「あなたの人生のそばに」“感動葬儀”を超えて地域をサポートする葬儀会館ティア

写真:十河英三郎

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「あなたの人生のそばに」“感動葬儀”を超えて地域をサポートする葬儀会館ティア

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かねてから葬儀の多様化が進むなか、コロナ禍による感染拡大防止の観点から葬儀規模の縮小が加速。以前より単価は下がっており葬儀業界は変革を迫られている。そのような状況にありながら、東海エリアを中心に展開する葬儀会館ティアは新たな方策を次々と打ち出して道を拓いている。同社の冨安徳久代表に聞いた。

株式会社ティア 代表取締役社長

冨安 徳久 とみやすのりひさ

1960年生まれ。愛知県出身。1979年、アルバイトで入った葬儀会社に感動し、入学式直前に大学を辞めて葬儀業界に入る。1982年、東海地方の大手互助会に入社するも、葬儀に対する会社の方針に疑問を持ち独立。1997年、株式会社ティア設立。2006年、名証セントレックスに上場。2014年6月、東証・名証一部上場。2022年4月、東証スタンダード、名証プレミア上場。

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「とにかくやる」と決めたコロナ禍での葬儀

1997年の創業以来、明朗価格や“感動葬儀”をモットーに信頼を積み重ね、成長してきた葬儀会館ティア。しかし、コロナ禍において同社が受けた影響は少なくなかった。

「2020年の3月ぐらいから法要のキャンセルが相次ぎ、億単位の売上を失いました。葬儀についても参列者が少なくなり、遠方の親戚も呼ばずに家族葬で済ませるというお客様も多かった。そうなると、精進落とし(葬儀後の会食)も無くなったり、テイクアウトになったりして、葬儀1件あたりの平均単価が十数%程度落ち込みました」(冨安徳久代表、以下同)

株式会社ティア 代表取締役社長・冨安徳久氏

それでも売上が想定したほどには落ち込まなかったのは、件数を多く請け負えたからだという。

「名古屋で上場している葬儀社はティアだけでしたので、その信用度というのもあったと思います。また、コロナ禍でも安心して葬儀ができる体制が整っていました。ティアには、ご遺体をエンバーミング(衛生保全処置)できる資格を持つエンバーマーがおり、防腐処理や滅菌処理をしっかりと行えます。そのため、感染対策はもちろん、エンバーマーのサポートのもとコロナに罹患して亡くなった故人様のお顔を見てお別れができます。

新型コロナウイルスが感染拡大した当時、コロナで亡くなったご遺体は病院で納体袋に入れられ、ご家族は顔も見られずにそのまま火葬されてお骨で帰ってくるということが起きていました。最後のお別れもできず、それではご遺族がかわいそうです。

ですので、2021年ごろからティアでは、とにかく葬儀を行う方向で言葉を添えつつ、『呼ぶべき人、会うべき人は呼んでください』と呼びかけるようにしました。すごく喜んでくれたご遺族の方もいらっしゃいましたし、結局、クラスターが発生することは1件もなく、やってよかったという気持ちです」

2023年現在、ティアの葬儀の一件当たりの単価はコロナ禍以前のピークにはまだ戻ってはいないが、徐々に回復しつつあるという。しかし、コロナ禍が葬儀業界に与えた打撃は大きかったと冨安代表は振り返る。

「ティアはもうすぐ創業27年目になります。創業時に国内の葬儀社は1万6000社ほどありましたが、先日調べたら8000社ほどに減っていました。少子化によっていずれは縮小していくこの業界でしたが、コロナ禍で一気に進んだような印象です」

葬儀社から“トータル・ライフ・デザイン企業”へ

今後の葬儀業界について冨安代表は「葬祭業だけでやっている会社はいらなくなる」と語る。自身も創業当初は、葬祭業以外をやる気はなかったというが、10年目の2006年に上場するころに心境の変化があったという。

「私も経営者として10年後、20年後を考えます。そのときどうやって生き残っていくか……。要になると考えたひとつは『ティアの会』の会員数でした」

一般的に葬儀業界の会員制度は「互助会」がある。これは毎月一定額の掛け金を積み立てていくことで、いずれ訪れる冠婚葬祭の儀式に対してサービスが受けられるというものだ。

