消費の足を引っ張るガソリン代高騰 価格抑制の有効な手段はどこに

2023.9.11

経済

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消費の足を引っ張るガソリン代高騰 価格抑制の有効な手段はどこに

ガソリン価格の高騰に歯止めがかからない。資源エネルギー庁が8月30日に発表したレギュラーガソリンの店頭価格は1リットル185.6円と、15年ぶりに統計開始以降の最高値を更新した。値上がりは15週連続となる。全国で最高値だったのは長野県の194.0円で、これで長野、鹿児島、長崎、山形の4県が190円台を突破した。このままでは9月末時点で全国平均として195円前後になるとも言われている。ガソリン代高騰によって今後の経済へどのような影響を及ぼすだろうか。

たった1円の値上げで物流は大きな負担

ガソリン不足は、お盆休みの移動や物流を直撃した。台風6、7号の影響で、石油製品を運ぶ船舶に遅れが生じ、ガソリンが品薄となる地域も出ている。すでに高速道路のサービスエリアなどでは200円を超えているケースもある。急激なガソリンの高騰は、庶民の生活を直撃。消費の頭を抑える事態も想定される。

ガソリン価格の高騰は、幅広い経済活動を直撃する。全日本トラック協会の資料によると、軽油価格が1円上がると業界全体で約150億円の負担増となるとされる。物流業界には、トラックドライバーの時間外労働に罰則が適用される「2024年問題」もあり、燃料価格の高騰を輸送料金に転嫁するのは簡単ではない。物流の停滞は経済の根幹を揺さぶる。

政府の補助金でも歯止めはかからず

政府も手をこまねいているわけではない。高騰するガソリン価格の対策として政府は、ガソリン1リットル170円を超えないように昨年1月から、石油元売り会社に補助金を出し、店頭でのガソリン価格を抑えてきた。 だが、その補助金も6月から段階的に引き下げられ、資源エネルギー庁が公表しているデータによると、政府の補助金によって昨年6月には41.9円の抑制効果があったが、現在は13.6円まで抑制効果が減少している。

そこで野党から声が上がっているのが「トリガー条項」の発動だ。「トリガー条項」とは、ガソリン価格が3カ月連続で1リットル160円を超えた場合にガソリン税の上乗せ分である25.1円の課税を停止して、その分だけガソリン価格を下げるというものだ。 今回の全国平均181.9円で計算してみると、25.1円下がって156.8円となる計算だ。だが、このトリガー条項は東日本大震災の復興財源を確保するため現在、凍結されている。

その代替策として政府は補助金を出してきたわけだが、徐々に効果は薄れている。政府がガソリンなどの物価高対策を打ち出したのは昨年末。今年度の後半以降には物価上昇が落ち着き、物価高対策は必要ないと判断していた。この時の物価予想に基づいて段階的に引き下げられているのだが、実際は政府の予想に反して、ガソリン価格をはじめとする物価上昇は続いている。

当初、この補助金は9月末で終了する予定だったが、8月22日、10月以降もガソリン価格の高騰に対応する激変緩和措置を続ける調整に入った。岸田文雄首相は8月30日、9月末に期限を迎える予定だったガソリン補助金について、年末まで延長すると表明。9月7日から段階的に拡充し、10月中にレギュラーガソリンの全国平均価格が175円程度となるよう調整していく構えだ。

だが、来年以降もガソリン価格の高騰は続く可能性が高く、一時のがれに取り繕っているだけとの批判を浴びかねないリスクがある。

円安進行が価格上昇に拍車

さらに、政府の誤算は物価上昇だけではない。1ドル=145円を超える円安の進行も輸入物価を押し上げ、ガソリン価格の上昇に拍車をかけている。ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年春、原油価格は一時期、1バレル=100ドル超まで跳ね上がったが、この時の為替は1ドル=118~133円だった。しかし、足元では145円を挟む円安が進行している。だが、円安の根幹にある日米の金利差は縮まる気配はない。

本丸の日本銀行は、長期金利の上昇幅を一定範囲内に収めるイールドカーブ・コントロールの柔軟化に踏み込んだ段階で、マイナス金利の解除、金利引き上げにはまだかなりの距離がある。一方、アメリカはインフレ抑制から少なくともあと1回の金利引き上げが想定されている。日本政府による為替介入がなければ1ドル=150円も視野に入る。

