選挙における政策論争として、外交・安全保障というのは国民の間で決して関心が高い分野とはいえない。だが、世界情勢はより複雑さを増しており、それは日本にとってより舵取りが難しいものになっている。なぜ、そう言えるのか。それは近年、特にバイデン政権以降の国際政治をとらえれば明らかだろう。
多国間で中国に対抗するアメリカ
2021年1月に脱トランプを掲げて誕生したバイデン政権は、発足以来、トランプ政権で冷え込んだ欧州との関係を改善させ、パリ協定や国連人権理事会などへの復帰を進めるなど、まさに“トランプ・アメリカ”の4年間を巻き戻しするかのような行動を取っている。しかし、政策課題によっては、脱トランプのバイデンもトランプ継承者である。その最たるが対中国だ。
バイデン政権も中国を最大の競争相手と位置付け、今日まで中国へ厳しい姿勢を貫いている。しかし、対中姿勢はトランプと同じでも、その手法は大きく異なる。トランプ政権はアメリカだけで中国へ対抗してきたイメージが強いが、バイデン政権はイギリスやオーストラリア、フランスやドイツ、そして日本など価値観を同じくする国々とタッグを組み、多国間で中国に対抗する戦略をとる。
それは、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国による枠組みQUAD(クアッド)や、アメリカ、イギリス、オーストラリアの3カ国で創設した安全保障協力AUKUS(オーカス)など、インド太平洋地域でバイデン政権が中国を意識した多国間枠組みを強化しようとしていることからも明らかだろう。
また、2021年はイギリスやフランス、ドイツやカナダなどアメリカ以外の欧米諸国の空母やフリゲート艦が日本近海を航行し、自衛隊と合同訓練を実施するだけでなく、フランスやオーストラリアなどの議員団が相次いで台湾の蔡英文政権を訪問。中国の習近平政権のいら立ちや警戒心もこれまでになく高まっているだろうが、これらもバイデン政権が重視する多国間対中牽制網の延長線上でとらえることができる。
日本にとって中国に代わる国は無い
一方、日本は中国と同じく東アジアを構成する国で、中国は依然として日本にとって最大の貿易相手国である。経済界でチャイナリスクを警戒する動きもあるが、全体でみればそれほど大きな動きではなく、中国での事業縮小や撤退を進める企業は依然として少ない。それどころか中国市場の重要性を再発見し、事業拡大を狙う動きや、「中国に取って代わる国が無い」との声も聞かれる。
このような日本が抱える安全保障と経済の実情は、岸田政権の対中政策を困難にする。
トランプ政権は日本の対中姿勢はそれほど意識していなかったように思う。しかし、バイデン政権は多国間で中国に対抗する戦略を重視しており、トランプ政権よりは日本の対中姿勢を意識していると考えられる。
また、イギリスやフランス、ドイツなど他のG7諸国が対中でバイデン政権と結束を深めることも、日本の対中姿勢を描く上で悩みの種となろう。
反対に、日本と中国との深い経済関係を考慮すれば、バイデン政権と完全に足並みを揃えるという選択肢は取りづらく、米中対立が欧州などを巻き込む形で拡大するなか、日本はその狭間で最も均衡の取れた折衷点を発見することになるだろう。
リミット迫る、北京五輪の外交ボイコット
しかし、その機会はすぐに訪れそうだ。2月の北京冬季五輪だ。バイデン政権は発足当初から北京五輪の外交的ボイコットをちらつかせてきたが、2021年12月6日に政府代表団を送らないと発表。続けてオーストラリア、イギリス、カナダ等もボイコットを表明した。各国いずれも中国政府によるウイグル人権侵害などを背景にしたものだ。
このままの情勢が続けば、台湾問題含め欧米と中国との対立はさらに激しくなる可能性があり、その分、岸田政権の対中政策は難しくなる。日本外交の基軸は日米関係、日米同盟であるので、その前提で岸田政権は中国と向き合うことになる。
岸田首相は、外交ボイコット論について国益に基づいて決断する意思を示しているが、それによって中国側も岸田政権への姿勢を見極めることだろう。政権発足から間もないが、早くも大きな選択肢が岸田政権を待ち迎えている。