2016年1月29日、日本銀行が「マイナス金利政策」に踏み切った。10日後、”10年物国債金利の利回りがマイナス金利”に。さらに、黒田日銀総裁が”預金のマイナス金利”について国会で答弁した。今回はこの”3つのマイナス金利”について整理しよう。
日銀当座預金にマイナス金利
本来、日銀当座預金に金利はつかない。とはいえ、金利がゼロでは、量的緩和政策において、日本国内の各銀行は国債を日銀に売ってくれなくなる。何しろ、国債には金利が付くのだから。金利が付く国債を手放し、金利が付かない日銀当座預金と交換してくれる銀行などいない。というわけで、日銀は量的緩和政策において、日銀当座預金に0.1%の金利をつけていた。
1月29日に決定されたマイナス金利政策は、日銀当座預金の一部(政策金利残高)に▲0.1%の金利を課すというものだ。黒田日銀総裁は、マイナス金利政策決定に際し、「イールドカーブ(残存期間ごとの金利状況)を全般にわたって引き下げ、一方で予想物価上昇率を引き上げることで、実質金利をイールドカーブ全般にわたって押し下げる。それによって、消費や投資を刺激することで、経済が拡大し、その中で需給ギャップが縮小し、インフレ期待の上昇と相まって、物価上昇率を2%に向けて引き上げていく」と、語った。
すなわち、日銀当座預金残高の一部にマイナス金利を掛けることで、実質金利をイールドカーブ全般に渡り引き下げ、国内の消費や投資を拡大することを図ったのだ。とはいえ、現在の日本は典型的なデフレであり、民間の資金需要が乏しい。銀行はマイナス金利政策により、”民間におカネを貸し出さざるを得ない”形に追い込まれたが、肝心の民間企業や家計がカネを借りる気がないのだ。
10年物国債のマイナス金利
マイナス金利政策を受け、貸出先不足に悩む銀行は、こぞって日本国債の購入に殺到。国債価格が高騰し、ついには額面を上回る金額で10年物国債が買われる事態に至ってしまったのだ。そして、2月9日に長期金利が▲0.035%のマイナス金利を記録した。
筆者は以前、麻生太郎財務大臣に「日本銀行の当座預金にマイナス金利を課しても、民間の資金需要が不十分である以上、国債が買い込まれるだけ。長期国債までもがマイナスに落ち込むだろう」と、語ったことがあるのだが、実際にそうなった。
いくらで国債が売買されようが、10年後の満期に、政府はあくまで額面の100億円しか返済しない。すなわち、満期まで国債を保有していると損をしてしまう(だから、マイナス金利と呼ばれる)わけだが、何しろデフレ継続で民間の資金需要が乏しく、日本円のめぼしい投資先がないため、結局は国債に向かわざるを得ない。さらに、日本銀行が量的緩和政策を継続しているため、”日銀という最終的な買い手がいる”という安心感もあり、海外投資家までもが日本国債を追い求めている有様になっている。
「国の借金で破綻する!」などと騒がれている日本国債に、銀行や海外投資家が殺到しているわけだ。摩訶不思議な話もあったものである。
預金者に対するマイナス金利
今回の日銀のマイナス金利政策で、特に問題なのは、イールドカーブ全体における金利低下を受け、銀行の収益が圧迫された結果、負担を預金者に押し付ける動きが始まっていることだ。すでに、ソニー銀行、りそな銀行、ゆうちょ銀行などが、預金金利の引き下げを決定した。三菱東京UFJ銀行はマイナス金利政策を受け、大企業などの普通預金に口座手数料を導入する検討を始めた。すなわち、預金者に対するマイナス金利政策だ。
黒田日銀総裁は、国会で「日本においても個人預金についてマイナス金利が付く可能性はないと思う」との見解を示したが、何を根拠にしているのか不明だ。というよりも、すでに日銀のマイナス金利政策により、”預金者が損をし、政府が得をする”という、意味不明な事態になってしまっているのだ。
国内の需要創出が必要
結局、問題は政府が”モノやサービスの購入”すなわち消費、投資という需要の拡大という正しいデフレ対策に乗り出さないことに尽きる。デフレは総需要の不足であり、貨幣現象とやらではない。長期金利がマイナスを記録するほど、日本国債が「安全」と判断されている以上、政府は普通に国債を発行し、国内の需要創出のために支出すればいいのだ。
だが、やらない。この根本的な過ちを改めない限り、日本政府や日銀の経済政策は混迷を極めていくことになるだろう。
正しく三橋氏の言うとおりだマイナス金利を導入して、とにかく市中にお金を出させようとしているのだが、そもそもデフレで資金需要がないのだから、お金を借りようという動きにはならない。新聞には毎日、住宅ローン金利の低下が報道されているが、資材と人件費の高騰により、住宅価格自体が高止まりをしているので、住宅の需要も伸びない。供給戸数も減っている。
アメリカが利上げをして、日本が利下げ(マイナス金利導入)したのだから、理論的には金利差により、高い金利のドルにお金が流れてドル高になるはずなのに、逆に円高に振れてしまった。財政破たんするかもしれないという状況なのに、安全資産と言われ、円にお金が流れているのは、確かに摩訶不思議としか言いようがない。結局行き場を失ったお金は、国債を買うしかなくなり、その結果、国債の価格が上昇して、利率がこちらもマイナスになってしまった。
表面利率は最初から決まっているので、価格が上昇すれば、利率が下がることになる。(1%の利率なら、100万円の額面で1年後には101万円で返還だが、102万円で国債を買えば1年後には101万円でしか返還されないので、1万円の損になる)
»ほかの経済記事でも解説しているが、金融政策のみでは、需要創出をすることはできないのだ。