年間数兆円の経済波及効果で国内景気は回復し、働く場も増え、増加する社会保障費の財源も確保、国際競争力もアップ……と良いことづくめのようだが、治安の悪化やギャンブル依存者急増の懸念も。果たして実態はどうか。
メリット[1]外国人観光客の増加&MICEの誘致促進
IRを国内に造れば、外国人観光客数は確実にアップする。世界中から人が集まるということは、カネとモノ、情報も集積するわけで、そうすればMICEの需要も必然的に高まり、さらに海外からヒト、モノ、カネ、情報が集まる。まさに好循環で、これは日本経済にとって大いにプラスだろう。
政府が音頭をとって推進する「ビジット・ジャパン」「クール・ジャパン」のお陰で、日本を訪れる外国人は2013年に年間1,000万人を初めて突破、2020年には同2,000万人という目標を掲げているが、これも東京五輪でほぼ確実視されている。
だが問題は、五輪というお祭り気分が冷めた後の景気の落ち込みで、これが悩ましい。IRは、その際に景気を持続させるブースターとしても考えられているのだ。
メリット[2]地域の雇用創出・経済波及効果・インフラ整備
仮にIRを国内に10ヵ所ほど造ったとして、その経済波及効果は年間3兆~8兆円と言われている。GDP500兆円規模の日本経済を考えれば”焼け石に水”とも思えるし、この程度の年間売上高を叩き出す上場企業などザラ。
だが肝心なのは、IRは波及効果の裾野が広いということ。ホテルにレストラン、交通機関、土産物、娯楽と続き、さらにこれらを支える分野まで考えれば、ほぼ全業種に恩恵が行き渡る。
日本ブランドの美味しい農作物、魚介類のオーダーもアップするはずだ。またIRを訪れた外国人の多くは、周辺の物見遊山もするだろう。となれば各地の商店街も潤い、雇用も増える。
同じ”8兆円”でも、IRの波及効果で稼ぎ出したおカネと、1つのメーカーの年間売り上げを比べた場合、国のGDPに対する直接的な貢献度に大差はない。だが、別項でも詳述しているが、前者の場合、その恩恵は零細企業、小売店や一般庶民に広く浅く行き渡る。それはやがて消費に回り、景気の下支えとなる。一方後者の場合、下請け企業や従業員を通じて景気アップに貢献するものの、波及効果はごく一部。メーカーの多くは工場の海外移転を進め、国内の雇用増加は望み薄。加えて企業は利益の相当部分を内部留保に回すため、カネはなかなか市井に還流しない。つまりIRの方が、景気へのインパクトが大きいと考えられるのだ。
また、多くの来訪者をスムーズに輸送するために、既存空港はもちろん、鉄道や高速道路、港湾といったインフラの整備・拡張、さらには新規建設も必要になってくる。同様に多種多様な施設の新設も必須だ。これらには大量の鉄や資材と多くの建設従事者が投入され、これまた景気刺激策となる。
メリット[3]社会保障の財源確保
急増する年金、医療、介護・福祉といった社会保障費の財源確保のための裏ワザとして、政府はIRに期待を”賭けて”いる。
日本には将来、超少子高齢・人口減少社会が確実に訪れる。現在1億2,000万人強の人口も、2060年には約8,600万人にまで落ち込むことは確実。遠い将来の話に思えるが、今20歳代の人間が70歳を超えた頃の話だから、無縁ではない。
要するに”老人社会”となること。65歳以上の高齢者の割合は現在約25%だが、これがこの頃には4割になる。社会保障費もうなぎ上りで、現在の110兆円が200兆円を超えると見られる。
超少子高齢・人口減少社会では、高度経済成長は難しく、税収アップは至難の業。だからといってこれ以上安易に消費税アップを繰り返せば、かえって景気は落ち込み税収は下がる。また、法人税を上げれば優良企業からドンドン海外に逃げていく。国債で賄うにしても、1,000兆円に達した公的債務を考えるとこれ以上の増加は危険。
ということで、IRは”最後の切り札”なのだ。経済波及効果で満遍なくカネが流れこれが消費に回る。そうすれば政府も、消費税や所得税という形で国民から広く浅く財源を確保。加えてカジノで得た利益の相当部分も合わせ、これを社会保障費に充当するというシナリオだ。
しかもIRで大金を落とす人間は、国内外のセレブが主。蓄財している資金を吐き出させ、流動性として市井に還流させれば、経済は間違いなく活気づく、という計算だ。
「カゴに乗る人、担ぐ人、そのまたワラジを作る人」という格言があるが、まさにカジノは”カネを市中でいかに回転させるか”を追求した、究極のマクロ経済ともいえるのである。
デメリット[1]ギャンブル依存症が増加!?