OPEC(石油輸出国機構)のデータによると、サウジアラビアの減産などの影響で7~9月の世界の需給は、日量200万バレル超の大幅供給不足に陥る見通しだ。アメリカ経済は好調で、デフレ懸念が台頭している中国も政府が必死で景気刺激策を講じており、いつ息を吹き返してもおかしくない。市場では旺盛な原油需要を背景に、年内にも再び1バレル=100ドルに近づく可能性もあるとみられている。

戦争に翻弄されてきた石油価格

翻って、戦後、日本経済はまさに石油価格の動向に翻弄されてきた歴史でもある。最初の試練は1970年代。高度成長期の終わりを告げる、2度の石油危機(オイルショック)だった。

第1次オイルショックは、1973年10月に勃発したイスラエルとアラブ諸国との第4次中東戦争を機に、石油輸出国機構(OPEC)の加盟6カ国が石油価格を4倍まで引き上げたことで起きた。日本国内では石油・同関連品の需給等による便乗値上げが相次ぎ、異常な物価高騰になったため「狂乱物価」とも呼ばれるインフレーションが発生。主婦の間でトイレットペーパーが無くなるとの噂が広まり、スーパーに殺到する映像は、いまも記憶に新しい。

続いて、第2次オイルショックは1979年のイラン革命を機に再び石油価格が約2倍に上昇したことで起きた。イランの石油生産が中断したことで、イランから大量の原油を輸入していた日本にも甚大な影響を及ぼした。さらに、1990年8月イラクによるクウェート侵攻で起きた、ミニオイルショックもある。いわゆる湾岸戦争とその反動で一時的に石油価格は高騰した。

1966年当時は1リットル=50円だったガソリン価格は、2度のオイルショックを経て、1982年には177円まで高騰した。その後、世界的な石油需要の低迷で1986年に逆オイルショックになり、ガソリン価格は下がったが、アメリカで起きたサブプライムローン問題を契機に2008年に再び高騰、直後のリーマンショックで急落するなど、乱高下を繰り返した。そして、現在はロシアによるウクライナ侵攻を境に高騰局面にある。原油価格の変遷は、まさに「戦争に翻弄されたような歴史」と言っていい。

価格抑制のカギは課税の見直しか

足元のガソリン価格の高騰に有効な手を打てずにいる政府。考えられる処方箋とは何か。国民民主党は6月20日に、①現行補助の半年延長 ②トリガー条項発動 ③暫定税率や二重課税の廃止を政府に提言した。①については半年とはいかなかったが、政府は3ヵ月の延長を表明。しかし、残りの2つについては、いずれも財源問題が立ちはだかる。

まず、②のトリガー条項を発動すれば、1リットル=25円ほど下げられる。さらに消費税をガソリンに限って時限的に0%にすれば、20円近くの値下げになる。しかし、トリガー条項の発動は先述したように東日本大震災の復興財源を確保するため現在、凍結されている。打つ手があるとすれば、③の暫定税率や二重課税の廃止だ。

ガソリンには、消費税のほかにもガソリン税が課されている。消費税については2019年10月から10%に引き上げられている。また、ガソリン税には揮発油税と地方揮発油税のふたつあり、揮発油税は主にガソリンにかかる税金となり、1リットルあたり48.6円が課税される。また、地方揮発油税はその課税対象は揮発油の製造者のほか、揮発油を外国から輸入してきた場合の輸入者となり、その税額は1リットルあたり5.2円。この揮発油税と地方揮発油税を合算したものが課税総額となるが、さらにガソリンを製造場から出荷した時にかかってくる税金が加わる。

ガソリンはまさに“税金の塊”であり、ガソリン自体の価格に、ガソリン税等が上乗せされ、さらに消費税を課す二重課税となっているのだ。国の2022年度の税収はおよそ71兆円と、前の年度から4兆円以上増え、3年連続で過去最高となっている。ガソリンの二重課税の解消をはじめ、減税の余地はあると思われるのだが……。

内閣府が8月15日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP)の速報値は、成長率が年率換算で6.0%増と伸びた一方、個人消費は前期比0.5%減だった。物流に大きな影響を及ぼすガソリン価格の高騰が物価全体を押し上げ、消費の足を引っ張った形だ。

GDPの半分以上を占める個人消費の低迷が続けば、輸出が好調だとしても、景気を本格的な回復軌道に乗せるのは難しい。ガソリン価格の抑制は“焦眉の急(しょうびのきゅう)”、差し迫った対応が求められる。