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中国主導で香港に「国際調停院」が設立 世界から信任されるかどうか

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国家間の紛争を話し合いで解決することなどを目指す「國際調解院(International Organization for Mediation)」が発足した。日本語で「国際調停院」と訳されるが、中国政府主導の国際機関で、署名したのは中国の巨大経済圏構想「一帯 一路」に参加している32カ国だ。2025年内、遅くとも2026年初めごろから始動させたい考えだ。

調停専門機関。法的拘束力を持たず

国際調停院が目指すところは、国家間の紛争、国家と他国の国民との間の紛争、国際商務紛争などの解決だ。

オランダのハーグには「国際司法裁判所(ICJ)」や「常設仲裁裁判所(PCA)」という国際的な司法機関があり、その判決には法的拘束力を持つ。一方、国際調停院は、その名の通り「調停」が主眼で、当事者間の話し合いによって和解を促すため、拘束力をもたないが、調停を専門に扱う多国間の法律機関は世界で初めてだ。

署名したのは、ジャマイカ、アルジェリア、キューバ、パキスタン、インドネシア、カメルーンなど32カ国で一帯 一路に参加している中国との関係を深い国が多い。西側諸国は不参加だ。

なぜ香港なのか?

中国は2022年に複数の国・地域との間で「国際調停機関の設立に関する共同声明」に署名を結んだ。2024年2月に香港で機関の設立に向けた準備室が設置された。

では、なぜ香港なのか? 中国本土の法体系は、大陸法(シビル・ロー)と社会主義法のミックスした法体系だ。一方の香港は、1国 2制度ということと、イギリス植民地だった影響で現在でもイギリスのコモン・ローを採用している。香港は広東語以外に英語も公用語であり、英語を使う国際的な弁護士が多い。中国としては、コモン・ローである香港に本部を置けば、ほかの国々からの支持も集めやすいという計算も働いた。

また、「香港國際仲裁中心(Hong Kong International Arbitration Centre / HKIAC)」という機関がある。これは1985年に設立された民間の国際仲裁機関の1つだ。日本、アメリカ、シンガポールにも同様の機関があるが、HKIACも世界的に高い評価を受けている。香港には、仲裁、調停を運用する経験があるともいえる。

さらには、2020年に香港国家安全維持法が制定されたことにより、国際社会では香港に政治的な自由がなくなったと認識されていることが多いため、国際調停院の設立によってイメージの回復や、国際的な地位を改めて高めようとする狙いもある。
こういった観点から、自国の影響力が及ぶ組織を、香港を本部として設立するのは自然なことだった。

中国はPCAの判断を無視した過去

世界にはICJやPCAという司法機関があるにもかかわらず、中国はなぜ新しい司法機関を設立しようとしたのか? 考えられるのは、中国が九段線を軸に南シナ海のほとんどの領有権を主張したことについて2014年にフィリピンがPCAに提訴し、2016年に中国が敗訴したことだ。中国はこれを「ただの紙くず」と批判するなど、判決に不満がある。そうであれば、自ら国際機関を立ち上げればいいと考えた。

この発想は、中国は過去に、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導して立ち上げ、軌道に乗せることができたという成功体験が大きい。