そして誰もいなくなった ~みずほ内部抗争の14年 佐藤頭取を襲った旧3行の怨念~

2013.11.11

経済

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みずほ銀行の暴力団融資問題で、佐藤康博頭取の続投が決まった。ただ、広報対応のお粗末さで醜態をさらし、求心力は著しく低下。長期政権構想は脆くも崩れ去った。焦点は後任選びだが、旧3行の足の引っ張り合いでこれも迷走が必至。金融庁は「有力経営者の外部招聘」という最後の手段を視野に入れている。

佐藤頭取続投はOBの導き

佐藤頭取は旧日本興業銀行最後のエース。2011年から持ち株会社のみずほフィナンシャルグループ(FG)社長を務め、今年7月の傘下銀行統合を機に、新銀行の頭取も兼務している。富士銀行、第一勧業銀行、興銀という旧3行の壁を越え、グループを一人で束ねる初の「ワントップ」だ。中興の祖との評が広がり、長期政権も視野に入った矢先に暴力団問題が起きた。

天国から地獄に堕ちた佐藤氏。「そんな中で佐藤続投を早々に打ち出してグループをまとめたのは、実は旧富士の前田さんだ」。みずほグループのある有力幹部はそう明かす。

みずほFG前会長の前田晃伸氏。2002年のみずほ銀行発足直後に誤送金を乱発したシステム障害時のFG社長で、国会で「利用者には実害はない」と答弁して袋叩きにあった。前田氏は自分と同様に逆境に立たされたみずほトップとして佐藤氏に同情したのか「今こそ佐藤を支えろ」と旧富士銀出身のみずほ幹部に号令をかけ、金融庁にも佐藤続投を働き掛けたという。

ただ「困った人を助けて貸しをつくり、自分の地位を高めるのは、前田さんのいつものやり方」と冷ややかにみる向きもある。齋藤宏みずほコーポレート銀行頭取(当時)が「路チュー」事件(路上で女性とキスする姿を週刊誌が掲載)を起こした際に、続投を支持したのも前田氏。もともとは会合でそっぽを向き合うほど肌合いが悪かったが、これで完全に斎藤氏を降伏させた。その後、リーマン・ショック時の経営悪化の責任をとらずにそろって会長に就き、物議を醸した。今回の佐藤支援もその延長線上というわけだ。

いつまでたっても内部抗争

長期政権構想が崩れた佐藤頭取の最後の仕事は、後任選びである。有力候補の一人は、前田氏の秘書を長く務めた岡部俊胤副頭取(FG副社長も兼務)。前田、岡部の旧富士コンビで佐藤氏の苦境を支え、後任レースを有利に進めようというシナリオだ。実際に前田、岡部の二人は「民放テレビの前で堂々と佐藤批判を繰り出した西堀利元頭取(旧富士)を、グループ幹部の面前で叱り飛ばした」(みずほ関係者)。それをみた佐藤氏はすっかり前田、岡部に気を許し、渦中のコンプライアンス担当に岡部氏を就けて早くも側近として登用した。

「岡部は問題の暴力団融資が発覚した2010年時のリテール担当だろう。あいつはダメだ」。岡部氏への追い風にブレーキを掛けるのは旧興銀勢だ。「今回の問題はBKの大失態。CBは関係ない」。BKはBANKの略で旧みずほ銀行、CBはCORPORATE BANKの略で法人相手の銀行だったみずほコーポレート銀行を指す。CBは旧興銀勢の居城。BKとCBが7月に合併して新みずほ銀行となったが、暴力団融資を逆手にとってBK幹部だった岡部氏をけん制する。

「首の皮一枚つながった」。そう胸をなで下ろすのは旧第一勧銀勢だ。暴力団融資の舞台となったオリエントコーポレーションは旧一勧の関係先。軒並みクビになったコンプライアンス担当もそろって旧一勧である。金融庁は暴力団融資を放置し続けた期間にみずほ銀行頭取だった塚本隆史現会長のクビを差し出させたが、FG会長だけは留任することになった。

この解決策も富士、興銀勢を刺激している。「2011年のシステム障害では西堀が責任をとって完全に辞任した」(旧富士幹部)、「佐藤にアタマを下げさせたのに、一勧はけじめがついていない」(旧興銀勢)。新みずほ銀発足直後の大騒動は、旧3行の勢力争いに再び火を付けたのである。

金融庁はあきれ顔。佐藤頭取は傘下銀行統合の立役者として畑中隆太郎長官の信頼が厚い。金融庁は当初から続投路線を敷いていた。「それを旧富士勢は佐藤続投を自らの手柄だとアピールし、旧一勧と旧興銀が反発する。ゾンビのようにOBがうごめくこの銀行は、思い切ってバッサリいくしかない」(金融庁幹部)。

金融庁も呆れる。そして誰もいなくなった。

金融庁が佐藤続投を早々に打ち出したのは「後任がいないから」。しかし、その佐藤頭取もこのまま長くトップを務められそうにない。旧3行の恩讐が再び燃えさかり、トップの器に足る人物も見あたらないいま「外から迎えるしかない」(旧興銀幹部)との声が内部からも上がる。

金融庁はみずほFGを委員会設置会社にして外部の経営経験者をそのトップに招く案を水面下で検討している。国有化して細谷英二氏を東日本旅客鉄道から招いたりそなホールディングスがモデルだ。「3メガバンク中、4位」。みずほは、収益力では三菱UFJや三井住友だけでなく、りそなにも遅れをとっているとそう揶揄されてきた。外部からトップを迎えるという荒療治しか、この銀行を変える手段はないのだろうか。