なぜ政治家は失言するのか 2017

2017.12.22

政治

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なぜ政治家は失言するのか 2017

都議選と衆議院選があったこともあり、2017年は特に政治家による「失言」が目立った年ではなかっただろうか。頭脳明晰で経験豊富、人心掌握にも長けた政治家たちが、なぜこんなにも低レベルな失言をしてしまうのか。政治不信を助長した9人の政治家の発言を取り上げ、報道対策アドバイザーとしても活動する窪田氏が、政治家が失言する理由を分析する。

※各政治家の発言(小見出し)は、本文で説明することを前提に“切り取って”記載しています。また、肩書は当時です。

自民党・今村雅弘復興相「どうするって、それは本人の責任でしょう」「これはまだ東北で、あっちの方だったからよかった」

4月4日、閣議後の定例記者会見でフリージャーナリストから、東京電力福島第一原発事故の自主避難者に対する住宅支援を打ち切ったことについて「国の責任」「帰れない人はどうするのか」と追及された今村氏は「本人の責任でしょう」と回答。

畳み掛けるように「自己責任ですか」と質され、「基本はそうだと思う」などという問答が続いた後、「責任をもって回答してください」と言われたことで突然、激昂。「責任をもってやってるじゃないですか!」「出ていきなさい!」とフリージャーナリストに詰め寄る姿が報道される。

後日、「感情的になってしまった」と謝罪して沈静化してきた25日、今度は二階派パーティで東日本大震災の被害にふれるなかで、「これはまだ東北で、あっちの方だったからよかった」という不謹慎発言。直後にあいさつをした安倍晋三首相も「不適切な発言」として謝罪したが問題視する声が収まらず、審議中の「共謀罪」への影響を考慮した今村氏はその夜のうちに辞任する意向を固めた。大臣という立場を忘れ、無責任な傍観者的論評が思わず口をつく「心情吐露型失言」の典型的なパターンといえよう。

自民党・山本幸三地方創生相「一番のがんは文化学芸員。一掃しないとダメ」「何であんな黒いのが好きなんだっていうのがある」

4月16日、地方創生に関するセミナーに出席した山本氏は、地方の文化財が観光資源として活用されていない現状を憂い、「一番のがんは文化学芸員。一掃しないとダメ」と発言。

学芸員たちの間から「われわれの仕事は研究であって観光ガイドではない」というような批判が殺到すると、「文化財はプロだけのものではなく、観光マインドをもってほしい」と釈明をしたが、国務大臣が、学芸員という国家資格を持つ人々を“一掃”するというありえない発言は、テレビや新聞から厳しい声があがった。

全国の学芸員の中には、その専門知識を用いて観光振興に貢献する者も多くいるが、そのような現状すら山本氏はわかっていないことが伺えるため、「知識・語彙不足型失言」といえる。

また、山本氏は11月23日には三原朝彦・自民党衆議院議員のセミナー内で、三原氏が注力するアフリカ諸国との交流について、「ついていけないのが(三原朝彦氏の)アフリカ好きでありまして、なんであんな黒いのが好きなんだっていうのがある」と発言し、アフリカにルーツを持つ子どもたちから抗議を受けた。本人は「差別意識は無い」と釈明、現在の人権感覚と懸け離れた知識しかないことを露呈した。

自民党・菅義偉官房長官「怪文書みたいな文書ではないか」

5月17日、加計学園獣医学部新設計画をめぐり、「総理のご意向」などと記された文書の存在が報道されるなかで、官房長官会見で菅氏は「怪文書みたいな文書ではないか」と不快感をあらわにした。

その後、前川喜平・前文部科学省事務次官が在職中に目にした文書だと証言したことで、文書の信用をおとしめるための意図的な発言ではないかと批判を浴びる。6月16日、菅氏は「当時は出所や入手経路が不明で、信ぴょう性もよくわからなかった」と釈明し、「怪文書」という表現を撤回。前川氏や野党の「口利き疑惑」追及を勢いづけるという皮肉な結果を招いた。

安倍首相の関与を印象づけたい勢力のリークを「怪文書」という表現で処理を試みるも、それが裏目にでてしまう。本来の意図とは異なるようメディアに報じられる「誤爆型失言」といえる。

