「バーバリー」を失った三陽商会の生き残り戦略

2015.9.10

企業

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戦後から約半世紀にわたって英「バーバリー」の製造・国内販売を手がけてきた三陽商会は、2015年6月に本国からライセンス契約を解除された。利益の多くを占めてきたブランドを失いながらも今のところ健闘しているが、このままでは赤字転落は必至。今後、どんな道をたどるのだろうか?

「バーバリー」の駆け込み需要が下支え

2015年7月31日に三陽商会が発表した同年12月期の連結中間決算では売上高が対前年比3.9%増の553億円、本業の儲けを表す営業利益で同71.7%増の77億5000万円と想定外の健闘を見せ、業界内外の注目を集めた。

三陽商会といえば、2015年6月で同社の基幹ブランドとなっていた英「バーバリー」からライセンス契約を解除されたばかり。同社売上の大半を占めていた「バーバリー」ブランドを失うことは極端な話、会社の存亡にかかわるほどの重大案件だ。

同社が展開する「バーバリー」ブランドの売上高は非公表ということになっているが、中間期の連結ベースの総売上が553億円に対し、「バーバリー」を除くその他基幹7ブランド(事業)の売上高は約200億円であることからも、概ねの売上高は容易に想像がつくであろう。

今中間で、基幹7ブランドの店頭売りがラブレス事業(セレクトショップ)を除き、軒並み対前年を下回るなかで、売上高がプラスに転じたのは言うまでもなく「バーバリー」の駆け込み需要。中間期の好業績が通期まで続く保証はどこにもない。下期の戦略いかんで同社存続の可否が問われることになる。

その下期の業績を占う上で、重要な役割を果たすのが「バーバリー」の後継ブランドに位置づけられた「マッキントッシュ」だ、同社では新たに「マッキントッシュロンドン」とブランド名を冠し販路を拡大するという。

参考までに述べておくと、三陽商会は以前より「マッキントッシュ」のセカンドラインとして「マッキントッシュフィロソフィー」を販売してきたが、今回、ラインアップとして「マッキントッシュロンドン」が加わる。「~フィロソフィー」の売上高は今中間期で約38億円。同社は下期「マッキントッシュ」シリーズの売上目標を約3倍の約115億円としているが、果たして思惑通りに進むのだろうか。

バーバリー
2015年7月以降、「バーバリー」ブランドはイギリスのバーバリー本社が日本法人を通じて直営店でのみ販売。

厳しい市況で後継ブランドはどこまで通用するか

「マッキントッシュ」は1823年に英国で誕生した高級ブランド。縫い目に天然ゴムを流し込んだ「ゴム引きコート」は英国陸軍で採用されるなど、耐久性も高い製品だ。ファッション感度の高い人であればピンとくるかもしれないが、一般的な認知度は決して高くはない。三陽商会では下期に大量な広告宣伝を実施するというが、その効果はフタを開けて見なければわからないのが現状だ。

また、同社が通期の売上高の底支えとして期待しているのが、「バーバリー」のセカンドラインとして人気が高かった「ブルーレーベル」「ブラックレーベル」の後継「クレストブリッジ」シリーズ。旧「ブルー~」、「ブラック~」が展開してきた売場はほぼ確保しているとはいえ、顧客の支持を集められるかは未知数だ。

現状、アパレルのリアル店舗はネット通販に押され苦戦している。つい最近も大手の「ワールド」が大規模の店舗閉鎖を発表するなど、店頭売りが主力の三陽商会にとって市場はアゲインストだ。

なかなかブランドが育たないといわるアパレルで「マッキントッシュロンドン」で新規ファンをつかみ、売上3倍増が実現できるかは甚だ疑問。同社の展開するブランドでは「ポール・スチュアート」の認知度は高いが、その他「エポカ」、「アマカ」、「トゥー ビー シック」を知っている読者は果たしてどの程度おられるか?

三陽商会の製品力を生かすコラボのススメ

そこで、生き残り策としてひとつ提案したいのが、ネームバリューの高い百貨店とのコラボレーション。大底は脱した感はあるが、百貨店は旧態依然とした”問屋任せ”の仕入れから脱却できていない。これが百貨店の同質化を招き、顧客離れが加速することになったのだが、この悪弊をいまだ払拭できていないのが現状だ。

百貨店が以前の輝きを取り戻すには、自ら商品を開発・開拓し、顧客に提案するという”原点回帰”が必須。最近では三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長が、百貨店の原点回帰を志向し、オリジナル商品の開発に余念がない。

その三越伊勢丹HDと三陽商会は浅からぬ縁がある。1980年代、流通再編を旗印に不動産業を生業とする秀和の故小林茂社長が大手百貨店やスーパーの株を買い占めに動いたことを思い出してもらいたい。その標的のひとつになったのが伊勢丹だ。

最終的に秀和は株を手放すことになるのだが、その受け皿のひとつになったのが三陽商会だ。現在でも両社の関係は良好で、三越伊勢丹HDは、三陽商会の大株主として名を連ねている。

三陽商会は、コートを源流とした縫製技術を礎にした品質には定評がある。そういう点では品質を重視する三越伊勢丹HDとの相性は悪くない。恩義のある三陽商会が苦戦する様を三越伊勢丹HDも見て見ぬ振りはできないだろう。

メーカーとしてのプライドはわかるが、背に腹は代えられない状況にあると推察される今こそ、両社のタッグを見たいものだ。

低価格帯を普及させたことがアダに
苦境を打破するのは経営陣の戦略次第だ

バーバリーを失う三陽商会は確かにキツイだろう。しかし、三陽を振ったバーバリーも果たして今までのように行くかはわからない。三陽商会があってこその販売力だったことも否めないはずだ。しかし、日本でのライセンス料は全体の販売額からいえば微々たるもの。多少凹んだとしても自営に切り替えるメリットを選んだということか。

高級志向でラグジュアリー路線を行くバーバリーだが、若者向けに「ブラックレーベル」や、「ブルーレーベル」を開発したのは三陽商会だ。それで一気に普及したのだが、低価格化がバーバリー本社との溝を作ったといわれる。新たにバーバリーとライセンス契約を結び、「ブラックレーベル」と「ブルーレーベル」の名前は引き継ぐが、冠に”バーバリー”がなくなっては、ブランドとしての価値は半減するだろう。独自色を出して浸透させるには時間が掛かりそうだ。この困難な状況を越えていけるのか、経営陣の戦略に掛かっている。