【ニッカウヰスキー創業90周年】「創業90周年方針説明会」で発表された取り組みから見える、未来への壮大な夢と覚悟

2024.6.25

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国産ウイスキーのパイオニアであるニッカウヰスキー株式会社(以下、ニッカ)が今年、創業90周年を迎える。“日本のウイスキーの父”とも称された創業者・竹鶴政孝のパイオニア精神を受け継いできた90年とはどのようなものだったのか。そして、次なる100周年、あるいはその先の未来に向けてニッカが取り組んでいることは何なのだろうか。

生産能力を上げるため、5年で計125億円以上をかけて設備を増強

6月5日、ニッカは親会社であるアサヒビール株式会社(以下、アサヒ)と共に「創業90周年方針説明会」をマスコミ向けに開催。発表会にはアサヒの代表取締役社長・松山一雄氏、ニッカの代表取締役社長・爲定一智氏、同社のチーフブレンダー・尾崎裕美氏が登壇し、90周年に向けての取り組みやウイスキー事業における今後の展望などを明らかにした。

まず、アサヒの松山氏によると、「ニッカはアサヒにとって洋酒・スピリッツ事業を一手に担っている大変重要な戦略子会社。創業90周年というのは私たちにとっては大変重要な年になります」とニッカの重要性を改めて強調。さらに、ウイスキーの販売状況は国内外で拡大傾向にあり、特に高価格帯の商品が伸びていることやそれに伴い、製造設備の増強を行っていることを明かした。

具体的には2019~2021年に創業の地である北海道・余市にある余市蒸溜所、ならびに宮城県・仙台市にある宮城峡蒸溜所に約65億円を投資。内容は主にウイスキーを熟成させるために不可欠な樽貯蔵庫の新設で、ほかには蒸溜設備の増強も行ったという。

「これによって原酒の製造能力については2割ぐらい上がりました。ただ、これでは当然間に合わないので、今年にかけて新たに栃木工場に樽貯蔵庫の新設をするなど新たに約60億円の投資をします。25年以降も継続して設備投資をしっかりやっていく予定です」(松山氏)

(左から)アサヒビール株式会社代表取締役社長・松山一雄氏、ニッカウヰスキー株式会社代表取締役社長・爲定一智氏、ニッカウヰスキー株式会社チーフブレンダー・尾崎裕美氏

低迷を経て大ブームへ、目指すはグローバル トップ10

原酒の製造能力の増強に注力するのは、全世界的にウイスキー需要が高まっているためでもあるが、ニッカの苦い経験も影響している。

今でこそ、若者の間でも気軽に飲まれるようになったウイスキーだが、1982年から2008年までの約25年、ウイスキーの消費量は下降線を辿る“冬の時代”だった。その間、各メーカーは原酒の生産量を減らさざるをえず、ニッカもその例外ではなかった。しかし、2014年、同社の創業者・竹鶴政孝をモデルにしたNHK連続テレビ小説「マッサン」が放送されると、ウイスキーブームが到来。ウイスキーの需要が飛躍的に伸びるも、今度は原酒不足のため供給が追いつかない状態になった。特にその状況は、プレミアム、プレステージと呼ばれるような長い熟成年数を必要とする高価格帯の商品で現在も続いている。

「ウイスキーが売れなくなって在庫の山になってしまった時期、設備投資に関して、我々はアグレッシブに攻めきれなかったという想いがあります。現在も世界でジャパニーズウイスキーやニッカに対するニーズが上がっていく中で十分にお答えできるような供給能力を持っていません。ここにしっかりと対応していきたい」(松山氏)

「エコノミー、スタンダードの価格帯の商品に注力することで結果的にプレミアム以上に使える原酒が貯まってこないという現状もあります。そのため、さらに増産にアクセルを踏んで、高年次の原酒もきちんと貯蔵して、お客様に潤沢に供給できるようにしていきたい」(爲定氏)

その上で、松山社長は「ニッカウヰスキーの志」として、「プレミアムカテゴリーでグローバル トップ10を目指す」と掲げた。プレミアムカテゴリーとは、平均店頭価格2000円(700ml)を超えるウイスキーを指す。現状では、世界的にニッカのニーズは特にフランス、アメリカを中心に高まってはいるものの、ランキングとしては40~50位相当なのだという。

「プレミアムのセグメントにおいては、当然、長い熟成とブレンディングが非常に重要になってきます。そういう意味では、これは短期的な目標ではなく、中長期的に目指しながら攻めていくという我々の意思表明です」(松山氏)

