世界を読むチカラ~佐藤優が海外情勢を解説

エボラ出血熱

2015.1.13

社会

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報道が収まってきたので、エボラ出血熱は沈静化したように思えるが、実はその患者数は増えている。有効な治療法を確立しているわけではないので、今後パンデミックにならないとは限らない。この”ウイルス”というもの、爆弾のように探知機でわかるものではないので、悪用しようとすれば恐ろしいことになるが……。

日本で発生するのも時間の問題?

アフリカの一部地域にのみ発生する感染症と見られていたエボラ出血熱が、米国、ヨーロッパなどにも拡大している。日本で患者が発生するのも時間の問題と思う。
エボラ出血熱について、厚生労働省のHPでは、こう記している。

<エボラ出血熱は、エボラウイルスによる感染症です。エボラウイルスに感染すると、2~21日(通常は7~10日)の潜伏期の後、突然の発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、咽頭痛等の症状を呈します。次いで、嘔吐、下痢、胸部痛、出血(吐血、下血)等の症状が現れます。現在、エボラ出血熱に対するワクチンや特異的な治療法はないため、患者の症状に応じた治療(対症療法)を行うことになります。>。

HPには1976~2012年の発生状況が出ている。12年だけでこんな状態だ。

発生状況

それが2014年11月に入って、爆発的に増えている。世界保健機関(WHO)の11月7日の発表によれば、疑いの例も含む感染者が1万3268人、死者が4,860人で、5日の発表と比べて、感染者で226人、死者で142人増えた(11月8日「朝日新聞デジタル」)

インテリジェンスの間に流れる噂

2014年7月末から、筆者のところにロシアとイスラエルのインテリジェンス専門家たちから、「エボラ出血熱がヤバイことになるのではないか」という情報が入ってきた。公開情報でも8月3日、露国営ラジオ「ロシアの声」がこんなニュースを流した。

<ロシア保健省の専門家グループが、西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱と戦う地元医師達を支援するため、ギニアに到着した。保健省のオレグ・サラガイ報道官が伝えた。  それによれば、ロシア保健省とロシア消費監督庁(連邦消費者権利擁護・福祉分野監督庁)の指示により、ギニアに派遣されたのは、ヴィクトル・マレーエフ・アカデミー会員、ミハイル・シチェルカノフ教授といったロシアを代表するウイルス問題の専門家たちだ。両者は、エボラ出血熱が発生し急激に蔓延した原因を調査する上で、豊かな経験を持っている。  エボラ熱にはワクチンが無いため、1,300人を越える感染者のうち、すでに729人が亡くなった。この病気の死亡率は、90%に達する可能性があるが、今のところそれは55%に抑えられている。>

エボラ
写真/国立感染研究所

もしテロリストが感染したら…

ギニアに派遣されたヴィクトル・ヴァシーリエヴィッチ・マレーエフ教授(1940年7月22日生まれ)は、ロシアにおける感染症研究の第一人者だ。ソ連時代から保健省感染症中央研究所で勤務した。インテリジェンスの世界で、感染症の予防・治療と生物兵器開発は、メダルの表と裏の関係にある。

感染症中央研究所は、軍の生物兵器開発とも深く関係している研究所だ。仮にどこかの国の研究機関がエボラ出血熱に対して有効なワクチンの開発に成功したとする。このワクチンを持っている国の軍隊は、エボラ出血熱を生物兵器として使用することが可能になる(自国軍の兵士には予防接種をしておけばよい)。
また、自爆テロリストがエボラ出血熱にあえて感染し、潜伏期間中にヨーロッパやアメリカに移動し、そこで死んだら、感染が一挙に広がるかもしれない。

対テロ国際協力を急げ

2014年8月5日の「ロシアの声」は、<ロスポトレブナドゾル(ロシア連邦消費者監督庁)の国立ウイルス学・バイオテクノロジー研究センター「ヴェクトル」は対エボラ出血熱ワクチンの開発に取り組んでいる。火曜、同庁アンナ・ポポワ長官が記者団に述べた。ワクチンは現在臨床前試験の段階にあるという。(中略)2月ギニアで始まったエボラ出血熱流行で隣国のシエラレオネとリベリアも含め887人が死亡、1,300人以上が感染している。>と報じた。

ワクチンが完成したとしても、それを量産することは別の問題だ。日本はワクチンの量産技術に長けている。エボラ出血熱は、国境を越える。ウクライナ情勢をめぐって米露が対立し、エボラ出血熱対策で協力するにはほど遠い状態にある。特に「イスラム国」がエボラ出血熱を生物兵器として使用するような事態について、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、日本が中心となって、それを阻止する態勢を作ることがテロとの戦いで求められている。安倍政権には、対テロ国際協力という視点から感染症対策に取り組んでほしい。

遠い国で起きている出来事ではない

数ヵ月前に佐藤優氏と食事をしたときに「テロリストがエボラ出血熱に感染して渡航してくれば大変なことになる」と言っていた。有効な対処法がなく、感染力と致死率が高いこのウイルスは潜伏期間もそこそこある。アメリカ国内での感染の報道に、「もしや」と思うこともあった。

現実的ではないと思いつつ、考えてみれば、金属探知機にも反応せず、怪しまれることなくテロを引き起こすこともできるこの病気。もはや、アフリカ大陸で起きている遠い出来事ではない。しっかりと国際協力をして、情報の共有が必要である。