政治

北朝鮮の生き残り戦略

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対米と核という共通の目的をもった友国イランとともに、なにやら怪しい動きをみせている北朝鮮。さらに「イスラム国」への対策のためオバマ政権の思惑も絡み、北朝鮮×イラン×アメリカの関係は複雑さを増していく。そんななかで画策する北朝鮮の生き残り戦略とは?

北朝鮮とイランの”幅広い協力関係”

2015年6月25日、65年前のこの日に朝鮮戦争が勃発した関係で、北朝鮮の国防委員会が声明を発表した。

(国防委員会は、)「われわれを孤立させ圧殺しようとする米国の陰謀が極度に達している」と主張、「わが軍隊と人民の反米闘争は新たな段階に入る」と表明した。朝鮮中央通信が伝えた。
声明は、国連の対北朝鮮制裁決議や米韓合同軍事演習に言及し「第2の朝鮮戦争を起こそうとする米国の策動はもはや傍観できない段階に達している」と強調。米国の「敵視政策」を粉砕するため、反米闘争を強化する姿勢を示した。
また、米国に対し「敵視政策」を即時に放棄するよう要求。「米国は、通常戦争にも核戦争にもサイバー戦にもすべて準備が整っているというわれわれの警告を侮ってはならない」と訴えた。>(6月25日、共同通信)

北朝鮮は、すでに核兵器を保有している。ただし、ICBM(大陸間弾道ミサイル)は持っていない。もっとも、北朝鮮が米国に到達するICBMを保有することになれば、米国は北朝鮮を空爆してでもミサイル工場と核工場を破壊するであろう。北朝鮮も、ICBMが米国が軍事介入に踏み切る”レッドライン”であることはよくわかっている。そのため、ICBM開発は慎重だ。ただし、別の対米交渉カードを得ようとしている。そのために北朝鮮は、イランとの核開発に積極的に協力している。

 

「イスラム国」対策でイランを取り込みたい米国

<在外のイラン反体制派組織、国民抵抗評議会(National Council of Resistance of Iran、NCRI)は28日、イランと北朝鮮は核兵器開発で定期的に情報交換するなど”幅広い協力関係”にあると非難する報告書を発表した。  NCRIは報告書の中でイラン政府に近い筋の情報として、イラン政府は現在も核弾頭や弾道ミサイル開発で北朝鮮と協力を続けていると主張している。  報告書は、2015年4月にも北朝鮮の核専門家らがテヘランを訪れ国防省近くの施設に1週間滞在していたとしている。北朝鮮核関係者のイラン訪問は今年に入ってから3回目だという。  一方で報告書によるとイランからは、秘密の核兵器開発機関SPND幹部で科学者のモフセン・ファフリザデ氏が、北朝鮮が3度目の核実験を行った2013年2月に訪朝したほか、専門家らが定期的に北朝鮮を訪れているという。>(5月29日、AFP)

イランの弾道ミサイル「シャハブ3」は、北朝鮮の「ノドン」ミサイルを改良したものだ。「シャハブ3」は、イスラエルやヨーロッパには到達するが、北米大陸は射程圏外だ。従って、米国はイランのミサイルに脅威を感じていない。

米国のオバマ政権は、イラクとシリアの一部地域を実効支配する「イスラム国」(ISIL)を殲滅するためには、イランとの提携が不可欠と考えている。なぜなら、スンニー派イスラム教原理主義過激派であるISILは、イランのシーア派原理主義のイランを殲滅することが、カリフ帝国(シャリーア[イスラム法]のみが適用される単一の世界帝国)を建設するために不可欠と考えているからだ。

イランは保守派・改革派・リベラル派が核保有を支持

イランは、生き残りのために必死になっている。イラクの正規軍を支援するという口実で、実際にはイランの最精鋭部隊であるイスラム革命防衛隊が密かにISIL占領地域に派遣され、一部の都市をISILから奪還することに成功。米国はそこに目をつけ、ISIL対策ではイランとの連携を強めたいとしている。そこで、イランの核開発疑惑に対して、柔軟な姿勢を取り始めているのだ。

外交的には、さまざまなレトリックを用いるであろうが、イランが核開発を放棄することはない。イランの保守派だけでなく、改革派、リベラル派も核保有を支持しているからだ。イランは、シーア派原理主義国家であるが、イランの政治エリートは自らがペルシア帝国の末裔であると考えている。その観点から、シリアやレバノンへの影響力を拡大しているのだ。

イランは、とりあえず米英仏独中露6ヵ国との合意に従って、表面的には、核開発を停止する姿勢を示さなくてはならない。しかし、合意後も6,000基の遠心分離器と偵察衛星によって察知されないウラン濃縮のための地下研究所を維持することが認められている。北朝鮮は、国際査察の目をごまかして、核開発を行った実績がある。イランもこの実績から学ぶことを考え、北朝鮮との強力を強化している。

北朝鮮の生命線は事実上の核保有国であるという点

北朝鮮の正式名称は「朝鮮民主主義人民共和国」。笑ってしまうが一応、民主主義国らしい。報道によれば側近を次々に処刑して、恐怖政治で統治をしているこの国が、そのままこの体制で続いていくとは思えない。

日韓米国などによる経済制裁は北朝鮮を疲弊させていると思われる。同国の生命線は事実上の核保有国であるという点。世界ではほんのひと握りの保有国になり、恫喝にもそれなりの説得力を持つ。

北朝鮮と同じように、核開発をして欧米から制裁を受けているイランとは、敵の敵は味方ということで、手を携えるのは自然な流れだ。数少ない友国として水面下ではつながっているようだが、アメリカの対イラン政策の変化でその立場も微妙に。

今後、権力基盤が脆弱といわれる金正恩体制が固まって磐石になっていくのか要注目だ。