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サプリメントの安心・安全はどう守られているか 日本におけるサプリメントのパイオニア、ファンケルの取り組み(第1回)

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現代人にとって健康維持に欠かせないものとなっているサプリメント。多種多様な商品がある中で、製品の安全性や製品評価はサプリメント選びの重要なポイントだ。日本でいち早く健康食品事業を立ち上げ、今年で30周年を迎えるファンケルでは、製品の安全性や機能の最大化において、どのような取り組みを行っているのか。本稿では、ファンケル主催の「サプリメント安心・安全セミナー」に参加し、その取り組みの詳細を2回にわたってレポートする。第1回は、ファンケルの研究所見学編。

株式会社ファンケル 執行役員 総合研究所 機能性食品研究所 所長

寺本 祐之 てらもと ゆうすけ

株式会社ファンケル 管理本部 品質保証部 部長

人見 高正 ひとみ たかまさ

株式会社ファンケル 健康食品事業本部 健康食品商品企画部 商品企画第三G 主査

中村 卓夫 なかむら たくお

製品に課題!? 定番商品「マルチビタミン&ミネラル」リニューアルの背景

現代人に不足しがちなビタミンやミネラルを補完する「基本栄養サプリメント(ベースサプリメント)」の市場規模は約300億円であり、そのうち約5割は「マルチビタミン&ミネラル」が占めている。

複数のビタミンとミネラルを配合したマルチビタミン&ミネラルは、「不足している栄養を一度で補える」「栄養バランスを整えてくれる」「体調維持に役立つ」といった期待から選ばれることが多い。その一方で、ファンケルが各社ユーザーに対して行った調査では、特に「体調維持に役立つ」について、期待と満足の差が大きいことが分かってきた。

この乖離について、健康食品事業本部の中村卓夫氏はこう分析する。

「従来の当社のマルチビタミン&ミネラルは、国が定める1日の摂取基準量を満たすことを目標として設計してきました。しかし、現代の食事は炭水化物や脂質が多く、ビタミン、ミネラル、タンパク質などが不足しやすい。そのような食生活を続けると体内で炭水化物や脂質からエネルギーをつくるためにビタミンB群が消費され、また体内の成分を酸化させる活性酸素が増えやすくなることが報告されています。その結果、当社の商品を含むマルチビタミン&ミネラルで体調維持にかかる期待と満足のギャップ感想が生まれてくると考えられます。」

ファンケルでは、健康食品事業30周年を機に改めてベースサプリと向き合い、〝飲んで安心する栄養補給〟だけではなく、さらに一歩先の〝体調維持のサポートができる〟商品を目指して、マルチビタミン&ミネラルの改良へと踏み出した。

「栄養強化」「飲みやすさ」「身体への吸収を考えた設計」の3つの改良点

製品のリニューアルにあたっては、大きく3つの点で改良が行われた。

1つは、現代人の食生活を考え抜いた成分の強化配合だ。

炭水化物からのエネルギー生産に必要となるビタミンB1をはじめビタミンB2・B6を従来品の10倍量に強化。抗酸化作用をもち活性酸素から体を守るビタミンEを約13倍量、タンパク質の合成など元気をサポートする亜鉛は3倍量に強化した。

2つめは、「飲みやすさ」を考えた製剤面での改良だ。そのポイントを中村氏が解説する。

「マルチビタミン&ミネラルのユーザーから、1日6粒は飲むのが少し大変という声があり、新製品では1日摂取目安量を3粒に凝縮しました。1粒のサイズは従来品の8mmから9mmに若干大きくなりましたが、形状とコーティングを改良することでつるんと喉を通りやすくなっています。従来品のユーザーからもお喜びの声を多数、いただいています。」

3つめは、体内でサプリメントが素早く溶ける設計だ。ビタミンやミネラルは主に小腸の上部で吸収されるため、溶けるタイミングが重要となる。従来品は溶けるのに約60分かかっていたところ、新製品ではファンケル独自の製法に改良し、約30分に短縮することに成功している。

