実は第2次ブーム クラフトビールの人気の理由を探る
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実は第2次ブーム クラフトビールの人気の理由を探る

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この夏はやたらとビールがうまい。8月の東京は最高気温が一度も30℃を下回らなかったが、この異常な暑さも要因の一つだろう。そんななかビール市場ではクラフトビールの人気が続いている。いまや、クラフトビアバーの増加はもちろん、普通の居酒屋でもクラフトビールを扱うようになっている。大手ビールメーカーも続々参入し、スーパーでも品揃えが充実。“地ビール”ブームから続くクラフトビールの歴史と人気の理由について探ってみた。

そもそも「クラフトビール」とは

「クラフト(Craft)」とは手工業・工芸という意味であり、クラフトビールは一般的に小規模なブルワリー(醸造所)が作ったビールを意味する。ビールの種類は問わないが、アサヒやキリンなど大手ビールメーカーが提供するビールはラガー(下面発酵)で製造された「ピルスナー」タイプである一方、小規模なブルワリーでは差別化を目的として、伝統的なエール(上面発酵)で製造される「IPA(インディア・ペールエール)」や「スタウト(いわゆる黒ビール)」、「セゾン」などを売りにしていることが多い。そのため、広義ではピルスナー以外をクラフトビールと呼ぶこともある。
(本記事の趣旨ではないため各ビールの定義は割愛)

飲み屋の新しいジャンル「クラフトビアバー」

2010年頃からか従来の居酒屋やバー、バルに加え「クラフトビアバー」と呼ばれるクラフトビールをメインとした飲み屋を見かけるようになった。近年では、飲み屋の新ジャンルとして定着した感があり、実際、都内には「CRAFT BEER MARKET」や「IBREW」などチェーン展開するビアバーも現れ、週末は賑わっている。2015年から都内で開催されている「大江戸ビール祭り」のようなイベントも盛んだ。こうした人気にあやかってか、普通の居酒屋でもクラフトビールが提供されるようになり、スーパーでも瓶や缶で販売されるようになった。

数字で見ても、クラフトビールの人気は確かだ。国内では飲酒人口の減少とビール離れが加速し、ビール市場全体(発泡酒・新ジャンル含む)では規模が縮小し続けている。2011年に約560万キロリットルだった販売数量は、2019年に487万キロリットルとなり、2020年はコロナ禍もあって440万キロリットルにまで落ち込んだ。しかし、一方でクラフトビールの販売数量は年間10%のペースで成長しており、現時点のシェアは全体の約1%と少ないものの2026年には3%を超えると言われている。10年で20%減少した市場全体の流れとは対称的である。また、2010年に約220カ所だった国内のブルワリーの数も2023年8月現在では700を超える。

近年の人気、実は第2次ブーム

実は2017年頃から始まる近年のクラフトビールのブーム、初出のものではなく第2次ブームにあたる。なお、国内の醸造所が国際コンペなどで受賞し始めた2000年代後半を第2次ブームとする意見もみられるが、消費者の間であまり身近にはなっていなかったということを考えるとブームとまでは言えないと筆者は考えている。

第1次ブームは1994年以降のいわゆる“地ビール”ブームだ。もともとビールの生産は年間2000キロリットル以上製造できる業者に限られ、ほぼ大手メーカーしか製造することはできなかった。しかし1994年に酒税法が改正され、下限が年間60キロリットル以上となったことで小規模業者もビール事業へ参入できるようになったのである。年間60キロリットルは平日営業日(240日)で割ると1日で大瓶400本程度の生産量だ。

町おこし的な目的もあって地ビール生産は盛んになり、1995年にわずか18カ所しかなかったブルワリーは1999年に313カ所にまで増えた。しかしその後は人気が下火となり、前記の通り2010年の約220カ所にまで落ち込んでしまった。

地ビールブーム収束の最大の理由はブルワリーの技術力不足である。生産には相当なノウハウが必要であるため5年、10年程度でおいしいビールが造れるわけもなく、消費者に受け入れられなかったのである。「地ビール=まずい」という印象を持つ人がいるのもこうした背景がある。一方、最近のブームで認知度の高い「常陸野ネストビール」や「伊勢角屋麦酒」などは90年代後半に生産を開始したブルワリーであり、歴史と技術力のある醸造所といえよう。

クラフトビール人気は、消費者ニーズとマッチしたことが理由

ブルワリーの技術力向上も背景にあるが、なぜ特に近年、クラフトビールが人気となっているのか、その理由を3つの側面から考えてみた。

1つ目は「特徴的な香りや風味」である。前記の通り、大手メーカーが出すビールはラガーによるピルスナーが主流である。すっきりとした味わいと苦みが特徴で、クセを感じることはない。一方、クラフトビールは種類が豊富で、IPAの場合は強い苦みとフルーティな香りが特徴だ。アメリカ北東部のニューイングランド地方発祥の「ヘイジーIPA」は濁った見た目が特徴で、IPAよりも苦みは抑えられていてジュースのような口当たりである。黒ビールのスタウトはやや甘みがある。もちろん、同じジャンルでもブルワリーごとに味や香り、色は大きく異なる。従来のビールにはない香りや風味がファンを惹きつけているようだ。

2つ目の理由として「近年の消費者心理にマッチした」ことがあげられる。バブル期までは有名なものを買いたいという消費者のブランド志向が強かったが、近年の消費者はブランドよりも「自分にあった物を探したい」という欲求が強いと言われている。IPAやセゾンといったビールのジャンル、そしてブルワリーを掛け合わせれば膨大な数のクラフトビールがあり、選択肢の多さは好みを探すうえでの魅力となるだろう。大手メーカーが出す画一的な商品ではなく、自分好みのビールを選びたいという欲求がクラフトビール市場を支えていると考えられる。

そして3つ目の要因として考えられるのが「トキ消費との相性の良さ」である。「トキ消費」とは“その場”でしか楽しめない消費行動のことで、例えば音楽フェスやハロウィンイベント、推し活などがあげられる。期間限定のコラボカフェで飲食するのもトキ消費のひとつだ。「コト消費」に代わり2020年代からは「トキ消費」が目立つようになった。クラフトビアバーでは常時10種類以上のビールが用意されておりさまざまなビールを楽しむことができる。とはいえ商品一つの生産量がそもそも少ないため常に同じメニューから選べるわけではなく、1、2週間ごとにTap(メニュー)が入れ替わるのが一般的だ。そのためビアバーには立ち寄った“その場”でしか味わえない楽しさがある。中にはブルワリーに直接赴くファンも居るようだ。クラフトビールはまさにトキ消費を叶えてくれるツールといえる。

大手ビールメーカーも続々参入

流行に乗るべく、大手ビールメーカーもクラフトビール市場に参入している。キリンビールは「SPRING VALLEY」(2021年3月~)、サントリーは「東京クラフト」(2017年2月~)などのブランドで展開。また、アサヒビールは1995年に「TOKYO隅田川ブルーイング」を設立しており、飲食店向けのブランドとして近年特に宣伝を強めている。

海外に目を向けると、ブルワリーはドイツに約1,500カ所、アメリカに至っては約6,000箇所もあると言われている。欧米において大手が占める割合は日本より低く、アメリカの場合、市場の13%を独立系ブルワリーが占める。今後、国内の小規模ブルワリーがどこまで伸びるかは未知数だが、成長のポテンシャルは高いだろう。今後どのようなクラフトビールが生まれるのか楽しみにしていきたい。