不正会計問題で「特設注意市場銘柄」に指定されるという東芝。「監理銘柄」に指定されないということは、上場廃止にならないということだ。これだけの不正会計、いや粉飾決算をしておいて、この決断には首を傾げざるを得ない。東証よ、スタンスがブレているんじゃないのか?
東証は上場廃止の基準を示せ
東証の中で「特設注意市場銘柄」に指定され、”反省しなさいよ”と少ししかられて元通りになるのだろう、と思ったら2度目の決算発表延期が発表された。さすがに今回は「監理銘柄」に指定することを願う。そうでなければ、国策企業だから東芝は何が何でも上場廃止にしない、ということだろう。
株主も多く、社会的な影響も大きいので「監理銘柄」にはしないというのが現段階の東証の判断らしいが、そんなのありか? 利益の付け替えや損金(費用)の先送りなどは、”粉飾”ではなく”不正会計”だという。では聞きたい。株主が何人以上なら社会的な影響がないのか。上場廃止して影響がないのはどんな企業なのか?
違うんじゃないか? 不正をしたら許さない、というのが東証のスタンスでなければ、市場からの信頼は得られない。もし上場前の企業がこのような利益の付け替えをしたなら、絶対に上場できない。ライブドア、西武鉄道、カネボウはダメで、日興証券、オリンパスはセーフという基準を示してもらいたい。東証はダブルスタンダードをやめるべきだ。
2006年、飛ぶ鳥を落とす勢いだったライブドアが証券取引法違反の容疑で家宅捜索を受けた。その3ヵ月後、上場廃止になる。まだ堀江貴文氏の刑も確定していなかったのに、50億円の粉飾決算疑惑で。友人だからと、堀江氏をかばっているわけじゃない。上場廃止は当然だろう。それならば、そのすぐ後に問題になった日興証券が上場廃止にならないのはおかしな話だ。ライブドアは当時注目企業だったから、多くの個人株主もいたはずだ。投資家保護で東芝を上場廃止しないというのでは整合性が取れない。
日興証券やオリンパス事件を受けて、東証は投資家保護を大義名分に、上場廃止基準を「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持するのが困難」という具合に拡大解釈するようにしてしまった。この基準には明確な数値がなく、東証が恣意的に決められる。
忘れられない元東証社長・西室氏の発言
ライブドア事件と同じ年の12月、日興証券の粉飾が明るみに出て、「監理ポスト」入りに。日経新聞は1面で「上場廃止へ」と書いたものだから、株価はストップ安水準まで売られた。後々、上場維持が決定したので、日経新聞は1面割いてだらだらと言い訳していたが。当然僕も上場廃止になるものだと思った。
結局、日興証券は上場維持になるのだが、そのときの東証の社長が西室泰三氏だ。この前、東芝社長を辞任した田中久雄氏から5代前の社長。僕はこの西室氏が言い放った言葉が忘れられない。「(上場廃止の)判断には属性は関係ない」ということと、「先の事例に比べても、悪質性は低い」と言ったことだ。は? 属性とは、証券会社というくくりだ。
証券会社も通常の事業会社と変わらない判断だと西室社長。そんなことあるか? 証券会社は市場のルールも知り尽くしていて、幹事会社として事業会社を指導する立場。属性が関係ないとはよく言えたものだ。警察官が悪事を働けば、厳しく糾弾される。東証の株主でもある証券会社に甘くした、と言われても反論できまい。
それから180億円の粉飾は、50億円のライブドアと比べても売上比率から悪質性は低いということか? 絶対額はライブドアの3倍以上なのに。10年後に起こる出身企業(東芝)の問題を予見してたんじゃないの? 6兆5千億円から見れば、1500億円(まだあると発表)の粉飾まがいは大したことない、と言えるからね。
地に堕ちた東芝と東証への不信感
東芝は、過去に財界総理と言われた経団連会長を2人(石坂泰三氏、土光敏夫氏)も出している超名門企業だ。この西室氏も今回の事件で相談役を辞任した西田厚聰氏も、経団連会長の地位に色気を持っていたという。ライバルの日立製作所に置いていかれて、「チャレンジ」という言葉で粉飾まがいの決算を強いていたといわれる西田氏の辞任は当然だが、いまだに東芝の相談役として君臨している西室氏も恥ずかしくないのかと思ってしまう。
“メザシ(を食す)の土光”と呼ばれ、経団連会長でありながら質素な暮らしぶりがクローズアップされて、クリーンなイメージだった東芝も地に堕ちた。”会計操作”技術の東芝でございまーす、だ。
東芝自身は言うまでもないが、「粉飾」ではなく「不正会計」と報道し、あまり深く追求しない大マスコミと、「監理ポスト」に入れない(だろう)東証には不信感しか抱かないのは僕だけだろうか?