参院選の鍵を握る「1人区」 与野党一騎打ちは32分の11選挙区
2022.7.4
0コメント7月10日の投開票に向け、与野党の激しい論戦が繰り広げられる参院選。結果の行方を占うのが改選定数1の「1人区」だ。前回の2019年参院選では32選挙区すべてで野党が候補者を一本化。10選挙区で自民党に競り勝ったが、今回は野党の共闘体制が大幅に後退し、与野党一騎打ちとなる選挙区は11にとどまった。結果次第では今後の野党のあり方が問われる可能性がある。
香川選挙区は全国最多の8人が立候補
与党である自民党はすべての1人区に候補者を擁立。青森、岩手、新潟、山梨、熊本、鹿児島の6県では立憲民主党と実質的に一騎打ち、福島、三重、愛媛の3県では野党系無所属との一騎打ち、和歌山県では共産党と一騎打ち、沖縄県では野党系の「オール沖縄」との一騎打ちの構図だ。
残り21の1人区では自民党候補に加えて複数の野党系候補が競合する。
香川選挙区では自民党の現職に対し、主要野党である共産党、国民民主党、立憲民主党、日本維新の会の4野党が独自候補を擁立。1人区としては全国最多となる8人が立候補し、乱戦模様となっている。地元選出である国民民主の玉木雄一郎代表や立憲民主の小川淳也政調会長らが連日、街頭で支持を呼び掛けているが、野党間で票の分散は避けられない。
参院は総定数248人で、3年ごとに半数の124人ずつ選挙で入れ替える仕組み。選挙制度は全国単位の「比例代表」と、都道府県単位の「選挙区」の2本立てで、比例代表で50人、選挙区で74人を選出する。選挙区ごとの定数は人口比例で割り振っており、人口の少ない32県は1人、最も多い東京都では6人となっている。
参院選は比例代表や複数が選出される選挙区では当選者が各党に分散するため、1人しか当選できない1人区が勝敗のカギを握る。野党候補が乱立した2013年は自民党が29勝2敗で圧勝したが、2016年は野党が奈良選挙区以外で候補者を一本化。2019年はすべての1人区で候補者を一本化し、野党が11勝、10勝と健闘した。
立民、国民の方針転換と維新の躍進の影響で共闘難しく
今回の参院選で野党共闘に亀裂が入った背景には、野党第一党である立憲民主党の方針転換がある。2021年10月の衆院選では枝野幸男代表率いる立憲民主主導で候補の一本化を推進。共産党との「閣外協力」にまで踏み込んだ結果、立憲民主は議席を大幅に減らし、責任を取って代表は枝野氏から泉健太氏に交代した。党内には「共産党と組んだせいで保守層離れを招いた」との批判が渦巻き、泉新代表は共産党との関係の見直しを明言した。
日本維新の会の影響も大きい。前回衆院選で11→41議席と躍進した維新はその後の世論調査でも立憲民主と同水準の支持率を維持しており、今回の参院選は強気で候補者擁立を進めた。前回の参院選では1人区での擁立はゼロだったが、今回は8人を公認。本拠地の関西周辺にとどまらず、東北から九州まで全国で候補者を立てる強気の方針だ。
維新派比例票で立憲民主を上回る野党第一党を目指しており、比例票の掘り起こしのために厳しい選挙区でも積極的に候補の擁立を進めたという。
立憲民主と同じ源流を持つ国民民主党の動きも野党共闘の枠組みを崩す一因だ。旧民主党出身で比較的保守系の議員らで2020年に結党した国民民主は、ここにきて与党寄りの姿勢に転換。国会の予算審議では政府の2022年度予算と補正予算に賛成したことが話題となった。今回の参院選では比例票の積み上げに向けて選挙区でも積極的に擁立しており、玉木代表の地元香川など4選挙区で立憲民主と競合、共産党とも徳島・高知など複数の選挙区で競り合う。
リベラル系の主張では与党との違いが際立ちにくく
野党の方向性が分かれる背景には政権与党の“リベラル化”も影響しているだろう。7年8カ月と長期間続いた安倍政権では安保関連法制や特定秘密保護法などの保守的な政策が目立ったため、野党は対抗するためにリベラル寄りの主張をしがちだった。その象徴が立憲民主の顔だった枝野氏だ。
しかし、安倍元首相が体調を崩して退陣し、その後を引き継いだ菅義偉前首相も1年で政権の座を追われると、伝統的にハト派、穏健派で知られる宏池会の岸田文雄会長が首相に就任。さっそく「分配」を前面に出すなど、安倍・菅政権との違いを打ち出している。
今なお安倍元首相の影響力が残るとはいえ、政権与党が保守から中道にやや路線修正したことで、中道やリベラル系の主張では与党との違いが際立ちにくくなった。そこで維新や国民民主のように保守寄りの政策を打ち出す野党が増えたというわけだ。維新は参院選の公約で防衛費のGDP比2%への倍増や憲法9条への自衛隊の明記、アメリカの核兵器の運用に日本も関与する「核共有」政策などの保守的な政策を列挙。国民民主も公約に「防衛費の増額」を盛り込んだ。
2021年11月に衆院選が行われたため、現在の衆院議員の任期は2025年10月末。今回の参院選が終わると、当面は国政選挙のない期間が続く。今回の選挙結果次第では野党が与党に対抗するために共闘体制を築くべきか、議論が再浮上する可能性がある。