自民、公明にすきま風 集票力リスクと単独政権の間で揺れる岸田首相

第2次岸田内閣発足時の岸田首相と公明党山口代表 写真:アフロ

政治

自民、公明にすきま風 集票力リスクと単独政権の間で揺れる岸田首相

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自民党と連立政権を組む公明党が、東京での“協力関係解消”を表明したことに波紋が広がっている。公明党は全国各地に一定の“岩盤支持層”を抱えており、公明票を失えば落選の危機に陥る自民党議員がたくさんいるからだ。今国会の会期末が6月21日に迫るなか、永田町では「16日解散説」が取り沙汰されており、自民党内には危機感が広がっている。

自公亀裂のきっかけは「東京28区」

「スケジュールを見ると16日しかない」。国民民主党の玉木雄一郎代表は、6月11日に出演したテレビ番組で、岸田文雄首相が6月16日に衆院解散に踏み切るとの見通しを示した。

衆院解散は憲法に定める天皇陛下の国事行為だが、天皇、皇后両陛下は6月17~23日の日程でインドネシアを訪問する予定だ。松野博一官房長官は、天皇陛下の外遊中でも解散は可能であるものの「天皇陛下の外国訪問の間に衆議院が解散された例はない」と述べており、玉木氏は外遊前の16日の可能性が高いと読んだ。

野党第一党の立憲民主党は、会期末に向けて内閣不信任案の提出を検討しており、自民党内では不信任案が提出されたら「解散の大義になる」(萩生田光一政調会長)との見方が出ている。岸田首相は早期解散を否定し続けているが、最近、党執行部の一人に「いつやってもいい」と打ち明けたとの報道もある。

永田町で急速に解散風が強まっている背景には、内閣支持率の回復がある。読売新聞が5月20~21日に行った世論調査では、内閣支持率が前月比9ポイント増の56%となり、8カ月ぶりに5割台を回復した。さらに、不支持率は4ポイント減の33%。その後、首相の長男・翔太郎氏が公邸内での不適切行動の表面化で辞任した影響などで一部調査では微減となったものの、日経平均が高水準で推移していることもあって比較的安定している。

支持を伸ばしている日本維新の会の準備が整う前に解散・総選挙に突入したいというのは与党議員にとって当然の考え。しかし、そこに水を差したのが公明党とのいざこざだ。

自民党内で“公明切り”の声が高まる

きっかけとなったのは「東京28区」。衆院の小選挙区が次回から「10増10減」となるのに伴い、東京では選挙区の数が一気に5も増え、計30区となる。公明党は、練馬区東部に新たに設けられた東京28区に、候補者を擁立したい考えを自民党に示したところ、自民党が「すでに候補者は決まっている」とこれを拒否。それを受けて、公明党は28区への擁立を断念する代わりに、東京の選挙区では自民候補を推薦せず、都議会や東京都内の他の選挙でも協力関係を解消すると伝達した。

公明党の石井啓一幹事長は、記者会見で「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」とまで発言。1999年から連立政権を組んできた自公両党にとっては、最大の亀裂と言っていいだろう。

亀裂の背景にあるのは自民党内の勢力図の変化だ。安倍政権では、菅義偉官房長官や二階俊博幹事長ら公明党とのパイプの太い議員が中枢にいたため、自公の関係性は強固だった。菅政権にもそれは引き継がれたが、岸田政権では菅、二階両氏は非主流派。代わりに、公明党の支持母体である創価学会嫌いで知られる麻生太郎副総裁が首相の後見役となり、首相に“公明切り”を進言しているとされる。

また、創価学会会員の高齢化が進み、集票力に陰りがみられることも自民党側が強気になっている一因だろう。公明党は「全国800万票」を目標としているが、2022年の参院選では全国比例の集票が約618万票にとどまった。関西では、維新の会とゆるやかな協力関係を築くことでこれまで一定の議席を確保してきたが、維新が独自候補の擁立を宣言したことでそれも危うくなった。さらに、自民党内では「公明党のせいで若い議員の足腰が弱まっている」との声も根強いことから、選挙の強い議員を中心に公明党への強硬論が強まっているのだろう。

協力関係破綻で当選は半減、影響は全国へ波及も

しかし、選挙の弱い議員からすると公明切りなどもってのほか。前回の衆院選で自民党は都内25選挙区のうち16区で勝利したが、協力関係が破綻して公明票がなくなると、当選は8区に半減するという。公明支持層が「棄権」でなく相手候補に「投票」すればさらに当選者数は減るだろう。大臣経験者なども軒並み危うくなり、安泰なのは、東京28区での公明擁立を拒否した萩生田政調会長だけとの見方もある。

今回の協力解消は東京に限った話だが、それを受けて全国的にも公明党の自民党への協力が弱まる可能性は少なくない。いくら党が推薦したとしても、支持者たちはいろいろな報道に接するなかでこれまでのように積極的に集票に動かなくなる可能性はある。そうなるとギリギリ当選した議員や、小選挙区で野党候補に敗れて比例復活で命拾いした議員たちは当選が危ぶまれる。そうした議員たちは解散風の急速な強まりを受け、背筋が冷える思いをしていることだろう。

自公の連立がぎくしゃくする今、解散総選挙に打って出れば、亀裂はさらに深まりかねない。麻生副総裁に背中を押されて自民党単独政権に向けて動き出すのか、それとも自公間の関係が落ち着くまで時間稼ぎをするか――。首相官邸の主は今、政権発足以来一番頭を悩ませていることだろう。