ロシアは本当に孤立しているのか ウクライナ侵攻から読み取る世界の権力構図

2022.3.15

政治

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ロシアは本当に孤立しているのか ウクライナ侵攻から読み取る世界の権力構図

写真:AP/アフロ

ウクライナ侵攻を続けるロシアは大規模な経済制裁の対象になり、G7も「経済や国際金融システムから孤立させる」と声明を発表しているが、世界の権力構図を変えるまでには至らないかもしれない。それを象徴するのが3月上旬に国連で採択されたロシアの軍事行動を非難する決議だ。14カ国以上が賛成するなか、棄権に回った中国を含む35カ国にはロシアを非難できないどういった事情があるのだろうか。

欧州全体で拡大するロシア離れ

ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界の外交・安全保障専門家の間では、“冷戦は終わっていなかった”、“新冷戦の始まりだ”、“プーチン政権は新ソビエト連邦を目指している”などといった言葉も聞かれるようになった。侵攻という重大な決断を下した以上、プーチン政権が今後潔く撤退する可能性はゼロに近く、今後も核の使用などをちらつかせることで強硬な姿勢を堅持することだろう。

それも影響してか、ウクライナは2月にEU加盟に向け動き出した(早期加盟は見送りに)。3月に入りモルドバとジョージアもEUへの加盟に向けて申請書に署名するなど、ロシアによるウクライナ侵攻によってロシアへの警戒感は近隣諸国でもこれまでになく高まり、ロシア離れが加速化している。また、EU加盟国であるスウェーデンでは、3月に入って実施された世論調査で、北大西洋条約機構(NATO)に加盟すべきかどうかについて回答者の51%が賛成と回答した。NATO加盟派が過半数となるのは今回が初めてだというが、ロシア警戒論は欧州全体で拡大している。

一方、ロシアに対する警戒感が世界で強まり、欧米諸国を中心に経済的制裁を強化しているが、本当にロシアの孤立が進んでいるかについては別途議論が必要だろう。ロシアによるウクライナ侵攻は欧米諸国の結束を強める一方、国際社会がより複雑化している様相をわれわれに示している。

中国とロシアの経済的接近

それを印象づけるのが3月2日に国連総会緊急特別会合で採択されたロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議だ。この決議では、国連加盟国のうち141カ国が賛成に回り、ロシアによるウクライナ侵攻に世界が非難していることを改めて示す結果となった。2014年2月のロシアによるクリミア侵攻の際に採択された非難決議(100カ国)からも大幅に増加している。

しかし、今回の決議では、ロシアやベラルーシ、北朝鮮など5カ国が反対し、35カ国が棄権に回った。棄権したのは中国やインド、イランやイラク、カザフスタンやタジキスタン、ラオスやベトナム、そして多くのアフリカ諸国だ。

中国が棄権に回ったことは想像に難くない。中国は北京オリンピックとパラリンピックの間にロシアがウクライナに侵攻をしたことに正直、頭を抱えているかもしれないが、最大の戦略的競争相手であるアメリカに対抗していく上でロシアとの戦略的共闘は重要なカードとなる。新型コロナウイルスの真相究明や香港・ウイグルでの人権問題をめぐり、欧米諸国が中国へ経済制裁を強化するなか、資源を欲する中国にとって資源大国のロシアは経済的にも重要なパートナーであり、必要以上のロシア批判は避けたいところだ。

そのようななか、アメリカの複数メディアは3月13日までに、ロシアがウクライナに侵攻して欧米諸国による対ロ政策が強化される一方、ロシアが中国に対して軍事的かつ経済的援助を要請したと報道した。

今日のところ中国はこれに対して明確な反応を示していない。中国としてもロシアへ明確な支持を表明すると国際的批判を浴びることになるが、習政権はアメリカを最大の競争相手と位置付け、ロシアとの戦略的な協力関係を重視しており、ロシア支援に回る可能性は高い。中国とロシアの経済的接近は今後の世界経済の行方に大きな影響を与える可能性がある。

棄権した国々がロシアを非難できない理由

また、近年、インド太平洋においては日米豪印の4カ国による協力が加速化するなか、インドも棄権に回った。「Quad(クアッド)」はインド太平洋における自由や民主主義の強化を目指しているものであり、バイデン米大統領は棄権に回ったインドを批判する見解も示した。

しかし、インドとロシアは長年の仲である。インドにとってロシアは重要な武器輸入国で、今日インドが依存している軍事力、武器の6割がロシア製とも言われており、不透明なアフガニスタン情勢や相次ぐ中印国境での衝突などを踏まえ、インドは安全保障上もロシアと良好な関係を維持したい思惑がある。

棄権に回った各国の事情をここで網羅することはできないが、他の国々もそれぞれロシアと歴史的に独自の関係を有しており、対ロシア非難には当然ながら各国によって温度差がある。また、中国が棄権に回ったことから、「一帯一路」によって長年中国から多額の経済援助を受ける国々も、賛成に回ることで中国との関係が冷え込むことを警戒し、あえて棄権に回ったという事情も排除できないだろう。

当然ながら、ロシアのウクライナ侵攻は明確な国際法違反であり、世界はロシアへの圧力を弱めるべきではない。しかし、それは国家の政策論であり、流動的に変化する世界の権力構図を変えるものではない。

世界はアメリカの影響力が相対的に低下し、中国など新興国の影響力が高まると言われて久しいが、ロシアによるウクライナ侵攻はひとつの転換期になり、それがいっそう進む可能性がある。世界の権力構図はアメリカの一極から多極化へ向かっており、今後より複雑化していく恐れがある。