輸出企業だけじゃない! TPPでこう変わる 中小企業の経営

2013.11.11

経済

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日本のほか米国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ベトナム、マレーシアなど、アジア太平洋地域の12カ国が参加するTPP交渉が大詰めを迎えている。インドネシア・バリ島での首脳会合に参加した安倍晋三首相は、年内妥結を目指す決意を強調した。果たして日本への影響はどうなのか。

TPPで世界の4割占める巨大経済圏

TPPは「Trans- Pacific Strategic Economic Partnership Agreement」の頭文字をとった略称で、そのまま訳せば「環太平洋の戦略的な経済連携協定」。実現すれば世界全体の約4割の名目国内総生産(GDP)を占める巨大経済圏の誕生となる。

日本にとって、貿易額全体のうちTPP交渉参加国との輸出入の割合は3割弱に達するだけに、新聞やテレビなどの報道もかまびすしい。ただ安倍政権が「絶対に守る」と公約したコメ、麦、牛肉・豚肉など農業重要5項目の関税撤廃問題ばかりが話題となっていることもあって、関心を寄せる中堅・中小企業はそれほど多くない。

しかしTPPは「関税」だけでなく、貿易円滑化や製品規格などの統一、仕事で一時入国する際の手続き簡素化といった、貿易自由化促進のための「新しいルール作り」も論議されている。おおよそ21分野と多岐に及ぶ交渉内容をよく見ると、企業にとって大きなメリットをもたらすことが分かる。

貿易手続き簡素化などで海外進出が容易に

例えば輸出相手国ごとに異なる煩雑な貿易手続きは、人や資金面で限界のある中小企業にとって輸出の妨げになってきた。貿易手続きが簡素化され、統一ルールの作成で透明化が進めば、これまで海外展開に二の足を踏んでいた中小企業が、積極的に海外市場を開拓していく上での「後押し」になる。苦労して進出しても、途上国などは規制や法律が頻繁に改廃され、不利益を被るケースも少なくなかった。これもTPP交渉が妥結すれば改善される。

日本の中小企業事情に詳しい専門家は「海外市場で十分競争できる技術を持ちながら、それに気付かず、最初から海外進出を諦めてしまっている中小企業が多すぎる」と嘆く。確かに海外進出は手間と時間がかかるし、リスクも高い。だが、輸出や海外投資によって海外と接触すると、新しい工夫や知恵が触発され、製品・サービスの多様化や効率化に役立つことが少なくないという。

ISDS条項は米国の毒まんじゅうか?

TPPは、ビザ発給などビジネスマンが国境を越えて移動する際の滞在手続き円滑化についても議論されており、国境を越えたビジネスはますます盛んになる効果が期待できる。また途上国の中には自国産業保護のため、厳しい外資規制を行っている国もあるが、TPPは内外企業の平等な競争環境の整備を目指し、規制の緩和・撤廃を要請。進出した外資系企業と国家との紛争解決のため、Investor(投資家・外資系企業)とState(国家)のDispute(紛争)をSettlement(解決)するための「ISDS条項」導入が検討されている。相手国政府による恣意的なルール変更で、中小企業が泣き寝入りを余儀なくされる、といったケースも減るだろう。

米国企業がISDS条項を利用してカナダ政府などから大金をせしめたことがあるため、日本国内では「米国の毒まんじゅう」などとISDS条項導入に批判的な意見もある。しかし日本企業がチェコ政府を訴えて勝ったケースもあり、立場の弱い中小企業が海外進出する際には、むしろプラスに働くのではないか。

コンビニなどの出店規制も緩和

最近では流通業などサービス産業の海外進出も盛んになっているが、途上国で外資系のスーパーやコンビニに厳しい出店規制をかけている国がある。またブルネイのように独占禁止法にあたる法律自体が未整備の国や、あっても不透明な取引が横行している国もある。これらもTPPで改善が期待できる。

日本政府は、インフラ輸出を成長戦略の柱の一つに据える意向だ。ベトナムが通信網の設置を郵政通信公社に独占させているなど、新興国では国営・公営企業向けの優遇策や保護策を設けているケースが少なくない。外資など民間企業が通信事業を行う場合、同公社の言い値の通信回線使用料を払わねばならず、事実上の新規参入障壁になっている。こうした状況がTPPで改善され、日系大手企業の進出が容易になれば、関連の中小企業にも海外進出の機会が広がる。

模倣品や粗悪な海賊品の悩みも解消へ

知的財産保護もTPPの大きなテーマの一つ。日本企業は東南アジアなどで、模倣品や粗悪な海賊品に悩まされている。日本が海外から受け取る特許・著作権使用料は年2.4兆円に達するものの、知的財産保護が徹底されれば、その数倍の収益を入手できるとの試算もある。アニメやデザイン、音楽などは関連する中小企業も多い。保護強化は海外での訴訟などのノウハウに乏しい中小企業にとってもメリットは大きい。

TPPを研究して活用方法を探り、国際展開できる潜在力を解きはなって、積極的に海外展開に乗り出す契機としたい。