大国よ、グローバルサウスの声を聞け 米中露の対立激化に途上国が不満と警戒

2023年 アジア安全保障会議  写真:MINDE/AP/アフロ

社会

大国よ、グローバルサウスの声を聞け 米中露の対立激化に途上国が不満と警戒

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ウクライナ戦争や米中関係悪化など、北半球では大国による紛争や対立が後を絶たない。それにしびれを切らしたのか、南半球を中心とする途上国、いわゆるグローバルサウスも声を上げ始めた。大国たちも国際的世論形成の影響を高めつつある彼らの声を無視できない状況だ。

大国同士の対立、アメリカと中国の場合

2023年6月初め、シンガポールではアジア安全保障会議が開催された。アメリカのオースティン国防長官はその際、中国の国防幹部との対面会談を打診したが、中国側はそれを拒否した。アジア安全保障会議の前後には、南シナ海や台湾海峡で、中国軍が米軍に異常接近するなど強く威嚇し、アメリカは最近中国軍の攻撃性が増大していると強い警戒感を滲ませた。

その後、ブリンケン国務長官が中国を訪問することが発表され、同月19日に中国外交トップの王毅政治局委員との会見を実現させたが、その目的は“米中関係を改善、発展させる”ものではなく、“偶発的な軍事衝突など高まる危機を如何に抑えるか”というものだった。王毅政治局委員もブリンケン国務長官に対して、米中関係を「アメリカの誤った対中政策」による「どん底」と表現し、「対話か対抗か、協力か衝突かのどちらかを選択する必要がある」と迫った。

今日、米中間では安全保障や経済、人権や先端技術など多方面で競争が続いているが、その中でも台湾問題は最重要イシューになっており、中国が台湾を“核心的利益の中の核心”と位置付けるように、今後は台湾情勢の行方が米中関係を大きく変えそうだ。

ブラジルはウクライナ戦争についてG7へ不満の声

北半球では大国間の争いごとが展開され、世界情勢の焦点もそれらに集まる一方、南半球の途上国を中心とするグローバルサウスからは、北半球の大国への不満や警戒感が聞かれる。例えば、5月にG7サミットが広島で開催された際、G7サミットに招待されたブラジルのルラ大統領は、「グローバルサウスはウクライナ戦争で和平を主導したいが、欧米など北半球はそうしようとしない」、「ウクライナへの支援を続けるアメリカは、ロシアへの攻撃に加担している」、「そもそもロシアとウクライナの問題は、G7ではなく国連で議論するべきだ」と持論を展開した。

G7とは正に北半球の先進国で構成される枠組みであり、広島サミットで重点的に扱われた問題も大国間絡みであり、ルラ大統領の発言はグローバルサウスとG7との間に大きな乖離があることを露呈させた。

ASEAN諸国、アフリカも大国に警戒感を増大

そして、同様の声はASEANやアフリカなどからも聞こえる。冒頭で言及したアジア安全保障会議では、参加諸国の関心は米中双方が何を発言するかだったが、会議に出席したインドネシアのプラボウォ国防相は、米中対立を皮肉交じりに「新冷戦」と呼び、大国間対立の激化に強い警戒感を示した。

また、フィリピンのガルベス国防相も、米中の経済デカップリングやロシアの孤立など、大国間をめぐる諸問題に同様の懸念を示し、ASEANの大国間対立への警戒度は高まるばかりだ(カンボジアやラオス、ミャンマーなど中国との関係が深い国は、また別の思惑があろうが)。

2022年9月の国連総会のときにも、インドネシアのルトノ外相は、「東南アジアを新冷戦の駒にするべきではない」と釘を刺し、争う大国たちに警戒感と不満を示した。ウクライナ戦争後、欧米や日本、韓国などはロシアへの制裁を一斉に強化したが、それに加わっているのは世界で40カ国あまりしかない。ASEANでもシンガポールのみであり、ここからもASEANと大国との間には大きな乖離があることが想像できる。

また、最近エチオピアで講演したアフリカ連合のファキ委員長は、「大国たちがアフリカを地政学的な戦場にしようと脅かしている」と米中やロシアを念頭に強い警戒感を示した。また、アフリカ連合で議長を務めるセネガルのサル大統領も以前、「アフリカは新たな冷戦の温床になりたくない。ウクライナ戦争についてロシアとアメリカの間では、アフリカ諸国を味方につけるための綱引き合戦が行われている」と同じような不満を示した。

無視できないグローバルサウスの影響力

中南米や東南アジア、アフリカから聞こえるこういった声を、北半球の大国たちはどう理解しようとしているのか。今後の人口増加や世界経済を考えると、世界の中でのグローバルサウスの影響力はいっそう高まっていくだろう。欧米や中国、ロシアもそれを理解してか、インドなどグローバルサウスとの関係強化を目指している。

冒頭で言及したアジア安全保障会議でも、中国軍の李尚福国務委員兼国防相は、「米中の問題は両国だけでなく世界に影響を及ぼす」とも言及したが、これは同会議に参加したASEAN諸国を意識した発言と思われる。中国もアメリカもグローバルサウスを必要としており、大国たちは今後さらにグローバルサウスの声を注意深く聞かなければならなくなるだろう。