こうして構想から4年、マルチビタミン&ミネラルは「マルチビタミン&ミネラル Base POWER」として生まれ変わった。中村氏は語る。「多くの関係者が汗をかきながら、知と技術を集積させて実現したリニューアルです。お客様にお喜びいただける商品に仕上がっています。これから、ひとりでも多くの方の手に届けていきたいです 。」

マルチビタミン&ミネラル Base POWER

ファンケル約140商品すべてに徹底する「安全管理」

ファンケルでは現在約140種類のサプリメントを販売しているが、そのすべてにおいて徹底した安全管理を行っていると、総合研究所機能性食品研究所の寺本祐之氏は胸を張る。寺本氏は1995年にファンケルに入社し、サプリメント事業の黎明期から研究開発に携わってきた第一人者だ。

ファンケルの健康食品・化粧品の開発はすべて横浜市戸塚区にある総合研究所で行われている。研究員の数は約190人で、その約半数がサプリメント開発に従事している。

寺本氏は言う。

「サプリメント事業立ち上げ時からの我々の念願は、機能性をいかに実証していくかということ。そのため研究開発部門では、当初からエビデンスを取り続けてきました。2015年から機能性表示食品の制度ができたことで、それまで地道に蓄積してきたエビデンスが製品の有効性や安全性の裏付けとして活用できるようになりました。」

機能性表示食品の届出には2種類あり、臨床試験でエビデンスを実証するものと、論文調査研究からエビデンスを実証するもの(システマティックレビュー)とがある。ファンケルでは両方を組み合わせて開発をしているが、特に重きを置いているのが前者だ。

「おそらく臨床試験数では国内メーカーでトップクラスにあるものと自負しています。」と寺本氏は言う。

また、システマティックレビューについても自社内で専門部隊を持ち、原料メーカーから提示されたエビデンスに誤りがないかを、自分たちの目で確認する念の入れようだ。

原料から製品設計まで何重にも行われる安全性の確認

もう少し詳しく、ファンケルの安全性の取り組みを見ていこう。

原料の安全性の確認

まず、安全管理のファーストステップとして、原材料の安全性がある。製品のもととなる原材料が悪ければ安全な製品にはなり得ない。そのため、ファンケルではサプリメントの原料の品質管理を「安全性評価部門」と「開発部門」の2段階構成で行っている。その理由について、寺本氏はこう説明する。

「2つを分離し、それぞれに独立した権限を与えることで、高い安全性が確保できると考えます。どんなに良さそうな原料で開発部門が製品に使いたいと考えても、安全性評価部門が厳正に安全性を審査し、合格を出さないかぎり開発部門は使用することができません。」

原料の安全性については、ファンケル独自の8つの厳しい検査をクリアしなければならない。たとえば植物性由来の成分なら、その植物の産地や、どのような環境で栽培され、どんな農薬が使われたのか。どこの工場でどのように加工されたものなのか。工程管理はどうなっているのか。原料に含まれる成分に間違いはないかなど、考えうるリスクを1つずつすべて潰していく。そうして、最終的に安全性が確認されたものだけが、製品化に進むことができる。

ちなみに、原料や製品に含まれる成分の分析については、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分析装置が数十台備わっている。1台1000万円は下らないというが、安全管理のための投資を惜しまない姿勢がうかがえる。

クロマトグラフィー

さらに、有害な重金属などの有無を確認する高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)や原子吸光分析法などの試験も行われる。

製品設計における安全性基準の確認

次に、製品化については、「常に同一品質の製品を製造できるか」が大事になってくる。しかし、これは口でいうほど簡単ではない。その難しさを寺本氏は語る。

「機能性関与成分というのは、成分量が少ないと機能を発揮できませんが、多く摂りすぎても良くありません。ですから、設計通りの成分量を錠剤の中に安定的に含有させることには、とても神経を使います。原料の段階で成分量にばらつきがないこと、粉末にしたときの粒子の大きさ、他の成分と混合したときに均一に混ざっていること、錠剤にしたときに重量にばらつきがないこと、製品の安定性に問題ないことなど、すべての工程に気が抜けません。たとえば、成分を混合するとき、成分ごとの相性を見極めながら、かき混ぜる時間や速度などを調整する必要があるのです。」

