政治

対中国の外交戦略の鍵

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国連事務総長・潘基文事務総長を操り人形化して、史実を無視した神話作りを行う中国。なりふり構わない中国の戦略にあきれもするが、それでも対抗しなければならない日本の外交手段とは?

また、日本外交が敗北した

2015年9月3日、中国の北京で行われた「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争70周年記念軍事パレード」に国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が出席した――。

2015年8月28日、日本政府は外交ルートを通じて潘基文氏に懸念を伝えた。
<外務省幹部は、学生らの民主化運動を軍が弾圧した1989年の天安門事件を念頭に、「虐殺があった場所で軍がパレードするところに居合わせることになる」と指摘。「(出席した場合)国連が掲げる自由、人権、民主的という要素を体現しているのか」と不快感を示した。>(2015年8月29日「朝日新聞デジタル」)。

日本政府の懸念表明に対する潘基文氏の返答について、中国共産党系のニュースサイト「人民網」はこう伝えている。

<潘事務総長は北京での軍事パレードへの出席は自らの仕事だと表明した。現在全世界が第2次大戦という人類史上最大の悲劇の終結70周年を記念し、国連創設70周年も記念している。国連創設は世界平和を永遠に保つためだ。軍事パレードを含む記念行事への出席は、歴史の教訓を汲み取り、明るい未来を創造する助けとなる。したがって、これは国連事務総長として当然のことだ。>(2015年9月1日「人民網日本語版」)

史実に照らした場合、連合国の一員として日本と闘ったのは中華民国だ。中華人民共和国は中華民国との連続性を認めていない。それにもかかわらず、当時、誕生していなかった中華人民共和国も連合国の一員であるという神話を作ろうとしている。

潘基文氏の軍事パレードへの出席は、国連が中国の神話形成を追認したという意味を持つ。日本政府が米国やEU(欧州連合)に対する働きかけをきちんと行っていたならば、潘基文氏の軍事パレード参加は阻止できていたはずだ。

外交戦略の鍵は中国西部国境地帯に

日本は、中国の弱点に対するインテリジェンス分析を行った上で、外交戦略を組み立て直すべきだと思う。鍵は中国西部国境地帯だ。

2015年5月28日、タジキスタンで失踪していた同国内務省傘下の治安警察の司令官グルムルド・ハリモフ大佐が、「イスラム国」(IS)への参加を表明したが、これはISの脅威がすでに中国の国境地帯に迫っていることを示している。中央アジアのキルギス、タジキスタンは事実上の破綻国家で、国内におけるイスラム原理主義過激派の策動を封じ込めることができない。さらに、ウズベキスタンも、タジキスタンやキルギスと国境を接するフェルガノ盆地を実効支配することができていない。

ここで懸念されるのが、この影響が中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区に及ぶ危険性だ。カザフスタン、キルギスと新疆ウイグル自治区の国境は、十分に管理されているとはいえない。さらに、中国当局は、新疆ウイグル地区に漢民族の入植政策を強硬に推進し、ウイグル人の民族運動、イスラム原理主義的傾向に対しては、弾圧政策で望んでいて、中国政府に対する反発は強まる一方だ。今後、このような状況をイスラム原理主義過激派は最大限利用するだろう。

少し古い報道になるが、中国外務省の華春瑩(か しゅんえい)報道官は、
<新疆ウイグル自治区などで相次ぐ暴力事件を念頭に「中国のテロ勢力は近年、シリアやイラクなどの戦乱地区で作戦に参加し、実戦経験を積んでいる」と指摘した。/同自治区などで相次ぐ暴力事件について、中国当局はウイグル独立派組織が関与した「テロ」と断定。中国紙は、中国人300人余りがマレーシアを経由して過激派組織「イスラム国」に加わっていると伝えている。/華報道官は「テロは共通の敵であり、国際社会は協力して対応しなければならない」と述べた。>(2015年2月13日、共同通信)。

中国と協力することは日本の国益にも適う

かつて、中央アジア東部と新疆ウイグル自治区は、「東トルキスタン」と呼ばれていた。一時期、新疆ウイグル自治区には「東トルキスタン共和国」という国家が建設されたこともあったが、新疆ウイグル自治区に対する中国政府の民族政策、宗教政策は成功しておらず、住民の離反を招いている。このような状況では”第二イスラム共和国”が誕生する可能性が十分ある。

中国は、南シナ海、東シナ海で挑発活動を繰り返しているが、中央アジアとの西部国境地帯で危機が迫っていることに対する認識が弱いように思える。

日本における対中国の外交では、中国と新疆ウイグル自治区、中央アジアを横断する”第二イスラム国”形成の危険性について、戦略対話を行うことが重要と思われる。西部国境方面におけるイスラム原理主義過激派の台頭を阻止するために中国と協力することは、日本の国益にも適う。

外交手段は対峙するだけではない 中国への牽制としてロシアと組むこともひとつ

 

最近の中国は巨大になりすぎて、コントロールができなくなってきたように感じられる。経済成長の恩恵を受けて貧富の差が出てくれば、不平不満が出るのは世の常だ。また、海外からの情報など、いくら規制をかけても鎖国をしない限りは国民に浸透してくる。最近の株価暴落を見ても、政府の思惑通りに事が運んでいないことが良くわかる。近代国家になるためには、市場の透明性やガバナンス機能の向上は、避けては通れない道だが、そうなれば一党独裁でこの国を治めきれるものではない。

国際社会の一員として、透明性を重視した市場機能への移行を試行錯誤しているのはわかるのだが、かなりのジレンマに陥っているように見える。今こそ、日本はこのことを見透かして、硬軟織り交ぜた外交が必要なのではないだろうか。中国への牽制としてロシアと組むこともひとつだし、対峙するだけがやり方じゃない。外交は一国だけではできないものだ。