また、これによって、天下り問題の対応をめぐって前川氏と菅氏の間に確執があったことも注目を集め、これまで冷静で淡々とした語り口で、大きな失言も無かった菅氏の“穴”に注目が集まり、その後の東京新聞・望月衣塑子記者の執拗な追及の呼び水となった。

自民党・豊田真由子衆議院議院「このハゲー!」

6月22日、豊田氏が男性秘書に対して「このハゲー!」など数々の暴言を吐き、暴行してケガを負わせたという疑惑を「週刊新潮」が掲載、後に音声データも公開した。

所属する細田派の細田博之会長は、件の秘書が高速道路を逆走しようとしたからなどと擁護したが、音声データの常軌を逸した罵詈雑言のインパクトが勝り、豊田氏の人間性を疑うような報道があふれた。

騒動からおよそ3カ月経過した9月18日、謝罪会見で久しぶりに姿をあらわした豊田氏は涙ながらに暴行を否定し、深々と頭を下げて政治家続行の意思を見せ、10月22日の衆院選に出馬したが、“みそぎ”とはならず落選した。

金銭トラブルで自民党を離党した武藤貴也氏、妻・金子恵美衆議院議院の妊娠中の“ゲス不倫”発覚で議院辞職した宮崎健介氏、被災地視察で長靴を忘れた挙句おんぶをさせて政務官辞任をした務台(むたい)俊介氏、“重婚疑惑”報道で政務官辞任をした中川俊直氏らと並び「魔の2回生」を代表する騒動として、自民党不信を招くとともに、地方議員のセクハラ・パワハラなどにマスコミの関心を向けさせるなど、日本の政治不信にさらなる拍車をかけることとなった。

また、「このハゲー!」は「ち~が~う~だ~ろ~」とともに小学生の間で流行するという現象も起きた。

自民党・稲田朋美防衛相「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」

6月27日、都議選で自民党候補者を応援する集会で登壇した稲田氏は防衛省自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言。直後から「自衛隊は自民党一党の所有物ではない」「憲法違反だ」などとの批判の声が寄せられた。

稲田氏は防衛省自衛隊の活動に地元の理解と支援をいただいていることに感謝の気持ちを伝える一環」と釈明したがバッシングは止まず、「誤解を招きかねない」と発言を撤回。閣僚と政党の政治家という2つの立場の基本的な違いすらも理解できていないのではと思われてもしょうがない「知識・語彙不足型失言」である。

自民党内からも辞任の声があがるかなで、かねてから問題となっていた南スーダンPKO日報隠蔽問題もクローズアップし、特別防衛監察を前に、稲田防衛相が隠蔽を把握していたかのような発言をしていたことを産経新聞がスクープ。7月28日、日報を幹部らが隠蔽していたという特別防衛監察が公表されたことを受け、稲田氏は辞意を表明した。

自民党・安倍晋三首相「憎悪からは何も生まれない。こういう人たちに負けるわけにはいかない」

7月1日の東京都議選の最終日。秋葉原で街頭演説に立った安倍首相に対して、一部聴衆から「帰れ!」コールが起こる。当初は演説妨害をしないように求めていた首相だったが、次第に感情的になり、自民党支持者に対して、「人の演説を邪魔するような行為を自民党は絶対にしない」「憎悪からは何も生まれない。こういう人たちに負けるわけにはいかない」と訴えた。

この発言をマスコミは大きく取り上げ、評論家やコメンテーターは「有権者を軽視」「一国の総理大臣が絶対に言ってはいけない言葉」と強く非難。都議選惨敗の原因ともされた。しかし、その一方で、首相の言動は演説妨害を行なった市民団体に向けられたものであり、あたかも自らを批判する者への蔑視のように誘導したマスコミの報道姿勢を批判する声もあがり、菅官房長官も「きわめて常識的な発言」と擁護。

確かに、本来の意図とかけ離れた形でメディアに切り取られた「誤爆型失言」の感は否めないが、安倍政権の“傲慢さ”を強調する発言として世に広められた。

自民党・麻生太郎副総理兼財務相「何百万人を殺したヒトラーはいくら動機が正しくてもダメだ」

8月30日、自民党麻生派の研究会で講演した麻生氏は、政治家とは結果が大事だという主旨のことを述べるなかで、「何百万人を殺したヒトラーはいくら動機が正しくてもダメだ」と発言して批判を浴びる。

