八角親方、相撲協会の理事長はお飾りではないはずだ

2017.12.19

社会

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八角親方、相撲協会の理事長はお飾りではないはずだ

最近、日馬富士の騒動でニュースを見ない日は無い大相撲。ただ、大相撲を普段観ない方や結びの三番が行われる17時くらいからしか観ない方にとってはこの問題はわかりにくい部分が多いと思う。特に理事長や巡業部長など日本相撲協会の役職について見慣れぬ言葉が多いこともまた、その要因になっている。そこで当記事では相撲協会の権力構造について取り上げる。

政界に似た角界の権力構造

大相撲は、年6回、15日間の本場所と本場所の間に全国を行脚する巡業が行われている。その中で600人余りの力士たちがしのぎを削っているのだが、その運営は「年寄(としより)」と呼ばれる日本相撲協会の構成役員によって執り行われている。通常は「親方」の敬称で呼ばれる彼らは全員が元力士である。指導者はどのようなスポーツでも元選手がセカンドキャリアとして行っているが、元選手のみでスポーツ競技を運営しているのは大相撲くらいだろう。

年寄になるには一定期間、十両以上を務め上げることが最低限求められる。また、「年寄名跡(としよりめいせき)」と呼ばれる年寄になるための権利を保有せねばならない。ただこの年寄名跡は105名と限られているため、力士として実績があるからといって誰でも年寄になれる訳ではないのである。

そしてこの105名の年寄が選挙によって、年寄の中から10名の「理事」を選出する。理事たちが相撲協会の舵取りを行う役割を担っているため、相撲協会で権力を持つ者は皆、理事である。政治の世界に例えると、年寄が国会議員だとするば、国の舵取りを行う理事は内閣のようなものだ。

相撲協会の内閣総理大臣に当たるのが「理事長」である。そして理事長とともに大きな権力を持ち、相撲協会の運営に大きく寄与することになるのが“執行部”と呼ばれる3ポストの理事で、ナンバー2に当たる「事業部長」、「総合企画部長」、「広報部長」がそれに当たる。「巡業部長」や「審判部長」などはそれに次ぐポストで、「教習所長」は一般的に理事の中では閑職とされている。

相撲協会の運営は“理事長のカラー”で決まる

現在の執行部は理事長が八角親方(元:北勝海)、事業部長が尾車親方(元:琴風)、総合企画部長と広報部長は春日野親方(元:栃乃和歌)である。渦中の貴乃花親方は、北の湖前理事長時代は総合企画部長を務めており、執行部として手腕を振るっていたのだが、理事長選挙で八角親方に選挙で敗れると、次に用意されていたポストは巡業部長だった。

対立候補として擁立された貴乃花親方に対する懲罰人事という見方をされるのは、こうした権力構造故である。なお、先の理事選において貴乃花親方と協力関係にあった伊勢ヶ濱親方(元:旭富士)が「地方場所部長」、そして貴乃花親方を擁立した山響親方(元:巌雄)が教習所長ということもまた、貴乃花親方への懲罰人事という見方をさらに後押しする結果となっている。

そして相撲協会の権力構造を見る上でもうひとつ重要なことがある。それは、“理事長のカラー”によって相撲協会の運営は大きく左右されるということである。

大相撲には長い歴史があるが、ビデオ判定をほかの競技に先駆けて導入したり、場所中にケガをした場合は休場しても地位が据え置きになる「公傷制度」(2004年廃止)を導入したりと、ここ数十年の中でも大転換と言うべき決定を数多く下している。そして、それらの決定に大きく関与しているのが、時の理事長なのである。

相撲協会の理事長はお飾りではない

最近の事例を振り返ってみよう。

2010年頃の不祥事問題の渦中で理事長を務めたのは放駒親方(元:魁傑)だった。身内には甘い裁定を下しがちだが、現役時代に「クリーン魁傑」と称されるように誠実な人柄で通っていた彼は、野球賭博や八百長を働いた力士に対して厳格な処分を下した。処分を受けた力士からの反発も少なからずあったなか、多くの力士が土俵を去り、見るも無残な番付が出来上がってしまったが、それでも放駒親方は処分を断行した。

そして、放駒親方の後を受けたのが北の湖親方だった。大相撲の人気低迷を受けて、北の湖親方は若い女性職員などの意見を積極的に採用するなど、人気回復のためこれまでに無い施策を数多く実施した。大相撲公式Twitterでの発信や“遠藤お姫様抱っこパネル”の設置、力士との握手会の開催や「和装デー」の実施、そして何より親方衆による営業の推進は、今までの相撲協会には無い、攻めの姿勢だった。

相撲協会の理事長は、元力士が象徴として居座るお飾りの役職ではない。時代や状況を踏まえた上で適切に対応できる人材を選ばねばならないポジションだということがおわかりいただけたのではないかと思う。

だからこそ、いま八角理事長は試されているのだ。

日馬富士の処遇が後手に回ることにより問題が深刻化し、さらには相撲協会と貴乃花親方との対立は日を追うごとに増している。世間の相撲に対する風当たりは強くなり、新しい情報はほとんど無いのに関係者は事態を煽っている。

そしてそれを、マスコミは毎日報じ続けている。報道関係者から聞いた話だと、この問題は非常に数字が取れるらしいのだ。そう考えると、恐らくこの状況は今後も続くことだろう。決着するまで、異なるニュースによって世間の関心が薄らぐようなことは無い。

八角親方の理事長就任から2年。目に見える改革や成果はこれと言って無い。北の湖路線の継承と“土俵の充実”というキーワードだけが独り歩きし、リーダーシップが見えづらい状況だ。問題の解決、ひいては大相撲の信頼回復のためにも、八角理事長の今後に期待したい。いや、やってもらわねば困るのだ。