世界を読むチカラ~佐藤優が海外情勢を解説

実際は大したことはない 米国とキューバの国交正常化

2015.5.11

政治

0コメント

アメリカとキューバの首脳会談が行われたのは59年ぶりで、日本でも大きく報道された。期間の長さもあって、歴史的な大転換だと報じられたが、実態は果たしてどうなのか? 中身を検証する。

59年ぶりの会談の中身は?

外交の世界では、実際は大したことはないのに成果を大きく膨らませることがある。最近の米国とキューバの国交正常化がまさにそれだ。

4月11日午後(日本時間12日早朝)、パナマ市で、米国のオバマ大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長が会談した。首脳会談は、1961年に米国とキューバが国交を断絶した後、初めてのものだ。米国関連のニュースは、日本の新聞よりも「ウォール・ストリート・ジャーナル」(日本語版)の方が、内容が深く、詳しいので、そこから引用しておく。

<米・キューバ首脳、59年ぶり会談-オバマ氏「歴史的」  【パナマ市】米国のオバマ大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長は11日、直接会談を行った。両国首脳が会談するのは1956年以来で59年ぶり。半世紀以上対立を続けた両国の関係改善を象徴する会談となった。  会談はパナマ市で開幕した米州首脳会議に合わせて行われた。  オバマ大統領は会談の冒頭で、「歴史的な会談であることは明らか」と述べた。さらに、禁輸措置によってキューバを孤立させるという米国の政策は機能しなかったと指摘した上で、「新たな方策を試す時期だ」「われわれは未来に向かって歩み出す準備ができている」と述べた。  オバマ大統領は両国の国交正常化に向けた政策変更について、両国国民の大多数が前向きな反応を示しているとの認識を示した。  大統領は両国の間には今後も大きな相違点が残るとも指摘、米国は民主主義と人権を擁護する発言を続けると述べた。さらに、キューバが米国の政策に懸念を表明する可能性についても言及し、両国が互いを尊重しつつも意見が分かれる可能性があると述べた。  オバマ氏は「われわれは長い時間をかけてページをめくり、新たな関係を築くことが可能だ」と述べた。  カストロ議長はこれに対して、「全てを話し合う用意がある」とした上で、「忍耐強く、非常に忍耐強く」取り組むことが必要だと強調。「今日は意見が異なっても、明日は合意できるかもしれない」と述べた。>(4月12日「ウォール・ストリート・ジャーナル」日本語版)

首脳会談で、オバマ大統領とラウル・カストロ議長は、敵対関係に終止符を打ち、外交関係を再開し、大使を交換することに合意した。首脳会談を踏まえて、4月14日、オバマ大統領は議会に対して、キューバをテロ支援国とする認定を解除すると通知した。

<米大統領、キューバのテロ支援国家指定解除を議会に勧告  【ワシントン】オバマ米大統領は14日、キューバをテロ支援国家指定リストから外すことを連邦議会に正式に勧告した。これを受けて45日間の検討プロセスが始まる。この期間中、議会の議員たちは解除を阻止する措置を講じることもできるが、阻止は予想されていない。(中略)  キューバは、テロ支援国家指定リストからの解除を、大使館再開の条件として外交交渉に臨んできた。これに対し米国は、大使館再開の一環として、米国の外交官がキューバ国内で自由に移動できる保証を求めた。大使館は1960年代のキューバ革命初期以降閉鎖されているが、両国は互いの首都に利益代表機関を設置している。  米国務省は昨年12月、キューバのテロ支援国家指定について見直しを開始した。指定リストから外すと、キューバに対する制裁の一部が解除されるが、貿易禁輸は残される見通し。>(4月15日「ウォール・ストリート・ジャーナル」日本語版)

佐藤優今回の首脳会談による実質的成果はほとんどない(佐藤優)

実は米・キューバ外交に支障はなかった

マスメディアの報道では、米・キューバ関係が正常化した大きな歴史出来事であるという印象を受けるが、実態は異なる。ポイントは、引用した記事でも言及されている「利益代表機関(利益代表部)」だ。外交関係を断絶すると利益代表国を指定する。第2次世界大戦中、米国における日本の代表国はスペインだった。これに対して、日本における米国の利益代表国はスイスだった。スイスもスペインも中立国だったが、スペインは日本に好意的で、スイスが米国に好意的だったからだ。

キューバにおける利益代表国はスイスだ。1977年、キューバの首都ハバナに、スイス大使館施設の付属として、米国利益代表部が開設された。この代表部には、ワシントンの国務省から派遣された外交官が勤務している。大使の交換を行っていないことを除いては、米・キューバ外交に特段の支障はなかった。今回の首脳会談による実質的成果はほとんどない。

オバマ氏にとって”歴史的”な出来事とは

なるほど……とうなってしまった。実態としてはほとんど何も変わらない、というのはそうかもしれない。

確かにレームダック(政治的影響力を失った政治家)になってきたオバマ氏にとって、”歴史的”な出来事は、支持率を回復して、名大統領として残る手段であるとは思っていた。カストロ議長にとっても、アメリカの経済制裁解除は、今後大きな果実なのは誰の目にも明らか。

歴史を振り返ると、戦争したり、手を組んだりと、国同士の関係は目まぐるしく変わってきている。長い歴史から見れば、アメリカ大統領とキューバ首脳が会談することは、もともと大したことではないのかもしれない。