ウクライナ侵攻になすすべなし? 中国・北朝鮮の脅威も現実的に

2022.2.25

政治

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ウクライナ侵攻になすすべなし? 中国・北朝鮮の脅威も現実的に

ロシアがウクライナ侵攻、G7が緊急首脳会議 写真:ロイター/アフロ

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、日本政府は個人や団体の資産凍結や半導体の輸出規制などロシアへの追加経済措置を発表した。ロシアを非難する欧米各国と足並みをそろえた格好だが、制裁を覚悟していたロシアのプーチン大統領にひるむ様子はない。このまま力づくによる国際秩序の変更がまかり通れば、中国と北朝鮮という脅威を抱える日本にとっても他人ごとではなくなる。

ロシアに対する各国の経済制裁はどれほど効くのか

「ロシア軍によるウクライナへの侵攻は力による一方的な現状変更の試みであり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として断じて許容できず、厳しく非難する」。

岸田文雄首相は軍事侵攻から一夜が明けた2月25日に記者会見を開き、ロシアの対応を強く批判。追加の経済制裁を発表した。

追加制裁の内容は[1]資産凍結とビザの発給停止による個人・団体などへの制裁[2]金融機関を対象とする資産凍結[3]軍事関連団体に対する輸出や半導体などの輸出規制――など。首相は「主要7か国(G7)などと緊密に調整して決定した」と説明した。

アメリカのバイデン大統領も2月24日の記者会見でプーチン大統領について「侵略者だ。責任を負うことになる」と批判。ロシア最大手銀行のズベルバンクと2位のVTBバンクをアメリカでの取引を禁じる対象に加えることや、ハイテク製品の輸出規制などを柱とする追加制裁を打ち出した。世界の銀行が使う決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの銀行を締め出す案は見送ったが、バイデン大統領はさらなる制裁の強化も示唆。プーチン大統領個人の資産凍結などの案が浮上しているという。

ドイツはロシアから天然ガスを輸入するためのパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働を凍結。イギリスやカナダなども追加制裁を相次ぎ発表している。

ただ、ロシアにとって日米欧による経済制裁は想定済み。プーチン大統領は2月24日にロシアの財界人と会談した際、制裁に対して「準備ができている」と強調。「ロシアは世界経済の一部であり続ける」と自信を見せたという。専門家の中には「経済的な代償はいくらでも払う覚悟だろう」などと経済制裁の効果を疑問視する声がある。

アメリカもNATOも派兵はしない?

ロシアが経済制裁で侵攻をやめないとなると、軍事的に対抗するしか手段はない。しかし、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると各国の軍事費ランキングでロシアは世界第4位の617億ドル(7.1兆円)なのに対し、ウクライナは34位の59億ドル(約6800億円)。軍事予算で10倍以上の差があり、兵力もロシアが90万人とウクライナの26万人を大きく上回る。ウクライナが「孤立無援」(ゼレンスキー大統領)のままでは自らの身を守り切るのは容易ではない。

かといって欧米各国も軍事的に対抗する姿勢は見せていない。米バイデン大統領は「アメリカ軍はウクライナでは戦わない」と軍の派遣を繰り返し否定。北大西洋条約機構(NATO)もウクライナが加盟国ではないことを理由に部隊を派遣しない方針を示している。米欧30カ国の加盟国には、他の加盟国が武力攻撃を受けた際に防衛義務が生じるが、非加盟国にはその義務が及ばないためだ。かつて「世界の警察」を名乗ったアメリカも、現在では“自国優先主義”の風潮から派兵すべきではないとの世論が強い。プーチン大統領はこうした状況を予測して軍事侵攻に踏み切ったとみられている。

日本にとっては中国と北朝鮮の脅威に直結

日本にとっては今のところガソリン価格の高騰などを除いて直接的な影響は少ない。紛争地から距離的に遠いこともあってか、ロシアが軍事侵攻に踏み切った翌日の2月25日には株価が一時400円以上も上昇したほどだ。しかし「この問題は必ず日本に影響する」(小野寺五典元防衛相)などと警鐘を鳴らす声もある。日本には領海侵犯やミサイル発射などの挑発を繰り返す中国と北朝鮮の脅威があるからだ。

「ロシアの行動への適切な対処は、他の国々に誤った教訓を残さないためにも必要だ」。岸田首相が2月24日に開いたG7首脳によるオンライン会議でこう強調したのも、念頭に両国があるから。中国は尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返しており、北朝鮮も2022年に入って日本海などへのミサイル発射をたびたび行っている。仮にロシアによるウクライナ侵攻で日欧米諸国が弱腰な対応しかとれなければ、中国や北朝鮮が強気な態度に出る可能性を否定できない。そうなれば日本への直接的な影響は避けられない。

また、日本はロシアとの間にも北方領土問題を抱える。北方領土交渉では安倍晋三元首相の在任中にプーチン大統領との間で進展の兆しを見せたが、ロシア世論の反発を受けてその後は暗礁に乗り上げている。今回のウクライナ侵攻を受けた、日本による経済制裁でロシア側が北方領土問題でも態度を硬化させる可能性が高く、ウクライナを狙い通りに手中に収めることができれば、北方領土でもさらに強気の態度に出ることは容易に考えられる。

かつて経済力で世界のトップを争った時代なら経済の力で自国を守ることもできたかもしれないが、“失われた30年”を経て日本はその武器すら失ってしまった。軍事費は世界9位で、中国の5分の1以下。世界の警察だったアメリカもその役を降りようとしている今、どのように自国を守っていくべきか。ウクライナ問題を機にこの国も本気で考えるべきときが来ている。