示したといえるだろう。世界では変異株が広がっており、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタに加え新たな変異株も見つかっている。国や地域によって感染拡大の状況は異なり、それに伴って規制維持や規制撤廃、再規制の対応は変わってくるということになる。

日本は接種率が向上、マスク着用をし続けると…

日本のワクチン接種は欧米諸国と比べると明らかに開始が遅れた。一日100万回接種の目標も当初は難しいと思われたが、実現できたのは日本が強みとする“現場力”の強さといえるだろう。それが結果としてワクチン不足を引き起こすのだから、日本政府の見通しの甘さはどうしようもない。とはいえ、その現場力のおかげで接種回数は現在世界トップクラスといっていいだろう。接種完了率は8月5日現在で32.9%まで伸びてきた。

基本的に日本人は欧米人よりは政府の意向を遵守する傾向にあり、マスク着用にも抵抗感が少ない。一部の欧米諸国はマスク無しを始めたことで、ここへきて再び感染拡大が始まっているが、日本がワクチン接種率の向上とともにマスク着用続けるのであれば、将来的には欧米よりも先に経済が回りはじめる可能性もあるかもしれない。

経済と防疫対策のバランスの最適解はいまだ見つかっていないが、ワクチン接種率とマスク着用率の両方の数値の高さが経済正常化に向けての第一歩になりそうだ

ただ、ワクチン接種率は発展途上国を中心に依然として低い。やはりワクチンが世界の隅々に広まらない限りどこかに感染の火種が残ることから、新型コロナが落ち着くにはもうしばらくかかるだろう。