日本企業が懸念すべき地政学リスク【2022年版】

2022.2.17

社会

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日本企業が懸念すべき地政学リスク【2022年版】

1月、カザフスタンでは燃料高騰による抗議デモが各地で起きた 写真:ロイター/アフロ

2022年になってからすでに北朝鮮は7回もミサイルを発射、中央アジアのカザフスタンでは反政府デモが各地に拡大し多くの死傷者が出た模様。今年も地政学リスクは日本経済に大きな影響を及ぼしそうだ。日本企業が直面する恐れがあるリスクは多岐に渡るが、具体的にはどのようなリスクがあるのだろうか。ここでは、いくつか紹介してみたい。

依然として人の移動に制限、治安悪化のケースも

まず、新型コロナウイルスによる社会経済の疲弊だ。感染拡大が引き続き大きなリスクになることは周知の事実であるので言及を避けるが、それによって各国の社会経済は大きく停滞している。もちろん国によって差は大きいものの、それによって国境を越えた人々の移動が大きく制限され、多くの国が観光業など国内経済で大きなダメージを受けている。ピークアウトしつつあるオミクロン株もアメリカや欧州など世界経済を主導する国々で猛威を振るい、主要国のGDP鈍化は必然的に日本経済にもマイナス要因となる。2022年も引き続きこのリスクが日本経済に付きまとう。

また、これにも関連するが、新型コロナウイルスの感染拡大による治安悪化がある。コロナ禍に入って2年以上になるが、それによって経済格差や失業率が悪化し、若年層を中心に経済的な不満や怒りが高まり、抗議デモや暴動、もっと身近なものではヘイトクライム(憎悪犯罪)や凶悪犯罪などが増加することが懸念されている。すでにアメリカではアジア系を狙ったヘイトクライムが増加傾向にあるが、これは欧米やアジア、中東やアフリカを問わず各国に満遍なくいえるリスクであろう。特に、世界各国に日本企業が進出するなか、アジア系を狙った犯罪が多く報告されており、海外に駐在員を派遣する企業にとっては懸念すべきリスクとなる。

そして、抗議デモや暴動にも注意が必要だ。冒頭にも触れたが、2022年に入ってカザフスタンでは石油価格の値上げに抗議する反政府デモが拡大した。一部ではデモ隊と治安当局の間で激しい衝突に発展し、これまでに200人以上が死亡、4000人以上が負傷したとも報道されている。石油など生活に必要な物の値上げに端を発した抗議デモは各国で発生している。

イランでは2019年11月、ガソリン価格が3倍に値上げされたことで市民による抗議デモが各地に拡大し、数百人以上が犠牲となったともいわれ、南米のチリでも2019年10月、地下鉄の運賃値上げに抗議するデモが暴力沙汰に発展し、多くの死傷者がでるだけでなく政府が非常事態宣言を発令するなど混乱が拡がった。

このように日常生活に直結するモノの値上げは、コロナ禍になり経済格差や失業率が悪化する今日においては大きな懸念材料だ。経済的な不満を抱える若年層は各国で増えていることが想定され、他の国々でもこういった抗議デモや暴動が発生するリスクがある。抗議デモや暴動は場合によって政治的緊張を高め、略奪行為の横行や社会インフラの麻痺、物価高騰などを招くこともあり、世界各地域に展開する企業にとっては大きな懸念材料になる。

人権をめぐる米中対立

一方、米中対立による経済への影響も見逃せない。2021年、バイデン政権が中国にウイグルの人権問題で経済的な制裁を発動し続けたが、これは2022年も続くことが濃厚だ。しかし、それによって欧米企業を中心に企業が人権侵害リスクを把握・理解し、その軽減や予防に努めるとする人権デューデリジェンスへの意識が高まり、日本企業の間でもウイグル綿花を使っているとしてアメリカへの自社製品輸出が差し止められ、ウイグル産品目の使用停止や調達先変更を決定する動きもみられた。

バイデン大統領は2021年12月、新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産されたとみられる製品などの輸入を全面的に禁止する法律に署名した。今後、各企業は強制労働によって生産されていないことを自らで証明することが義務づけられるが、それができなければ米当局が輸入を停止できる仕組みになっている。

2022年、人権をめぐる米中対立がさらに激しくなれば、その影響を受ける企業数はもっと増える可能性があろう。半導体不足が深刻化するなか、バイデン大統領は半導体など重要品目のサプライチェーン強化も進めているが、日本経済の行方を探る上では、米中対立の行方を注視していく必要があろう。