世界で最も逃げ足の速い公金の株式運用

2014.11.10

経済

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国の年金を運用するGPIFは、リスクマネーで運用することが許されているが、地方自治体の公金は株式運用が認められていない。運用が認められ、運用成績が上がれば自治体の運営は楽になる。しかし、リスクは付き物で、元本が保証されるものでもない。さて、その責任の所在はどうなるのか。

公金を株式運用したい舛添要一都知事

舛添要一都知事は、都の公金を株式で運用できるよう、関係省庁に働きかける意向を示している。9月末には会計士や証券アナリスト、大学教授、弁護士、マスコミなどの有識者をメンバーとする「資金管理・活用アドバイザリーボード」を設置し、都の公金について株式を含め、より効率的かつ有効な運用について議論を開始。「運用の現場、証券会社でやっている方、ウォールストリートに詳しい方、ザ・シティに詳しい方などの意見を聞きながら、どうすればいいか考えていきたい」(舛添知事)というわけだ。

「(国の)年金の運用については株式の運用は可能だ。しかし、その他の自治体が持っている公金についてはこれが不可能だ。おかしいのではないか」。舛添知事は、9月10日に開かれたバンクオブアメリカ・メリルリンチ主催の「ジャパンコンファレンス」で強調した。その上で「東京国際金融センター構想」の一環として、都の公金を株式に投資できるよう国に規制を緩和するよう求めていく考えを示した。舛添知事の念頭にあるのは、自治体の公金と同じ性格をもつ公的年金の運用だ。

公金運用のルールは”確実・効率的に”

国の厚生年金や国民年金などの公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は株式運用し、かつ、その比率を高めようとしているのに、自治体の公金の株式運用は禁止というのでは理屈に合わないというのが舛添知事の主張。
特に舛添氏は2007年から09年にかけてGPIFを所管する厚生労働大臣を務めており、当時からGPIFの株式運用比率引き上げを働きかけてきた当事者だけに納得がいかないようだ。

だが、地方自治法では住民の税金を裏付けとする公金の運用は、「確実かつ効率的に運用する」ことが義務付けられている。一方、国民が納める年金保険料が原資のGPIFは、「長期的な観点からの安全かつ効率的な運用」と、両者の法的縛りは微妙に異なる。

地方自治法が定める「確実な運用」とは、預金や国債など元本保証がある商品への運用を指すというのが総務省の見解である。元本が棄損しかねない株式運用などもってのほかである。

しかし、舛添知事は、この地方自治法の解釈を変えても都の公金を株式運用に振り向けたい意向だ。「安倍総理の方向は、(GPIFについて)まさに株の運用も念頭に置きながら、眠っている資金を活用するという方向ですから、公金について旧来の解釈を続けていくことは、安倍政権の大方針と違うことになりませんか、と思っている」(舛添知事)とやんわりと皮肉った。

都民の税金を原資にリスク資産を運用

GPIFと並び舛添知事が公金運用のモデルと考えているのが、米国のカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)だ。舛添知事は9月30日の記者会見で次のように指摘している。

「一番良いのはカルパースというカリフォルニアの年金基金なのですけれど、これは思い切った運用をやって、アメリカ最大の基金なのですけれど、ものすごい好成績を上げてきた。GPIFの改革についても、カルパースを参考にしようと言っている」

年金基金でありながらリスク資産への運用に積極的なカルパースは、株式のみならず、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ、コモディティなど、多様な資産に分散投資している。
その動向は市場のベンチマークともなっており、高いパフォーマンスを誇る。都の公金もカルパースのポートフォリオ(資産構成)を参考に、リスク資産を加えるべきというわけだ。

東京都は都民の税金を原資とする約4兆円の公的基金を持っている。このうち約2兆7000億円は2020年の東京オリンピック開催に関連する費用に充てられることになっており、仮に株式投資等に振り向ける場合は残りの約1兆3000億円の一部が原資となる。

忘れるな! 公金はリスクに敏感なホットマネー

しかし、運用がうまくいき高い利益が得られればいいが、もし元本が大きく目減りする事態になった場合はどうするのか。責任の所在が問われかねない。実は、過去にそうした危機が現実のものとなったことがある。2000年初頭の金融危機時である。

このとき、東京都をはじめとする自治体は、膨大な公金を預けている指定金融機関の破綻に身構えた。ペイオフ(1,000万円を超す預金のカット)解禁が取りざたされるなか、取引金融機関が経営破綻することになれば、住民の税金を原資とする公金は大きく棄損する。財政担当者の首が飛びかねない事態に慌てた全国の自治体は、一斉に危ないと噂された金融機関から公金を引き出した。

結果、この自治体の公金離れが引き金となって国有化を余儀なくされた銀行も出たほどだ。自治体の公金は最もリスクに敏感なホットマネーであり、逃げ足の速い資金にほかならない。

その後、”あつもの”に懲りた全国の自治体は、公金の運用方針の明確化に動いた。東京都も2002年に「資金管理方針」を策定し、「安全性及び流動性を確保した上で、効率的な資金管理を行う」と明記した。
そのなかには、「元本の安全性の確保を最重要視し、資金元本が損なわれることを避けるため、安全な金融商品により保管及び運用を行うとともに、預金については金融機関の経営の健全性に十分に留意する」と謳われている。

金融危機から10年超が経過し、東京都の舛添知事は公金の一部とはいえ、株式等の高リスク資産への運用を目指している。果たして結果は吉と出るか凶と出るか。「東京国際金融センター構想」に前のめりなあまり、禍根を残さなければよいが……。

ぬるい感覚ではリスク運用など任せられない

例え国債で運用したとしても、デフォルト(債務不履行)にならないとは限らない。また、ハイリスク・ハイリターンと言うとおり、リターンを高く求めるのであれば、リスクは高くなる。極端な話、今話題のカジノに張った方がリターンはとてつもなく多い。ま、ゼロになるリスクの方が圧倒的に高いと思うけど。

冗談はさておき。責任の所在をはっきりさせよ、とは言うけど、それに見合うインセンティブがなければ誰が運用するのか。運用を任せるのであれば、役所のようにぬるい感覚(クビにならない)では、リスク運用など任せられない。

少子高齢化によって、持っている資産を運用していかないと膨れ上がる社会保障費が賄えない、ということを理解してもらわないと難しい。いずれにせよ、タックスペイヤー(税金を納める人)にとって、リスクテークすることのネガティブ・ポジティブ両方の徹底的な情報開示と、説明が求められることは間違いない。