必要なのは対立の“管理” 米中首脳会談の歩み寄り

2023.11.22

社会

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必要なのは対立の“管理” 米中首脳会談の歩み寄り

写真:MFAChina/UPI/アフロ

近年、アメリカと中国は安全保障や経済、貿易や人権、先端技術など、あらゆる領域で対立、競争していたが、11月15日に行われた米中首脳会談では両者歩み寄る姿勢を見せている。アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席、それぞれの思惑はどのようなものだろうか。

会談の背景にある米中の抱える事情

11月15日にサンフランシスコで行われた米中首脳会談では、軍当事者間の対話再開や人工知能分野での規制、気候変動などで協力し、軍事衝突など不測の事態に陥らないよう関係を管理していくことで一致した。大国の指導者たちが直接対面し、対話を続ける重要性を双方が共有していることは極めて重要であり、その点は今回の会談の大きな成果の一つと言っていいだろう。

会談が行われた背景には、米中双方、対立が先鋭化することを避けたい事情がある。アメリカとしては、ウクライナ情勢とともにイスラエル情勢が緊迫化しており、東欧や中東での問題に関与するなか、台湾情勢などによって中国との対立が先鋭化し、同時に3つの国際情勢と正面から向き合うのはアメリカとはいえ厳しい。すでに“爆発している”2つの問題を抱えるなか、3つ目の爆発を避けるため、中国との競争が“紛争”にならないよう管理する必要があるのだ。

そして、中国側にも事情がある。中国経済の成長率は鈍化し、不動産バブルの崩壊や若年層の失業率悪化など、習政権は国民の経済的不満の矛先が自らに向けられることを警戒しており、外資を呼び込みたい思惑がある。そのためには、一つにアメリカとの経済、貿易関係を安定化させる必要があり、中国としても対立を管理していくことが求められる。

米中双方とも相手方との関係が悪化すれば、それは自らに跳ね返ってくることを熟知しており、それが協力できる分野では協力を促進するという姿勢を作っている。

双方譲らぬ台湾問題と先端半導体

一方、譲れない分野では今回の会談でも平行線だった。習国家主席は会談中、アメリカでは中国が2027年や2035年に軍事行動に出るとの報道があるが、そうした計画は一切ないと否定し、台湾への武器支援を停止して平和的統一を支持するようバイデン大統領に要求した。ちなみに、2027年は人民解放軍の健軍100周年、2035年は中国政府が掲げる長期目標の達成する時期として定められている年だ。また、台湾統一は必ず達成するとの意思を改めて強調した。しかし、バイデン大統領は一方的な現状変更に反対し、台湾周辺での軍事行動を自制するよう要求した。

中国は台湾を絶対に譲れない「核心的利益」に位置づけているが、アメリカとしては中国が台湾をコントロールすれば、台湾を軍事的最前線とし、西太平洋に進出してくることを警戒している。いわば、アメリカにとって台湾は中国の太平洋進出を抑える防波堤と表現できる。最近、台湾は民主主義と権威主義の戦いの最前線とも指摘されるように、米中双方にとって譲れない最重要イシューになっているのだ。

また、予測できたことではあるが、先端半導体分野でも大きな進展はなかった。バイデン政権は2022年秋、中国によって軍事転用される恐れから先端半導体分野で中国への輸出規制を強化した。しかし、それだけでは先端半導体が中国に渡ってしまうリスクが拭えないことから、先端半導体の製造装置で世界の先端を走る日本とオランダに同規制に加わるよう呼び掛け、日本は2023年7月下旬、製造装置など先端半導体関連23品目で中国への輸出規制を強化した。

軍の近代化を目指す中国としては、アメリカやその同盟国が先端半導体分野で規制を強化することに強い不満を示し、その後、半導体の材料となる希少金属ガリウムとゲルマニウム関連で対外輸出規制を強化するなど、貿易面での対立が激化している。今後も安全保障にかかわる分野での貿易摩擦はいっそう激しくなると予想される。

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米中の緊張緩和に必要なのは定期的な対話

今回の米中首脳会談後、バイデン大統領は習国家主席を改めて「独裁者」と呼んだ。その真意がどこにあるかはわからないが、おそらく、来年、再来年行われる米中会談でも今回のような結果が繰り返されるだろう。今後も協力するところでは協力する、譲れない分野では譲らないという姿勢は、米中双方が貫くところだ。

冒頭でも指摘したように、米中双方にとって今日最も重要なのは、対立が爆発しないよう関係を管理することだ。イスラエル情勢のように、一つのことがきっかけで状況が一変するリスクは台湾情勢にも内在しており、それによって対立や緊張を管理できなくなることは十分に想定される。米中2大国の指導者が定期的に会うことは、関係を管理するという視点から極めて重要なのである。