錠剤の味やにおい、飲みやすさなどの評価は、社内で「官能試験」が行われる。官能試験を担当できるのは視覚・味覚・嗅覚に優れた一部の所員のみ。ほんの些細な匂いや味の違いを感知し、区別する試験にパスしなくてはならない。

官能試験が実際に行われるブース

官能試験ではプロトタイプの錠剤を何種類も飲んで比較し、ユーザーにとってベストな形状・サイズ・コーティングなどを選定していく。この段階でNOが出れば、製剤の設計を一からやり直すこともあるというから驚きだ。

製品の安全性・機能性の確認

さらに、製品化したものが「意図した機能を発揮するか(有効性試験)」や「製品摂取による体調変化が起きないか(安全性試験)」についての検査も行われる。

寺本氏によれば、客観的なデータを取るために、無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験という試験法を採用しているという。

「試験に無関係の第三者が被検者を2グループに分けます。そして、1つのグループには機能性関与成分入りの錠剤(本物)を、もう1つのグループには成分を含まない錠剤(偽薬)を飲んでもらいます。このとき、試験を担当する所員もどちらのグループが本物を飲んでいるかを知りません。さらに、結果を解析する所員もどちらが本物かを知らずに解析します。試験に関わる全員が誰も本物か偽薬かを知らない状態で試験を行うことで、開発者の意図が介入しない客観的なデータを取ることができるのです。」

こうした厳密な試験を経て、偽薬を飲んだグループとは明らかに違う結果が確認できた製品だけが「ファンケルの機能性表示食品」として届出することができる。

安心安全なサプリメントを選ぶために ユーザーへの情報開示

ファンケルでは、製品を世に送り出した後のユーザーの安全性のフォローアップにも取り組んでいる。

その1つが、全製品の原料原産地の情報公開だ。品質保証部の人見高正氏はこう話す。

「当社では2008年から多品種ラインアップの大手企業としては初めて、サプリメントの原料の原産地および加工地をホームページで公開しています。それ以前も問い合わせに応じて個別に回答していましたが、当時から発生していた食の安全に関する問題と向き合う中で自主的な取り組みとして、誰もがアクセスできるホームページでの情報開示を始めました。」

また、ファンケルでは、サプリメントと薬との飲み合わせを検索できるサイトを公開しており、ユーザー自身でも調べることができる。

サプリメントと薬との飲み合わせを検索できるサイト(https://www.fancl.co.jp/healthy/kodawari/sdi/index.html)

国内で扱われている約3万種類の医薬品(処方薬、OTC薬)のデータを搭載し、国内外3000編を超える学術論文を根拠に飲み合わせをデータ化。医師や薬剤師の監修のもと、情報は常に更新されている。

電話対応とweb検索を合わせて、問い合わせは年間約2万8000件。多くの人のサプリメントの安全な利用に役立っていることが分かる。

ファンケルでは、薬との飲み合わせの問い合わせが多いことを踏まえ、今年5月から新しいサービスを始めた。お薬手帳に添付するシールと医療従事者向けの案内カードを発行するサービスだ。

「お客様の約8割からシール発行の希望があります。シールを送ってもらって助かるという声も多いと、サプリメント相談室のオペ―レーターから聞いており、嬉しく思っています。」と人見氏は手応えを語る。

万一の自社製品摂取による体調変化に対応する取り組み

ファンケルでは2018年から体調変化の申し出があった場合に客観的な評価がおこなえる体制をとっている。具体的な取り組みについて、人見氏が解説する。

「当社では、医師や薬剤師などの外部有識者と社内の代表者とで構成する『健康食品専門家評議会』を設置しています。評議会では、当社製品を摂取したことにより体調変化が生じたとの相談があった場合、お客様の安全確保のため、多角的に情報収集し、因果関係の客観的な評価を行います。また、全申し出を対象とした統計解析を行い、製品に特異的に発現する症状がないかの評価も行っています。他社にはない独自の取り組みです。」

サプリメントは健康維持のために飲むもの。だからこそ、万に一つのリスクがあってはならない。私たちユーザーも安心安全をメーカー任せにするのではなく、賢くサプリメントを選び、正しく利用していくことが大切だ。