一方、ティアの会員制度「ティアの会」はコースによって異なるが、3000円(東京都内限定会員)から1万円(ゴールド会員※)の入会金を支払ったあとは積立金、年会費などは不要。葬儀の際は、諸費用から減額や割引が受けられる。

明朗会計であることと、入会金以上の減額サービスが受けられるというのもあって、葬儀を終えた後に遺族が再入会して会員になるケースは9割以上だという。また、入会するだけで受けられる無料のサービス(ブロンズ会員※)もあり、現在の会員数は約48万人、さらに企業との団体契約も含めると、ティアのサービスを受けられる人の数は、それ以上だという。

※東京都は除く

「『ティアの会』の会員になってくださる方というのは、基本的に“来たるべき日”のために入会されるわけです。しかし、それは何年先の話かわかりませんし、もっと普段から会員の方たちと結びつけないかと考えました。今も会員カードを提示すれば、グルメ、旅行、ショッピングなど提携している施設で優待サービスが受けられるという付加価値をつけていますが、これをもっと発展できればと思ったのです。そこで、葬儀だけでなく、人生もサポートできる“トータル・ライフ・デザイン企業”になろうと考えました」

冨安代表によると、“トータル・ライフ・デザイン”とは生活に関連するあらゆることを手助けする事業を指すという。

「例えば、エアコンの掃除、庭の手入れ、水回りの掃除、ペットホテルなど……、端的に言うと便利事業、生活関連事業ということになります。われわれは葬儀を通して会員の方たちと信頼関係を構築してきましたので、『葬儀だけでなく、困ったことがあれば何でも聞いてください』とお伝えすれば、いろいろな相談が来ると思います。また、これから入会を考える人に向けては間口も広くなります。もちろん、葬儀社から脱皮するわけではないので、“最期の日”もクオリティ高く追及していきます」
本業の葬祭業においても価値観の多様化を受けて、さまざまな取り組みを始めているという。

「お墓の新しい形として樹木葬を提案しています。これは2022年、会員数が多い地域で50基ほど販売したのですが、即日完売しました。今は第2次を開発しているところですが、そこもどんどん予約が入ってきています。予想外の結果でしたが、近年は小さなお墓を床の間などに置く自宅墓や思い出の場所に遺骨を撒く散骨などもあります。時代のニーズをうまくとらえながら、提案していきたいです」

葬儀業界もDXの時代

新規事業に意欲を見せる冨安代表は、同時にDX(デジタルトランスフォーメーション)を見据えた社内の合理化も進めているという。

「葬儀業界もこれからはDXの時代だと思っています。これまでのプロモーションはCMやホームページなどを除けば、折り込みチラシのようなアナログの媒体が中心でした。しかし、調べてみたところ葬儀の依頼の仕方や葬儀の内容などをYouTubeで見ている50~70代の方が結構いらっしゃるということがわかってきました。そこで、2022年からティアの公式YouTubeチャンネルを開設し、いろいろなメッセージを発信するようにしました」

「ほかにも、本社(名古屋市北区黒川)の隣接地に、DX推進の新部署の事務所として『ティアデザインラボ』を建設中です。2023年8月には完成予定ですが、そこで、社内情報共有アプリの開発や経営会議のハイスペック化、コールセンターの充実などを進めていきます」

一方、葬儀自体のデジタル化には否定的だ。

「遠方の方が、インターネットを通じて葬儀に参加するというのは、Zoomなどが登場する以前からやっていました。過去にはアメリカに嫁いだ娘さんが、大好きなお父さんの葬儀に参加できるようにオンラインでつないで中継する、といったこともしました。ただし、そういった特殊なケースを除いて、私はオンライン葬儀を勧めたくはありません。

やはり、人が亡くなるということは、五感で感じるのが一番だと考えるからです。その方がご遺族も気持ちのけじめがつきます。変えてはいけないものと、時代とともに進化したり変えなければならないものは、きっちり線を引いて進めていきたいと思っています」

トータル・ライフ・デザイン企業としての“新生ティア”は、2023年9月期から本腰を入れてスタートしている。

「実は一昨年からスローガンとしての“新生ティア”を中期経営計画に入れています。ようやく準備が本格的に整い、描いていたことが形になっていくのが今期です。今は『涙のそばに、ティアはいます』とキャッチコピーを掲げていますが、これからは『あなたの人生のそばに、ティアはいます』と言いたい。今後は時代のニーズを自ら作りにいくという気持ちで、次のステージへ向かいたいと思います」