カジノ解禁で最も懸念されているのが、「治安悪化」とともに「ギャンブル依存症」の”患者”の急増だ。家庭が崩壊、一般社会になじめない国民が急増し、賭け事を続けるために犯罪に手を染める者が巷にあふれるのでは……という不安である。
実際、厚労省が2009年に発表したデータによれば、日本の同依存者率は5.6%で、アメリカの0.6%、マカオの1.78%と比べて高く、警鐘を鳴らすマスコミも少なくない。だが解禁賛成派の一部は、「このデータは、医師が正式認定した患者の割合ではなく、本人や家族のアンケート調査に過ぎない」と反論する。
また、カジノで依存者が急増するという理屈は、そもそも本末転倒だ。すでに競馬や、パチンコ、宝くじといった賭け事が国内にあふれ、「他国よりも高率だ」と嘆くならば、国や自治体、業界団体はすでに抜本的な対策を大々的に行なわなければならない、ということだ。
タバコのパッケージのように、「ギャンブルのやり過ぎは健康を害し、家庭を崩壊させます」と大いにPRすべきだろう。カジノだけを悪者にするのは合理性に欠ける。
さて余談だが、天下の2大新聞、朝日と読売も、ことカジノに関しては、依存症の弊害を掲げて慎重な意見を紙面に掲げる。だが、彼らが傘下に収める各スポーツ誌や雑誌、TV・ラジオ局などは、競馬をはじめとする公営ギャンブルやパチンコ業界によって成り立っているといってもいい。
こうした事情を無視して、カジノ解禁による依存症の危険を訴えるのは、ダブルスタンダードだといえないだろうか。
デメリット[2]日本の治安が悪化する!?
カジノができると治安が悪化する、と考えるのはあまりにも早計で、ハリウッドのギャング映画の影響を受け過ぎている。日本が手本にしようとする、カジノのメッカ・ラスベガスは、
- 世界中のセレブが集まる紳士・淑女の社交の場
- FBI(アメリカ連邦捜査局)さえ徹底的に監視する厳重警備
の2点で、治安悪化とは無縁だ。
まず[1]だが、世界中の大富豪や企業経営者、アラブの王族たちが集まる場所なので、治安が悪いはずがない。実際、ベガスは全米で最も安全な町のひとつと評される。警官や警備員が街中を巡回し、泥酔者や行儀の悪い人間は直ちに排除される。至る所に監視カメラも置かれ、最新のIT技術で犯罪履歴のある者を瞬時にチェックするという。カジノ内は入場時の年齢制限はもちろん、服装チェック(ドレスコード)が常識。
また、カジノ側はすべてのスロットマシーン、カードゲーム場を監視、加えて顔認識システムなどを駆使し、不審者やイカサマ師を徹底的に洗い出す。この辺は映画『ラスベガスをぶっつぶせ』(2008年、アメリカ)に詳しい。不正行為を働いた人間はブラックリストに載り、日本の全カジノが出入り禁止となるはずだ。
一方[2]だが、FBIは、カジノという大金が動く場所を悪用し、麻薬組織や国際テロ組織が資金洗浄のために暗躍することを最も恐れている。国内でのカジノ解禁ともなれば、日本の警察もこの辺りも厳に取り締まるはず。それ以前に、FBI側がアメリカ並みの監視体制を求めてくるだろう。同盟国の賭博場が、国際テロ組織の温床と化していた、では洒落にならないからだ。
ちなみに、カジノ全体のセキュリティー・システム全体を構築できる企業として、パナソニックやNECが世界のカジノ業界から高い評価を受けている事実は、あまり知られていない。