最近、ロシアと北朝鮮の接近が著しい。直近ではロシアのショイグ国防相が9月4日、「北朝鮮はロシアの隣人だ」と指摘した上で、北朝鮮と合同軍事演習を行うことを検討していると明らかにした。また、9月10日には北朝鮮の金正恩総書記が、ロシアのサンクトペテルブルクで開催される東方経済フォーラムに合わせて訪露。各国メディアはプーチン大統領と会談する可能性を報じている。対米において中国とともに結束を必要とする両国は果たして、どこまで接近するのだろうか。
国際的枠組みが存在しない東アジア
ロシアと北朝鮮がどこまで接近するのかは、まず、日本周辺の安全保障環境から考えてみる必要がある。今日、台湾情勢をめぐって、米中の対立は不可逆的なところまで来ている。3期目の習政権は台湾統一を“ノルマ”と位置付け、台湾を太平洋進出への軍事的最前線と位置づけようとする。中国を警戒するアメリカは、台湾を“防波堤”として中国の海洋進出を抑えようとしている。そして、韓国ではユン政権が誕生して以降、日米重視路線に舵を切った。これにより、対北で日米韓3カ国の結束は、これまでにも増して強化されている。そのため、北朝鮮の姿勢はいっそう厳しくなり、南北関係は急激に悪化している。
さらにウクライナ侵攻以降、ロシアと欧米の関係は当然のごとく悪化している。加えて、ロシアは9月3日、樺太や択捉島、国後島、色丹島など北方領土で対日戦勝を記念する行事を開催した。ロシアは2023年から9月3日を「第2次大戦終結の日」から、「軍国主義日本への勝利と第2次大戦終結の日」と名前を変更し、欧米と共に制裁を強める日本をけん制している。
このように、東アジアは大国間対立の激震地と言え、ASEANやEUのような地域の問題を地域で解決していこうとする国際的枠組みが存在しないのである。
対米においてロシア、中国、北朝鮮の結束はメリット大
こういった安全保障環境のなかでは、アメリカと対立する国々同士の接近や協力は起きやすい。ウクライナに侵攻したロシアに対し、日米韓はロシアへの制裁を強化し、ウクライナ支援に徹しているが、中国や北朝鮮はそれを黙認し、むしろエネルギー分野などロシアとの経済関係を強化している。対米という同じ立場にあるロシア、中国、北朝鮮の3カ国にとって、それぞれが政治や経済、軍事の分野で結束を強化するには大きなメリットがある。
今回のロシアと北朝鮮の接近もその一環であり、両国の情勢に詳しい専門家によると、ロシアは北朝鮮から武器などを支援してもらう、北朝鮮はロシアから食糧支援をしてもらうという、それぞれの狙いがあり、両国はwin-winの関係にあると指摘している。今後、米中、米露の対立が先鋭化すればするほど、北朝鮮とロシア、北朝鮮と中国、3カ国による合同軍事演習もより現実的な選択肢となろう。
結束以上、同盟未満
こういった状況では、われわれは日米韓vs中露朝のような構図を思い浮かべる。しかし、中露朝が日米同盟や米韓同盟のような価値感や戦略を共有した、常設的な軍事同盟を結ぶことはない。
今日、世界にある軍事同盟は相互防衛を基本としている。片務的な防衛体制となっている日米同盟は(日本政府は限定的な集団的自衛権を容認したが)その例外と言えるだろう。ロシアがウクライナに侵攻したのも、ウクライナが相互防衛体制となっているNATOに加盟していなかったからと言える。
当然、軍事同盟といっても相互防衛がマストではないので、仮に中露朝が軍事同盟を締結するとなっても、その中身はその後の議論で決定される。しかし、それ以前に3カ国は戦略を共有していない。
例えば、ウクライナ戦争に軍備や資金を集中的に当てざるを得ない今日のロシアに、朝鮮有事や台湾有事に関与するような余力もなければ、そもそもそういった意思も皆無だろう。北朝鮮も同様で、あくまでも敵は“南”であり、朝鮮半島“外”のことには関心もなければ余力もない。中国はウクライナ戦争以降、一貫して軍事的に関与する姿勢を示していないが、それは習政権にとっての最大の競争相手はアメリカであり、欧州の紛争に軍事的に巻き込まれたくないという本音があるからだ。
中露朝の接近や協力はあくまでもそれぞれの核心の外にあり、互いが互いを便利な相手ととらえていると言った方がいいだろう。直近ではその範囲内で、最大限の軍事協力が進むであろう。