7月12日、台湾国防部は、中国の空軍と海軍が台湾の南部海域で大規模な軍事演習を行ったと発表した。これまでにも中国による台湾への挑発的行動は繰り返されており、もはや日常的とも言えるが、その裏には台湾への単なる威嚇行動ではない狙いが隠されている。中国の真意はどこに向けられているのだろうか。
日常的に繰り返される台湾への “進入”
中国が行った今回の演習には、戦闘機や爆撃機、軍艦などが参加。その中には空軍の戦闘機やヘリコプター、早期警戒機など32機が防空識別圏に進入し、核兵器搭載可能なH6爆撃機4機の姿も確認されたと台湾国防部は発表している。
2022年8月、アメリカのナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問したことにより、中国は台湾を囲むように北部や東部、南部などで一斉に軍事演習を実施。中国大陸からは多数のミサイルが、台湾周辺海域に打ち込まれた。
また、2023年4月5日に台湾の蔡英文総統が中米訪問の帰りにアメリカに立ち寄り、マッカーシー米下院議長とカリフォルニアで会談した際、中国軍は4月10日まで3日間の日程で台湾周辺海域において軍事演習を実施。中国軍機の台湾の防空識別圏への進入が相次ぎ、多数が事実上の中台境界線となってきた「中間線」を越えた。同時期には、中国海軍の空母「山東」が台湾南方のバシー海峡を通過し、台湾南東沖を航行し、西太平洋での航行演習を初めて行った。
台湾けん制の陰に見える、中国の真の狙い
こうした中国による軍事的威嚇は、台湾をけん制する目的があるのは事実だが、真の狙いはアメリカである。中国の習近平国家主席は7月に入り、台湾有事を担う東部戦区の軍事施設を訪問。戦争に備えた任務の新局面を切り開くよう努めなければならない、と兵士らに作戦遂行能力を高めるよう求めた。「台湾統一」という目標を果たすには、武力行使を辞さない構えを貫いている。
現在の共産党政権が描く海洋軍事戦略は、日本の九州から南西諸島、台湾へとつながる第一列島線の内側の海を中国の支配下に置き、次に伊豆諸島から小笠原、グアムへと伸びる第二列島線へと軍事進出し、いずれは米軍を第二列島線の外に追いやることだ。
今日、それがどれだけ非現実的な目標かは想像に難くないが、要は、習氏が言及する「台湾統一」は単に台湾を再び中国の支配下に置くだけで終わらず、軍事安全保障的には台湾を太平洋進出に向けての“軍事的最前線”と位置付け、そこから西太平洋での覇権を目指し、アメリカに対峙していく狙いがある。今日の習政権にとって、第一列島線を確保し、第二列島線への足掛かりをつかむためにも、台湾は絶対に譲れない位置にあるのだ。
台湾は民主主義と覇権主義の“火薬庫”か
一方、アメリカはなぜ台湾防衛に加担するのか。それも上述のような背景があり、アメリカも今日の習政権の目標が単に「台湾統一」だけで終わらないことを熟知している。中国が仮に台湾を支配下に置けば、その時点でアメリカも中国の第二列島線、太平洋への進出を抑えることが難しくなるだけでなく、西太平洋で軍事的優勢を保ってきたアメリカとしても初めて危機に陥ることになる。
要は、地域問題だった台湾情勢がアメリカの安全保障問題と化すのである。米中の力の拮抗が顕著になるなか、アメリカとしても中国が台湾を支配下に置くことは何としても避けたいのだ。
さらに、今日の台湾情勢は「民主主義」と「覇権主義」の大国間対立とも表現されている。仮に中国が台湾を支配下に置けば、「民主主義の親玉で現状維持国のアメリカが覇権主義の親玉で現状変更国の中国に敗北した」というイメージが政治的に先行し、衝撃も大きいだろう。よって、アメリカにとって今日の台湾情勢は、プライドをかけた政治的戦いとも言える。結果によっては、今日のウクライナ情勢以上に今後の世界秩序の形成に大きな影響を与えることになる。
繰り返すが、中国が台湾を統一すれば、これまで以上に中国の周辺海域での覇権活動がエスカレートする可能性がある。台湾問題が米中対立の最重要イシューになり、それで中国が現状変更を達成すれば、中国はこれまで以上に国家的自信をつけ、「海洋強国」「社会主義現代化強国」の実現に向け、活動を活発化させることだろう。