米バイデン政権が対中強硬策をやめられない理由

2022.2.17

政治

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米バイデン政権が対中強硬策をやめられない理由

写真:UPI/アフロ

バイデン米大統領は2020年の選挙戦のときからアメリカファーストを掲げるトランプ氏を強く批判し、国際協調主義を強調してきた。就任直後からパリ協定への復帰、トランプ時代に冷え込んだ欧州との関係改善を積極的に進めるなど、正に脱トランプを加速化させた。しかし、脱トランプを進めるバイデン大統領にもトランプ路線を継承しているイシューがある。それが、対中国政策だ。政権をまたいで継続させるアメリカの対中政策は、この2022年どうなるか。

外交ボイコットも人権問題も、対中で各国が結束

バイデン大統領もトランプ氏同様に中国を最大の競争相手と位置付け、安全保障や経済、科学技術など多岐に渡る分野で中国に対抗する姿勢を堅持している。しかし、バイデン大統領の対中姿勢はトランプ氏と2つの点で大きく異なる。

1つ目は、多国間協力である。トランプ氏は一人で中国に対抗する様相だったのに対し、バイデン大統領は欧州やオーストラリアなど同盟国や友好国と結束することで中国に対抗しようとしている。それは、バイデン大統領が自由で開かれたインド太平洋構想を主導する日米豪印によるクアッド(QAUD)でリーダーシップを発揮し、2021年に米英豪による新たな安全保障協力オーカス(AUKUS)を創設したことからも明らかだろう。最近では2月の北京五輪をめぐり、アメリカが外交的ボイコットを表明して以降、イギリスやカナダ、オーストラリアやニュージーランドなどがそれに追随しているように、対中国包囲網と定義するかどうかは別にして、バイデン政権になって以降、対中国をめぐる結束みたいな流れが進んでいる。

2つ目は、人権問題の強化である。バイデン大統領は人権問題を重視する姿勢を鮮明にしているが、新疆ウイグル自治区の人権問題を前面に出す形で中国に圧力を掛けるようになり、同問題に関与した当局者や企業、団体などへ経済的な制裁措置を発動し続けている。トランプ氏も同問題で制裁措置を発動はしてきたが、米中対立のなかでの人権問題の立ち位置は両政権で大きく異なる。1つ目と複合するが、バイデン政権が人権問題を前面に出すことで、イギリスやカナダ、オーストラリアなどもバイデン政権と共にウイグル人権問題をめぐり、中国に制裁を発動するなどしている。

支持率回復に欠かせない対中政策

このようなバイデン大統領の対中姿勢は2022年も継続される。その理由は、大きく2つある。

1つ目は、現状維持国“アメリカ”と現状打破国“中国”をめぐる力の関係だ。周知のように、中国の経済力(軍事力)は年々アメリカに接近し、東シナ海や西太平洋における米中の軍事バランスは変化してきている。また、安全保障だけでなく、経済や貿易、サイバーや宇宙、科学技術や仮想通貨など多岐にわたる分野で中国はアメリカを脅かす存在になりつつある。

これまで国際政治や世界経済でリーダーシップを発揮してきたアメリカは、自らのポジションが揺らがされる危機感を年々強く抱いてきており、バイデン大統領が中国を最大の競争相手と位置づける背景にもある。

2つ目はもっと現実的な理由だろう。バイデン大統領は2021年夏、テロとの戦いを終わらせるべくアフガニスタンから米軍を撤退させたが、それによってアフガニスタンの混乱を招き、各国による自国民退避で大きな問題を生じさせたとして、内外から批判の声が強まった。それが影響し、バイデン大統領の支持率は減少傾向にあり厳しい状況だ。トランプ氏が2024年の大統領選挙へ出馬する意欲を示したこともあり、バイデン大統領としても2022年11月の中間選挙では勝率する必要がある。仮に、中間選挙の上院下院で共和党が優勢となれば、残りの2年間でトランプ陣営の動きが加速化する可能性もあろう。

そうなれば、バイデン大統領としても支持率を回復させる政策をとる必要がある。そのための一つが現在の対中政策だろう。中国が台頭するとともに、アメリカでは共和党や民主党を問わず中国への警戒感が強まっており、中国への厳しい姿勢は超党派的なコンセンサスとなっている。また、米シンクタンク「Ronald Reagan Presidential Foundation and Institute」が2021年12月に公表した世論調査結果によると、アメリカにとって最も脅威となる国は?との問いに対し、回答者全体の52%が「中国」と答えた。2018年に実施された同調査ではそれが21%だったことから、近年で中国への警戒感は市民の間でも大幅に増加したことになる。

よって、バイデン大統領としては、中国に厳しい姿勢を堅持することで、共和党陣営からの自らへの政策批判をできるだけかわせ、国民からの支持を集められる可能性があるのだ。もちろん、対中国はバイデン政権の政策の一つでしかなく、そんな単純な世界ではないが、少なくとも中国に厳しい姿勢をとることが自らの政権維持にとって重要なファクターになっているという皮肉な現実が見え隠れする。