【独禁法70周年】金融システムを安定させたい金融庁vs競争原理を信じる公正取引委員会 地銀再編をめぐる泥仕合

2017.12.12

経済

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【独禁法70周年】金融システムを安定させたい金融庁vs競争原理を信じる公正取引委員会 地銀再編をめぐる泥仕合

地銀再編をめぐり、金融庁公正取引委員会(公取委)がバトルを展開している。地銀の収益力低下が止まらず、再編は不可避と判断する金融庁に対し、地銀再編は地域の競争原理を阻害しかねないと見る公取委が対立しているもので、両者の対立は時間を経るとともに先鋭化しつつある。特に地銀再編は県を跨いだ広域統合が限界に達するなか、同一県内の有力地銀同士の統合へと発展しており、融資、預金とも市場シェアが50%を超えるケースも。寡占が問われかねない地銀再編は果たして許されるのか。

旧大蔵省の先輩後輩同士の暗闘

2017年はちょうど独占禁止法が制定・施行されて70年の節目にあたる。それもあってか公正取引委員会(公取委)は独占禁止法の適用に厳格に臨んでおり、長崎県の親和銀行を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループ(ふくおかFG)と長崎県のトップバンクである十八銀行の統合が無期延期に追い込まれ、新潟県の第四銀と北越銀の統合は延期になっている。いずれも公取委が首を縦に振らないためだ。

「公取委の杉本和行委員長は地銀再編への独禁法適用に強硬です。これに対して地銀再編を進めたい金融庁の森信親長官は苦々しく思っています」(地銀幹部)

旧大蔵省の先輩で元事務次官の杉本氏と後輩の森氏の暗闘とも言っていい。その公取委が重い口を開いた。山田昭典事務総長が12月6日の記者会見で地銀再編についての見解を表明したのだ。

山田氏の念頭にあるのは、いまだ棚ざらし状態にあるふくおかFGと十八銀行の統合であり、事務総長が審査中の案件に関連してコメントするのは異例である。しかも会見では、「企業結合審査の考え方」と題する資料まで用意する熱の入れようだった。

1時間に及んだ会見では、「誰のための統合かということだ。あくまでも銀行利用者の利便性が守られるかがポイントだ」と指摘した上で、「銀行の競争手段は多様だ。利用者に不便を生じさせるのであれば、他の手段を考慮してもらいたい」と強調した。

地銀再編の3類型

この山田事務総長の指摘を聞いたある地銀幹部は、「ふくおかFG(親和銀行)と十八銀行の経営統合は認可しないということだろう。別の手段や統合相手を変える必要があると言っているようなものだ」と解説する。

山田氏は「過去10年の地銀再編計14件で禁止された案件は1件もない」とも強調したが、ふくおかFG(親和銀行)と十八銀行の経営統合は筋が悪いということだろう。

実は、公取委内部では地銀再編を3類型に分けて吟味している。八千代銀行(東京)と東京都民銀行の統合のような「大都市下位行型」、鹿児島銀行と肥後銀行(熊本県)のような「広域連携型」、同一県内の有力地銀が経営統合する「強者連合型」の3つだ。

このうち「強者連合型」については、統合により地域の貸出金利が上昇するなど顧客の利便性が損なわれないか慎重な審査を徹底している。ふくおかFG傘下の親和銀行と十八銀行の統合は、まさにこの「強者連合」に当たる。

だが、地銀を取り巻く環境は人口減少による地域経済の衰退を背景に一層厳しさを増している。金融行政を司る金融庁としては、体力のあるうちに地銀再編を進めることで金融システムの安定性を確保しておきたいのが本音。この思いは金融システムのもう一方の番人である日本銀行(日銀)も同じだ。

地域金融機関が陥る囚人のジレンマ

その日銀の生え抜きトップの中曽宏副総裁が11月29日に開かれた都内での講演で、金融庁にエールを送った。中曽氏は、まず地域金融機関は“囚人のジレンマ”に陥っているとみられるという刺激的な分析を披露。恒常的な収益力低下に直面している地域金融機関について、「お互いに過度な金利競争を回避すれば収益を維持できる一方、自行だけが競争から離脱すれば、他行に顧客がシフトし一人負けする可能性があることを、多くの金融機関が指摘している。そうした状況では、お互いに金利競争から抜け出しにくくなっている」と指摘、それこそがゲームの理論で言われる“囚人のジレンマ”にほかならないと示唆した。

そして銀行間の過度な競争がもたらす“囚人のジレンマ”から地域金融機関が脱するためには、「統合再編は有効な選択肢の一つ」と語った。

地域の人口や企業数が減少するなかにあって、金融機関の供給能力は過剰な状態にある。金融機関の経営再編は、そうした過剰供給を改善する手段となるとともに、金融システムの安定性や効率性を高める上でも有効であるというわけだ。

ただし、中曽氏は「経営再編は将来収益を改善するための一つの選択肢だが、それがすべてではない」とも指摘する。むしろ重要なのは、「将来収益の改善につながる粘り強い取り組み」であり、「各金融機関は利益最大化の時間的視野をより長期に据えてビジネスモデルの転換を図っていくことが重要」と訴えている。

金融機関がお互いに近視眼的な利益追求に走れば、過度な金利競争につながり、結果として、個々の金融機関の収益は下押しされることは明らかだ。

そしてメディアを通した場外バトルへ

さらに公取委のバトルは、場外での代理戦争にも発展している。冨山和彦・経営共創基盤CEOと大庫直樹・ルートエフ社長の両金融庁参与と、前公取委事務総長の中野秀人氏のマスコミを舞台とした場外乱闘である。

冨山氏と大庫氏は、「月刊中央公論」(12月号、中央公論新社)誌上で対談し、公取委の地方経済の現状や地銀再編への理解の無さをこき下ろした。

例えば、「公取委の基本的な発想は、経済が右肩上がりで、規模の経済性がいろいろなものを支配していた設備集約型の時代のままです。放っておけば独占企業が生まれて価格を独占的に釣り上げて消費者を害するという、現在の社会実態とはまったく遊離しているモードで止まったまま。そうした過去の現実を、競争法の前提の立法事実としています」(冨山氏)といった具合だ。

そして、両氏の対談は、時代錯誤の公取委は、競争政策の立案と執行を分離すべきだという“解体論”にまでヒートアップする。原理原則に固執する公取委は“法匪(ほうひ)の極み”とまで言い切っている。

他方、この対談を苦々しく思った公取委は、中野前事務総長が11月24日にロイターのインタビューに応じ、「(地銀再編による)利用者への利益還元は、競争によって初めて確保できる。企業合併の審査はシェアの高さだけで判断しているわけではない」と反論した。

地銀再編をめぐる金融庁と公取委のバトルは、当事者のみならず外野をも巻き込んだ泥仕合の様相を呈しつつある。