経済対策発表後も支持率低迷 奇妙なバランスで安定する岸田政権

2023.11.7

政治

1コメント
経済対策発表後も支持率低迷 奇妙なバランスで安定する岸田政権

写真:ロイター/アフロ

政府は11月2日の閣議で、一人あたり4万円の定額減税や非課税世帯への7万円給付などを盛り込んだ事業規模37兆円超の経済対策を決定した。裏付けとなる補正予算案を20日にも提出し、月内の成立を目指す。定額減税は岸田文雄首相主導で決めたとされるが、狙いだった支持率回復どころかバラマキ批判で支持率はさらに低下。“岸田降ろし”につながりかねない事態となっている。

物価高対策には定額減税や給付金を導入

賃上げと所得減税を合わせることで、国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実につくりたい」。岸田文雄首相は、経済対策決定後の記者会見でこう意気込んだ。

経済対策に盛り込んだ物価高対策の柱は、一人あたり所得税3万円、住民税1万円、あわせて年間4万円の定額減税だ。納税者本人と扶養者が対象で、例えば夫婦と子ども2人の家庭なら16万円の減税となる。減税の総額は3兆円台半ばとみており、2022年度までの2年間で所得税と住民税が3.5兆円上振れた分の還元と位置付けている。

政府は所得制限を設けずに2024年6月に減税を実施する方針だが、与党内では2000万円程度の所得制限を設けるべきとの声もあり、与党の税制調査会などで年末に詳細を決める。

一方、住民税の非課税世帯には、1世帯につき7万円の追加給付を決めた。すでに発表した物価高対策の3万円給付と合わせ、合計10万円の給付となる。所得税が非課税だったり、納税額が減税額未満で恩恵を受けきれなかったりする“隙間世帯”にも給付金を支給する。

また、ガソリンの価格上昇を抑える補助金や電気、ガスの料金を差し引く措置は、2024年4月まで延長する。物価高対策の財政支出の総額は6.3兆円を見込む。

賃上げ対策や国内投資の促進なども積極的に推進

賃上げ対策としては、従業員の賃金を積極的に引き上げた企業への税優遇や補助金を拡充するほか、主婦などの労働時間短縮の原因といわれる“年収の壁”への対策、リスキリング(学び直し)を支援するための給付金の拡充、高速道路の通勤帯割引の拡大などを盛り込んだ。賃上げ対策の総額は3兆円。

このほかにも国内投資の促進や国土強靭化などに7.7兆円程度を投じ、国と地方自治体、民間投資を含む事業規模は総額37.4兆円となる。当初予算で計上した予備費なども活用し、補正予算案の一般会計は13.1兆円程度となる見込みだ。政府は消費者物価を1%引き下げ、実質GDP(国内総生産)を1.2%押し上げる効果が見込めると説明している。

経済対策を講じてもつきまとう、強力な“増税”イメージ

経済対策は支持率低迷に悩む岸田政権にとって起死回生の一手になる……はずだった。岸田首相はSNSなどで「増税メガネ」と揶揄されているのを非常に気にしているとされ、自ら主導して定額減税を決定。与党の一部から批判を受けても撤回しなかったという。

しかし、共同通信社が11月3日から5日かけて実施した世論調査によると、定額減税や非課税世帯への給付について「評価しない」が62.5%にのぼり、「評価する」は32.0%にとどまった。経済対策を評価しない理由については「今後、増税が予定されているから」が40.4%と最多で、「経済対策より財政再建を優先すべきだ」が20.6%、「政権の人気取りだから」が19.3%で続いた。財政が厳しいなかでの減税や給付は一時しのぎの“バラマキ”だと国民は見透かしているのだ。

経済対策への批判が追い打ちとなり、内閣支持率は前回調査より4.0ポイント減の28.3%で過去最低を更新した。不支持率は4.2ポイント増の56.7%で過去最高。JNNが11月6日に発表した世論調査でも支持率は10.5ポイント減の29.1%で過去最低、不支持率は10.6ポイント増の68.4%で過去最高となった。7割近くの有権者が不支持を表明するのは異常事態といえる。

支持率低下でも奇妙なバランスで政権は安定

さらなる支持率低下で年内の解散はさらに遠のいたといえるが、与党内では不思議と“岸田降ろし”の風が吹いていない。自らが率いる第4派閥の岸田派に加え、最大派閥である安倍派や第2派閥の麻生派、第3派閥の茂木派が支える安定した政権基盤を構築できていることに加え、過去に総裁選を争った高市早苗経済安全保障担当相や河野太郎デジタル相らを閣内に封じ込めているからだ。

一時は茂木敏充幹事長がポスト岸田に公然と意欲を示していたが、先の内閣改造・自民党人事で同じ茂木派の小渕優子氏を党4役に取り込んだことを機にトーンダウンした。かつて谷垣禎一総裁を差し置いて石原伸晃幹事長(当時)が総裁選に挑んで“裏切り者”のレッテルを張られたことから、二の舞になるのを避けようとしているとの見方もある。

非主流派である石破茂元幹事長や二階俊博幹事長、菅義偉前首相らの動きも不透明だ。子育て対策や防衛費の増額に向けた増税議論が控えるなかで、火中の栗を拾いたくないとの狙いも透ける。ただ、2024年9月には首相の自民党総裁としての任期満了が控えており、総裁選が近づけば否が応でもポスト岸田争いは熱を帯びるだろう。

野党からも表向きな批判は聞こえるが、本格的な政権打倒への気迫は感じ取れない。野党第1党の立憲民主党が支持率で野党第2党の日本維新の会に遅れをとっており、野党内の連携協議への機運も高まっていないからだ。表向きは選挙を望んでいても、実際には今やっても勝てないのは明白。であればしばらくじっとして、自民党政権の自壊を待つのが得策というわけだ。

バラマキ経済対策でさらに支持率を落とした岸田政権。奇妙なバランスでどうにか安定感は保っている。