日経が介護サービス主要12社への聞き取り調査を行った結果、全社が2015年4月以降、介護福祉士やヘルパーなどの介護職員の賃金を引き上げると回答しました。深刻な人材難と介護報酬の改定を背景としていて、2009年以来の大幅な賃上げとなりそうです。
政府はこの4月から、介護保険料から介護事業に携わる企業に払われる「介護報酬」を改定、「処遇改善加算」を設けました。要件を満たした事業者は、介護職員一人あたりの給与加算分である1万2000円の「介護報酬」がもらええ、これを賃上げに充てられるようになります。
2014年の厚労省の調査では、介護職員は平均賃金が22万円と全産業の平均給与を11万円も下回っていて、求職者の数に対して2.5倍近くの求人がある深刻な人手不足に襲われています。政府は2025年には30万人の人材不足を推計。
そうした背景を受け、今回の賃上げでは最大手のニチイ学館やセントケア・ホールディングなどが1万2000円以上の賃上げに踏み切るほか、改定の対象とならない周辺スタッフの賃上げも行う動きも見られています。
一方、介護事業の9割を担っている中小企業の中には、財政基盤の不安定さなどから賃上げを見送るケースもあるよう。また、介護報酬の引き上げは、介護保険料や公費、介護を受ける本人の負担増につながっている一面も。
ニュースが”わかる”尊徳編集長の解説
Q高齢化によって、介護業界が求める人材の数は、これからますます増えていきます。今回のような賃金の引き上げで人手不足を解消するのにも限界があると思うのですが、今後はどうやっていくのでしょうか?
A介護業界だけで解決できる問題じゃない。
少子高齢化のなか、若年層が高齢者を支える構図はすでに限界に来てる。社会全体でこの問題をとらえないと大変なことになるよね。年金、医療費の問題、すべてセットで考えないと。
これからの日本は、親の介護で働き手が大きな負担になるだろうと言われてる。企業側も働き方の多様性を認め、社会全体で支えていかないといけない。育児が大変で働きたくても働けなかった女性をバックアップするためには、待機児童がなくなるようにもっとたくさん保育所を設置することなども必要だ。
そうすれば、企業もワークシェアをしやすくなる。介護をしなければいけない人の仕事をシェアできれば、家族で介護ができて、介護士の数も少なくて済む。そうやって国民が”介護を社会で担う”という意識になれば、介護業界も人手不足が少しは解消して、さらに人件費に回せるのでは?
Q高齢者福祉の担い手を増やす取り組みが必要な一方で、少子化の対策の方も気になりますよね。
A問題は人口減少で、いびつな年齢構成になっていること。
高度経済成長時代は、年齢ごとの人口を示す人口ピラミッドがキレイにできていて、若年層が高齢者を支える構図ができていた。でも、10年ほど前に政府が「年金100年安心プラン」と謳った年金制度は、このままだと崩壊が見えてる。国民にとって耳に痛いことをちゃんと説明して制度改正しないと、国民がもっと迷惑を被ることになりかねない。
(佐藤尊徳)
[参考:「介護大手、相次ぎ賃上げ 深刻な人手不足改善」(日経新聞朝刊1面 2015年3月31日)]
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