異次元緩和の終結宣言をするのは誰? ポスト黒田総裁を占う日銀副総裁人事

2017.12.25

経済

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日本銀行・黒田総裁の任期が4月に迫っている。戦後、任期5年を超えて続投した日銀総裁はいないため、後任が誰なのかで業界は色めき立つが、黒田総裁が続投する可能性も否定できず……。異次元緩和の終結と出口戦略を担うのは誰か。

副総裁の後任人事は次期総裁を占う試金石

4月8日に5年の任期を迎える日本銀行の黒田東彦総裁の後任人事に俄然注目が集まっている。12月5日には黒田総裁が官邸に安倍晋三首相を訪ね、世界経済や日本経済の現状等について意見交換。会談後に記者団に答えた黒田総裁は、総裁後任人事については「まったく話はなかった」と述べた。

また、首相から続投要請があった場合の判断に関しても「私から何か申し上げるのも僭越だ」と語ったものの、黒田氏の表情はすこぶる上機嫌で、続投の可能性が囁かれている。

しかし、戦後、任期5年を超えて続投した日銀総裁がおらず、水面下の鞘当ては激化している。その一端が11月24日昼、本田悦朗・駐スイス大使と浜田宏一・内閣官房参与(イェール大名誉教授)が首相官邸内で安倍首相と会談したことだ。

「会談で次期日銀総裁の人選が話題になったことは間違いない。両氏は次期総裁の要件としてリフレ政策の維持・拡大を進言したと見られている。黒田総裁続投の可能性もあるが、超リフレ派の本田氏自身が就く可能性もある」と大手機関投資家幹部は指摘する。

リフレ政策

リフレーション政策の略で「通貨再膨張」と邦訳される。ゆるやかなインフレーションを計画的に引き起こすことで、景気を刺激する政策で、具体的には、中央銀行が国債等を買い入れることで、マネーを市中に供給する。

だが、有力エコノミストは、その前に来年3月19日に任期満了を迎える岩田規久男(学者)、中曽宏(日銀プロパー)の2人の副総裁の後任人事が隠れた焦点だと指摘する。この2人の副総裁に誰が就くのかが次期総裁を占う試金石となるという見立てだ。

ポスト黒田に意欲的な本田氏と副総裁候補

本田氏は11月上旬にロイター のインタビューに応えて、「次期日銀総裁に指名され就任が決まれば、デフレ脱却、2%の物価目標実現によるデフレ脱却に全力で実現する」と述べ、ポスト黒田に強い意欲を示した。

また、2014年4月に消費増税によってアベノミクスの効果が相殺されたとして、「金融緩和と拡張的な財政支出を同時に展開しなければデフレになじんだ人々の物価観を展開することはできない」と強調。デフレ脱却には「(日銀の)人心一新が必要」と指摘した。

さらに、仮に本田氏が総裁に選ばれた場合、副総裁には「デフレ脱却後の(金融緩和からの)出口では、金融機関の規制に詳しい副総裁が必要で、結果的に日銀出身者になるのではないか」「現在の岩田規久男副総裁のように政策の理論的支柱も必要」と示唆した。

この本田発言を受け、市場ではこう囁かれている。

「本田氏の胸中には、日銀プロパーの雨宮正佳理事の副総裁昇格と、本田氏とともにリフレ政策を提唱している若田部昌澄氏(早稲田大教授)の副総裁起用が念頭にあるのではないか」(エコノミスト)

だが、本田氏が副総裁候補の念頭に置く雨宮理事については次のような指摘も聞かれる。

大胆な金融緩和を推進する日銀の黒田総裁の陰に金融政策の企画・立案を担当する雨宮理事の“お追従”がある。有力な日銀OBは「雨宮君は黒田総裁の知恵袋として大胆な金融緩和を事務方で支えている」と語る。お追従の狙いは次期総裁ポストの奪取だ。デフレ脱却に向け、2%の物価上昇率達成を目指す黒田日銀とって雨宮理事は欠くべからざる人物となっていることは確かだ。

日銀プロパーの思惑

雨宮氏は2012年5月に、本来であれば“上がりポスト”の大阪支店長に就いた経緯がある。異例の人事に、政界再編の鍵を握っていた橋下徹大阪市長を懐柔するための布石との見方も浮上したが、実際は違っていたようだ。

