感染爆発の香港が、中国のゼロコロナ政策に従わざるを得ない理由

2022.3.14

社会

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感染爆発の香港が、中国のゼロコロナ政策に従わざるを得ない理由

感染爆発でスーパーの棚から食料品がほとんど消えた

世界的にも新型コロナをうまく抑えてきた香港だったが、オミクロン株の抑え込みには失敗し、3月上旬には一日5万人超の新規感染者を記録。重症化率の低いオミクロン株の特性を踏まえると、香港政府は経済活動を止めない“withコロナ”にしたい気持ちがある一方で、中国に倣いゼロコロナ政策をしなければならないジレンマに陥っている。

うまく抑え込んできたことが油断に

2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験を受けて香港は、新型コロナウイルス感染症の拡大に際し、厳しい水際対策と防疫対策を実行。世界中が苦しんだデルタ株についてもかなり抑え込んでいた。しかし、2022年2月に入って感染者素が急増。2021年末には隔離施設での検疫が免除されていたキャセイパシフィック航空のクルーがルールを無視してレストランに出入りし店内にいた客が感染するなど、感染爆発のきっかけとなる複数の事例が発生。感染力の強いオミクロン株はあっという間に広がり、3月3日には5万6827人(ジョンズ・ホプキンズ大学 CSSE)を記録した。

東京の一日あたりの感染者数の過去最高は2月2日の2万1576人(同上)、100万人あたりでみると香港は約7700人に対して東京は約1800人とほぼ4倍であり、香港の感染爆発ぶりがわかる。3月5日現在の香港の公立病院の病床利用率は87%と医療ひっ迫は深刻だ。

この状況は、香港政府が新規感染者を出さないことに主眼を置き、感染爆発による医療ひっ迫を想定していなかったことによる。これまで「優等生」と言われるほど感染を抑え込んできたことが油断につながった。

公立病院ではベッド数が足りない状況に

withコロナにしたくてもできない

香港は国際金融センターであり、物流のハブとしての機能は、世界とつながっているからこそ強みを発揮できる。また、世界的企業の多くが香港にオフィスを構えており、本音では経済を止めることはしたくない。

事実、香港はゼロコロナ政策を行うなかでもシンガポールとの間で隔離なしで往来できる「エア・トラベルバブル(ATB)」を模索していた(度重なる延期の末に両国のコロナ対策の方針が異なるとして結局中止に)。

香港がゼロコロナ政策を進めていることで、米シティバンクが一部の機能をシンガポールに移したほか、米フェデックスも香港の貨物機パイロット拠点を閉鎖。外資系企業の一部がすでに香港を離れ始めたことに香港政府も危機感を強めている。

しかし、実質的に香港を統治する中国の考えは異なる。

香港は中国との経済的な関係も深いが、現在、香港から中国に向かうには中国で14日間の隔離をしなければならず、仕事をする上で現実的ではないことからビジネスマンだけでも往来を通常に戻してほしいという香港経済界からの声があった。そこで香港政府は、2021年12月に「香港健康碼(Hong Kong Health Code)」というアプリを開発し、中国の防疫対策アプリと関連付けるようにするなど、中国側を安心させる努力をしてきた。

ところが、感染拡大が長期化し、かつ中国が北京五輪を前に、明確にゼロコロナ政策を打ち出したことから香港はwithコロナを主張しにくくなった。さらに、1国2制度は一応あるものの、このところ中国の一都市という色が強くなる香港で感染が拡大したことは、中央の統治があまり機能していなかったことを意味するため、面子を重視する中国政府にとっては受け入れがたい。つまり香港政府はゼロコロナ政策の堅持しか選択肢はなくなった。

止まらぬ感染拡大に業を煮やした中国政府は3月3日までに7回にわたり香港を支援するための会議を開催したほか、香港の防疫対策班に半分見切りをつけて、自ら感染症の専門チームを送りこんだ。それどころか、中国の新型コロナ対策の最終責任者である孫春蘭副首相も乗り出して連日、指示を出していることも明らかになった。

中国はゼロコロナを実現させるために武漢など各都市でロックダウンを実施したことはご存じだと思うが、香港政府にもロックダウンを提案したようだ。さすがに国際都市・香港で実施することは現実的ではないとして、香港政府は妥協案として香港市民740万人全員のPCR検査することで決着を図った。一人3回行い、2回目と3回目の間は抗原検査キットを配布し毎日、検査をするという厳格なもので、中国側もそれを受け入れた。

中国政府に忖度せざるを得ない

中国がゼロコロナ政策に固執するのは共産党の求心力を維持するためだ。医療体制が整っていない地方で感染拡大したらそれこそ止められなくなる。それは中国政府が一番避けたい社会不安だ。1国2制度の香港でもそれは同じ。

2022年の秋には習近平国家主席が3期目を目指す共産党大会が開かれることから、大会が終わるまではゼロコロナ政策が維持される公算が高い。中国は本土の安全が保たれるのであれば香港の経済的ダメージは気にしないだろう。つまり、中国がwithコロナ政策に舵を切らない限りいつまでも香港はwithコロナ政策にスイッチできない。当然、その間に香港経済はどんどん疲弊していくことになるだろう。