グリーン、ブルーにターコイズ…7色で表す水素は何が違う?

2021.9.25

技術・科学

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グリーン、ブルーにターコイズ…7色で表す水素は何が違う?

将来、環境対策をしながら今以上のエネルギーをどうやって確保するか、という問題は日本にとって想像以上に深刻だ。特に電力は厳しく、電力構成の7割を占める化石燃料を大幅に減らしつつ、再生可能エネルギーや原子力等のCO2排出が限りなくゼロの発電へのシフトを無理やり推進しなければならない。そんななかで、資源の少ない日本で活用したいのが「水素」だ。生成方法がさまざまあり、それ自体が燃料になるほか、「混焼」という形で他の発電方法のブーストにも使用でき活用の幅が広い。一方でサプライチェーンの構築に難があるという課題もあるのだが、今後の可能性を考えてみたい。

たかが1%が原発1基分

2021年夏にまとめられた「第6次エネルギー基本計画」案では、菅政権の“鶴の一声”で2030年度の温室効果ガス(大半はCO2)の削減目標は2013年比46%削減へと大幅に高められたために、計画を立案した経済産業省・資源エネルギー庁サイドは辻褄合わせで大慌て。「表舞台はもう少し先」と考えていた「水素」を急遽スターティングメンバーに抜擢、2030年における日本の全発電量の1%を「水素(・アンモニア)発電」に担わせると宣言した。

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「たかが1%」と思うかもしれないが、日本における2030年度の総発電量は約9300~9400億kWhと想定しており1%は90億kWhに相当。平均的な原子力発電所1基分(出力138万kW、稼働率8割換算で年間約97億kWh)とほぼ同じでかなりのパワーだ。

しかも目標達成のための“苦肉の策”感がプンプンする「水素発電」計画であるため、さまざまな疑問が頭をよぎる。「必要量を安価・安定的に調達可能か」という点もそうで、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によれば、現在の国内水素供給量は約150億Nm3(Nm3:N(ノーマル)=標準状態/0℃・1気圧での気体容量)だが、この大半は石油を原料に製油所で生成、つまりは化石燃料由来で、そのほとんどは燃料用として自社消費され、市中に出回るのはほんの2~3億Nm3程度。ちなみに世界の水素ガス生産量(2019年)はざっと3700億N㎥規模。

翻って同計画では、「水素100%」を燃料とする「水素専焼発電所」の設置に加え、既存のLNG(液化天然ガス)火力発電を用いて燃料の天然ガスに水素ガスを30%混ぜる「水素混焼」や、石炭火力発電所で水素と窒素からなるアンモニア(NH3)を20%混ぜる「アンモニア混焼」を推進するという。

気になるのがそれらに必要となる水素ガスの総量だが、NEDOは仮に2030年時で新設・更新するLNG火力発電所すべてが「水素50%混焼」仕様だとすれば年間220億Nm3が必要と予測。これを基に、仮にLNG火力すべてで「水素30%混焼」を実施したとしても単純計算で220億Nm3の7掛け=154億Nm3という値となる。もちろんこれはあくまでも目安で、「水素発電1%」に必要な水素ガスの量は大体このくらい、と考えてほしい。

これほどの量を安価かつ安定供給できるサプライチェーンづくりにもさまざまな課題・難問が待ち受けているようだが、それはさておき、水素=脱炭素で地球にやさしい、は現状では大きな誤りだという点に注視すべきで、この認識がない著名な“環境専門家”や“SDGs評論家”も少なくない。

「水素」には色がある!?

前述のように、現在国内はもちろん全世界で製造される水素ガスの95%は石油や石炭、天然ガスなど化石燃料が原料で、いわばガソリンや軽油などと同じ石油化学製品。化石燃料は主に水素(H)、炭素(C)、酸素(O)の組み合わせでできており、高温を加えることで(蒸気メタン改質法や自動熱分解法)水素(H2)と二酸化炭素(CO2)に分解、こうして水素ガスを生成するが、製造過程で出る副産物のCO2はそのまま大気中に排出されているのが実情。

水素ガスは無色透明、無味無臭だが、このように、化石燃料、特に天然ガス由来でCO2を排出する方法で生成された水素ガスのことを、“汚れた”意味を込めて「グレー水素」と呼ぶ。つまり、今のところ全世界で作られる水素の95%は「グレー水素」である。

これを含め色付きの水素は主なもので7種類もある。

グリーン水素

「脱炭素」アイテムとして最も望ましい自然由来の水素。ソーラー(太陽光発電や太陽熱発電)や風力・水力など再生可能エネルギーで作られた電力で水を電気分解し水素ガスを得る仕組み。生成過程では理論上全くCO2を出さない。

ブルー水素

グレー水素の中でもCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)技術を使って副産物のCO2を大気中に排出せずに製造された、化石燃料、特に天然ガス由来の水素のこと。“清浄化”の意味を込めてブルーが冠されている。

イエロー水素/パープル水素

原子力発電の電力で水を電気分解して生成される水素のこと。原発の燃料の原料となるイエローケーキ(ウラン精鉱)の色が黄色であることから。「パープル水素」と呼ぶことも。

※パープル水素は、「原発の電力を使った水素ガス生成」とは別に、バイオマスで発生したメタンガスから生成される水素ガスのことを指すこともある。

ブラウン水素

グレー水素の中でも石炭、とりわけ褐炭を原料に生成した水素のこと。褐炭が茶色いことから。

ホワイト水素

製鉄所の溶鉱炉の工程で副産物として発生する水素のこと。

ターコイズ水素

プラズマなどを使った直接熱分解方式で天然ガス(厳密にはメタン)から水素ガスを生成する。副産物の炭素はCO2ではなく固体として生成、大気に放出されないという最先端の方法。「ターコイズ」とは「トルコ石」のことで緑がかった青色を意味する。

このように「脱炭素」の旗手として有望株なのは「グリーン」と「ブルー」、将来的には「ターコイズ」も期待される。「イエロー」に関してはCO2を排出しない反面、核廃棄物という環境負荷物質を排出するため意見が分かれるところだろう。

課題はライフサイクルアセスメント

国際社会、特にEUでは「ライフサイクルCO2排出量」(ライフサイクルアセスメント/LCA)の概念が一般化しつつあり、見た目の「脱炭素」ではなく、生産から輸送、使用、廃棄までを網羅したトータル的なCO2排出量に着目する方向にシフト、もちろん水素ガスも例外ではない。

その上EUは「国境炭素税」の導入も検討、LCAの観点からCO2を大量排出する製品には高い関税をかけるというもので、もちろん「グレー水素」も例外ではないだろう。

日本の水素戦略は「量」と同時に「質」も求められ始めている。