「当時、ポスト白川(方明、前日銀総裁)をめぐる政治の圧力もあり、日銀内部では伝統的な金融政策を重視する派と、そうでない派とが反目していた。この混乱に巻き込まれ、将来の総裁候補の雨宮氏が失脚してはならないと、大阪支店に一時疎開させた。企画畑一筋の雨宮氏は家庭の都合もあり地方の支店長を経験していなかったので大阪行きもいいのではないかとなった」(日銀関係者)

一年後、雨宮氏は黒田総裁の就任に合わせ大阪支店から本店に呼び戻され、再び企画担当に復帰した。
その後も金融政策を巡る日銀内部の対立は現在も続いている。雨宮理事は黒田総裁を支えているものの、「本質は伝統的な金融政策を支持する日銀マン」(先の日銀OB)と見られる。若い頃、旧大蔵省にも出向経験もあり政府とのパイプも太い。雨宮理事を次期総裁に――。日銀プロパーの狙いはここにある。

黒田総裁の下で2013年4月から実施された「異次元金融緩和」以降、日銀は国債だけでなく、ETF(上場投資信託)で株式を、また、REIT(不動産投資信託)で不動産も購入。日銀の総資産が膨らみ続けることは、日銀のバランスシート上のリスク資産が増加することを意味する。つまり、日銀のバランスシート上の価格変動リスクが高まるということだ。

保有資産の価格が安定、上昇しているときはいいが、下落に転じると日銀のバランスシートは悪化。価格下落の幅によるが、それが日銀の自己資本を超えると債務超過に陥る懸念が生じる。

この懸念が生じた場合は、国は予防的に公的資金(財政)から資本を入れ、日銀の債務超過を回避する。実際、異次元緩和以降、国は財政により日銀の資本増強や保有資産の価格下落に備えた引当金の積み増しを行っている。

日銀の破綻は極端な話のように見えるが、実際、日銀の自己資本は8.1兆円と少ない。保有国債だけで430兆円 を超える今、債務超過になるリスクは現実としてある。そこまでいかなくても、価格下落によって日銀の収益が落ちることで、約4800億円(平成28年度)ある日銀の国庫納付金が減少する可能性もある。

膨張する日銀はリフレ派一色に

日銀の総資産は、6月末で502兆円と国内総生産(GDP)とほぼ並んだ。ドル換算でFRB(米連邦準備制度理事会)を上回る規模に膨れ上がっている。現状のペースが維持されれば、来年にはECB(欧州中央銀行)を抜き世界最大の中央銀行となる見込みだ。

その鍵を握る日銀政策委員会・審議委員のひとりであった木内登英氏が7月23日に5年の任期を終え退任、古巣の野村総合研究所にエグゼクティブ・エコノミストとして戻った。

一貫して黒田総裁が進める異次元緩和に警鐘を鳴らし続けてきた木内委員。地方講演では、長期金利をゼロ%程度に抑える現在の日銀の金融政策について、「国債市場の機能を著しく損ねて不安定化させる。米大統領選以降、金利上昇圧力かかっており、(日銀は)最初の試練を迎えている」と懸念を示した。

また、木内氏と同時にやはり大規模緩和に慎重だった佐藤健裕氏も退任し、日銀の審議委員はすべて安倍政権発足以降の任命者となり、リフレ派一色で染められた。いまや黒田総裁に正面から反論する審議委員は皆無だ。その間も日銀の資産規模は膨らみ続けている。

次期日銀総裁は誰になるのか、予断を許さないが、誰がなるにしても課題は、現在の異次元緩和の終結宣言と、出口戦略になる。いわば戦後処理であり、損な役回りになることだけは確かだ。

日銀が国債を買い続ける限り、国債価格が下落することはない。現在心配されているのは、むしろ日銀が買える国債が市場になくなるという状況だ。問題は、国債の買い取りを止め、出口に向かったとき。

日銀の債務超過は、この出口戦略がうまくいかず、金利が上昇(国債価格が下落)したときに生じる。資産である国債の評価損が出て赤字になり、自己資本に食い込むという場合だ。民間金融機関でいえば、資産である貸出債権が不良債権になり、債務超過になるのと同じ。

日銀の会計制度では、資産評価は簿価(買ったときの値段)で評価するため、その懸念はないという意見もある。しかし、現在の市場の会計制度は「時価会計」が原則。日銀も金融機関である以上、毎期、保有する資産を値洗いして、そのときの市場の価格(時価)で評価し直して、含め益や含み損を計上するのが基本だ。

そのときに市場の価格が大きく下落していれば、含み損が顕在化して、資本の額を上回れば債務超過に陥る。マーケットが時価で評価して、「日銀は危ない」と判断したら……円の暴落となりかねない。