「トップ10を目指すには規模感としては、売上を今の4倍に伸ばさなければなりません。一気にできるとは当然思っておらず、まずはひとつひとつやっていきたいと考えています」(爲定氏)

90年の歴史を振り返る珠玉の一本

ニッカの爲定氏からは、新たに掲げるマニフェストや90周年の取り組みについての説明があった。新たなコミュニケーション・コンセプト及びマニフェストは、「ウイスキーが持つ豊かな個性や多様な楽しみ方を通して、人生そのものを愉しんで欲しいという我々の思いを込めた」(爲定氏)として「生きるを愉しむウイスキー」であると発表。

90周年を記念する具体的な施策としては、まず国内スペシャルアンバサダーとしてシンガー・ソングライターで俳優の福山雅治氏の起用をはじめ、創業90周年記念商品「ザ・ニッカ ナインディケイズ」の限定4000本販売、都内でのコンセプトバーの展開、国際的なバーイベントへのスポンサーシップへのさらなる注力などが発表された。

4つの施策の中でとりわけ力を入れているのが、「ザ・ニッカ ナインディケイズ」だ。その中身は、余市、宮城峡、ベン・ネヴィスをはじめ、兵庫県の西宮工場(現在は閉鎖)、福岡県の門司工場、鹿児島県のさつま司蒸溜蔵で、1940年代から2020年代までの9つの年代で作られた原酒をブレンドしたブレンデッドウイスキーだとニッカのチーフブレンダーである尾崎氏は語る。

「古いものでは1945年に余市で製造したモルト原酒なども使用しています。さらには原料を燻すピートが強いものや樽の種類、酵母のタイプを変えたものなど多彩な原酒もブレンドしており、トータルでは150種以上の原酒がブレンドされています」(尾崎氏)

まさに、ニッカ90年の歴史を体現した一本と言えそうだ。

ザ・ニッカ ナインディケイズ

中身だけでなく、ボトルは伝統工芸の江戸彫りの技法で一本一本丁寧にロゴを刻印。内側に鏡を配した木製の化粧箱など外装にもこだわりが見られる。発売はニッカの創業記念日である7月2日と10月の2回に分けて各回限定2000本ずつ、国内外で販売。価格は税込みで33万円。

会場ではオリジナルカクテルも振る舞われた。

会場では欧州アンバサダーであるスタニスラヴ氏によるオリジナルカクテルも振る舞われた。余市、宮城峡、ベン・ネヴィスのモルトをブレンドしたブレンデッドモルトウイスキー「ニッカ セッション」をベースに炭酸、バタフライピーティー(蝶豆の花茶)、エルダーフラワーシロップで割り、グレープフルーツ果皮で香りを加えた、後味も爽やかなスッキリと飲みやすい一杯。7月~12月に国内で展開されるコンセプトバーでも楽しめる

創業者から受け継いだ3つの強み

爲定氏からは、ニッカウヰスキーならではの強みについても言及。

「大きく分けて3つあると考えています。1つ目は“竹鶴政孝から受け継いだパイオニア精神”。竹鶴は『1人でも多くの人に本物のウイスキーを飲んでもらいたい』という想いでウイスキー作りに生涯を捧げました。ニッカはその創業者の想いを受け継ぎ、90年間挑戦を続けてきました。

2つ目は“蒸溜所のテロワール(土地)”。ウイスキーは長い年月をかけて作られるものなので、周囲の自然環境の影響を大きく受けます。現在、当社は北海道の余市、仙台の宮城峡、スコットランドのベン・ネヴィスでウイスキーを作っているが、それぞれ地形や気候が異なるため、それがウイスキー原酒ごとの豊かな個性を生み出しています。

そして、3つ目が“卓越した技術”。個性の異なる原酒を調和させるブレンドの技術、樽を丹念に仕上げる技術はどれもウイスキーづくりに必要ですが、経験により蓄積される部分が多く、一朝一夕で身に付くものではありません。この3つがあるからこそ今のニッカウヰスキーがあると考えています」(爲定氏)

この強みを生かしながら、継続的に設備投資を続けていくこと、ユニークな商品の開発や多彩な楽しみ方を提案していくことで「生きるを愉しむウイスキー」を届けていきたいという。

「将来的にはプレミアム以上のレンジでグローバル トップ10にすることを志としたいと思っております。志なので期限は設けていませんが、今のお客様が欲しいという商品が手に入らないという状況はできるだけ早く解消していきたい。そのため、原酒製造能力の増強と原酒バランスの最適化、これを並行して進めていきたいなと思っております」(爲定氏)