どっちつかずの財政運営、健全化の道遠く 将来世代へ負担先送りも

2022.7.4

政治

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どっちつかずの財政運営、健全化の道遠く 将来世代へ負担先送りも

日米金利差拡大で進む円安(2022年6月22日) 写真:ロイター/アフロ

6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」では、財政規律については、首相周辺などの財政再建派と、安倍晋三元首相ら積極財政派、双方の言い分を併記。どちらとも取れないあいまい決着とした。「財政健全化の『旗』を下ろさない」としているが、具体的な目標年度の記載は見送っており、なし崩し的に財政規律が緩む可能性がある。

次年度の予算編成の基本となる「骨太の方針」

「骨太の方針」は国の予算編成の基本となり、経済政策において重要な意味を持つ。

政府は毎年6月頃に骨太の方針を決め、それを踏まえて財務省が7月に各省庁の予算要求の基準を示す「概算要求基準」を決定。さらにその基準に従って各省庁が8月、財務省に概算要求を提示し、財務省による査定や閣僚間の折衝を経て12月下旬に「政府予算案」が完成する。

政府予算案は翌年1月に召集される通常国会に提出され、衆参両院での審議を経て3月までに成立。予算の執行に必要な「予算関連法案」も3月までに成立するのが通例だ。

かつて与党が参院で過半数割れした時は成立が年度を越えるなど混乱したが、第二次安倍政権以降は与党が衆参両院ともに安定多数を占めており、政府・与党のスケジュール通りに審議が進んでいる。

財政健全化目標の記載を断念

2023年度の予算編成の出発となる、岸田政権下で初めて示された骨太方針のタイトルは「新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」。岸田文雄首相のこだわりを反映したタイトルだが、中身を見ると安倍・菅両政権時と代わり映えのしない内容が目立つ。

首相の看板政策である「新しい資本主義」に向けた重点投資分野としては①人 ②科学技術・イノベーション ③スタートアップ ④グリーントランスフォーメーション(GX) ⑤デジタルトランスフォーメーション(DX)――を列挙。どれも必要な政策ではあるが、これまでもずっと取り組んできたことであり、“岸田色”は見当たらない。人への投資については2024年度までの3年間で「4000億円規模の施策パッケージ」と具体的な数字を盛り込んだが、海外に比べてスケールが小さいとの指摘がある。

スタートアップへの投資については「5年10倍増」に向けて5カ年計画を策定すると強調。ベンチャーキャピタルの投資拡大や起業を支える人材の育成・確保などを盛り込んだが、それらの施策で起業が10倍に増えるとは考えにくい。DXへの投資の具体例は「マイナンバーカードの普及」。まだそんなことを言っているのかと頭を抱えてしまう。結局、例年と同じように各省庁の“持ち駒”を束ねただけの政策集にとどまっている。

注目されていたのは「中長期の経済財政運営」だ。政府の財政健全化目標は「2025年度の国・地方を合わせたプライマリー・バランス(PB)黒字化を目指す」だが、今回の骨太の方針では具体的な目標年度の記載を断念。「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」と強調する一方で、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない」とも記し、どっちつかずの内容となった。財政再建派と積極財政派の綱引きがそのまま文章となったようだ。

実際に首相は財政規律の維持こだわるよう高市早苗政調会長に指示したが、安倍元首相に近く、自らも積極財政派である高市氏は反発。党内対立を避けるため、両者の言い分を併記する形で決着した。焦点の一つだった「骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」との表記については維持したものの、直後に「ただし、重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」と付け足した。他にも「予期せぬ財政需要にも迅速に対応」など、ところどころに積極財政派への配慮が見てとれる。

1000兆円の債務はいつ、誰が返すのか

財政再建派が懸念するのは、国債による借金頼みの経済財政運営では、将来世代への負担の先送りになるからだ。2022年3月末の国の長期債務残高は1017兆1072億円で、はじめて1千兆円を超えた。増加は18年連続だが、新型コロナウイルスの感染症対策でここ2年、増加幅が拡大している。コロナ対策は仕方ないにせよ、いずれは正常な経済財政状態に戻していかなければならない。

収入より支出が上回ってはいけないということは子どもでもわかる。例えば国債を発行して国民に金を配り、その借金を将来世代が返すというのは道理に合わないだろう。しかも、その借金は増え続けている。金利も払う必要があるため、雪だるま方式に増えていくのだ。

安倍元首相は「(国債を買っている)日銀は政府の子会社だ。心配する必要はない」などと発言したが、アメリカなどではインフレを抑えるために政策金利の引き上げを進めており、日本との金利の格差が広がっている。結果的に円安が急激に進行することで日本経済にダメージを与えており、いつまでも日本だけが金利を低く抑えることができるかわからない。金利が上昇すれば日本政府と日銀が受けるダメージは計り知れない。

必要な政策に税金を投じるのは当然だ。しかし、その中身を精査し、メリハリのついた予算になっているかが肝心だ。場合によっては国民に負担を強いる政策判断も必要かもしれない。岸田政権の骨太の方針を見る限り、その覚悟は見られない。