「働く」を学問的に考える/働き方は「価値観」で選ぶ!変わる仕事観

2016.1.12

社会

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「企業で働くということ」

 明治大学法学部教授/ドラッカー学会理事

阪井和男 さかいかずお

1952年生まれ、和歌山県出身。東京理科大学理学部物理学科卒。株式会社ビクトリーベース代表取締役。ソフトハウスに勤務し、1987年理学博士取得。サイエンスライターを経て1990年、明治大学法学部専任講師。1998年から教授。ドラッカー学会理事としてドラッカーに精通。

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自転車をこぐように働く

英語で働くことを”business”といいます。つまり”busy(忙しい)”状態であること。時間が消耗され、やってもやっても終わらないという状態が続き、毎日やることが山のようにある。それに対応していくのが「働く」ということになりますが、それはちょうど、自転車に例えるとわかりやすいと思います。

自転車の車輪が地面について回っているとき、地面が凸凹だとグラグラするので、地面を見ながら一生懸命運転したとする。そんなことをしたら非常に不安定で、転んでしまいます。自転車の上手な人というのは、車輪が接している地面のことは意識せず、数秒先に通過するであろう少し近い未来に焦点が当たっている。だからスムーズに運ぶわけです。

仕事をする上で、日々のさまざまな厄介な問題を解決するためには、直接焦点を当てないで、もう少し未来に焦点を当てなければいけません。そういうやり方を、いわば未来に寄りかかって今の厄介な問題をやり過ごすという意味で、東京大学の経営学者・高橋伸夫氏が「未来傾斜原理」と言っています。これはとても重要な考え。

働く際は、将来に対する見通し、希望がないとうまくいきません。近い未来、その先到達する遠い未来に、自分がどんなビジョンもってやり過ごすかということが決定的に重要なのです。

それは相手の課題か、自分の課題か

ビジョンを踏み外さず仕事に集中するには、アドラー心理学の「課題の分離」が有効です。その課題は、自分が本来解決すべきなのか、相手が本来解決すべきなのに、自分に寄りかかって投げかけてきているのかどうかという区別。

多くの人が悩んでいる問題というのは、人の問題を自分の問題だと勘違いして何とかしようともがいている状態。課題を区別すると、自分が本当に責任持つ課題が明確になるため、それ以外は、周りの状況や事情でそうなっているだけで、自分が責められようが、叱られようが問題ないと割り切れるようになります。一方、自分にかかわる問題には全力投入できるようになります。

サラリーマンのセルフマネジメント

組織で働くなら、自分の一番やりたいことや関心の強いことへの思いを生かしながら、どうやって可能性を残していくかということに知恵を絞ることが必要です。

組織は2~3年で大きく変わるもの。上司が変わったり、自分のポジションが変わったり、環境が変わったり。今のまま10年、20年続くというのはありえないんですよ。それをまず勘違いしてはいけません。苦しい状況を何年か続けていると、目の前のことがすべてという感覚になるので、「この状態がこれからも変わりなく続くはず」「だから私には望みが無い」と思ってしまう。でも、ほんの数年で状況は変わるのです。

そのうち、自分がずっと温めてきた問題が、会社にドンピシャで響くときが絶対に来る。問題はそのときにちゃんと力を蓄えていられるか。意欲を失わずに、やり抜けるかどうか。それまではいわば未来を見据えながら、できるだけ今の問題をやり過ごしつつ、”決断疲れ”もしないようにうまく自分をコントロールして、いざというとき全力投球できるように自分をマネジメントすることですね。

セルフマネジメントをしていたら、上司の中で一人くらいは、「こいつは面白いことをやっているな」と気がつく人が必ずいる。多数の上司から評価される必要はないわけですよ。

いかに混乱の発信源であり続けるか

組織というのは何のために作るかというと、ある種の社会の不確定性さ、不確定な社会経済状況を、より確定した、しっかりした秩序あるものにするため。組織の中にいればいるほど、社会の不確定な、あるいは不安定な現実というものから身を遠のいていられるわけです。

しかし、多様性を受け入れるために必要とされるダイバーシティー・マネジメントは真逆の要素を持っています。混乱を起こすこと。いかに混乱を抱え込むかがマネジメントのポイントです。混乱しつつ、その混乱の中からちゃんと創造的なエネルギーに導けるかというのが、まさにマネジメントの問題です。

混乱を作り出す部下がたまにいますよね。多くの場合、冷や飯食わされているわけですよ。でも、それでもなかなか元気を失わない人もいる。そういう人が絶滅するような状態になった途端に、その組織は未来がないと判断できますね。そういう生意気なヤツがある一定数いて、元気良く走り回って、周りが少し困っているくらいが、組織のちょうどいい活性だと思っています。