「あしき政治家の例として挙げた」と釈明して、真意と異なる誤解を招いたと遺憾の意を表明した。麻生氏は2013年にも講演内で憲法改正について「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わった。あの手口に学んだらどうか」と発言し、海外のユダヤ系団体からも問題視されるなどの過去があるため、一部マスコミから「再びナチス礼賛」として批判を受けた。

これらの2つの発言は前後の文脈から決してナチスを礼賛しているわけではなく、「マスコミが失言とするように意図的に切り取った」という指摘もある一方で、「ナチス」や「ヒトラー」という欧米の政治家が必ず避けるリスキーな話題を使うという点では「知識・語彙不足型失言」ともいえる。

希望の党・小池百合子代表(東京都知事)「『排除されない』ということはございませんで、排除いたします」

9月29日の東京都知事定例会見で、小池氏は前日に民進党・前原誠司代表が希望の党への合流を決断したことについてさまざまな質問を寄せられていた。そのなかでジャーナリスト・横田一氏が「前原代表が『(希望の党に)公認申請をすれば、排除されない』と言っているがだましたのか」と追及したところ、「前原代表がどういう発言をしたのか、承知いたしていませんが、『排除されない』ということはこざいませんで、排除いたします」と回答。

これが“排除の論理”としてマスコミで繰り返し報道され、小池氏の独裁者的なイメージが広まることとなった。結果、小池人気に依存した希望の党も失速。10月22日の衆院選も惨敗した。

もともと「排除」は前原氏が用いた表現で、小池氏はおうむ返しをして全否定したに過ぎないが、民進党リベラル勢力やメディアのバッシングによって、小池氏が編み出した概念のように伝えられた。

民進党の候補者全員に公認を与えることは当初から否定し、「選挙のための理念なき野合」というネガティブイメージをどうにかして跳ね返したい小池氏からすれば、左派リベラルと迎合しないという“強い意思表示”だったが、発言の切り取られ方次第でまったく異なる印象を世間に与えてしまった。このあたりが「誤爆型失言」の恐ろしいところだ。

自民党・竹下亘総務会長「パートナーが同性だった場合、私は反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」

11月23日、自民党支部のパーティに出席した竹下氏はあいさつで、天皇皇后両陛下が国賓を迎える宮中晩餐会について話題が及んだ際に「パートナーが同性だった場合、私は反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」と発言。

すぐに記者団に対して、自分のまわりにも同性のパートナーを持っている者がおり、差別なく普通に付き合いをしていると釈明して、「皇室を考えた場合に、日本人のメンタリティーとしてどうかなという思いが私の中であったものだから、ああいう言葉になって出た。言わなきゃよかった」と反省の弁を口にしたが、「差別主義者」という批判が多く寄せられ、中には自民党の排他主義と結びつける論調もある。

竹下氏の考えは、政府が掲げる“多様性”を否定するものであるとともに、天皇皇后両陛下の思いとも相反する。事実、2013年の宮中晩餐会にでたオランド仏大統領の同性パートナーであるトリルベレール氏が、美智子皇后から親しみを込めて接してもらったという感謝の言葉を自著で述べている。竹下氏自身の思い込みが招いた「知識・語彙不足型失言」といえよう。

政治家が失言する3パターン

危機管理広報の観点からこれまで多くの「失言」を見てきた立場から言わせていただくと、政治家の失言というものはおおよそ3つのパターンに分類される。「心情吐露型」「知識・語彙不足型」、そして「誤爆型」である。

まず、「心情吐露型」はごくシンプルに、常日頃から思っていることが口をついてしまうというパターンである。この代表が震災について「東北だったからよかった」と述べた今村前復興相や、「このハゲー!」の豊田氏だ。このような発言をする者は自分が政治家という立場であることをすっかりと忘れ、感情の赴くままに思ったことをストレートに言葉にしていく。ある意味、正直な人といえる。

「知識・語彙不足型」というのは、本人からすればうまい例えや、気の利いたことを言ったつもりなのだが、表現や感覚が世間の常識から大きく乖離しているというパターンだ。

聴衆を楽しませよう、よりわかりやすく伝えようというサービス精神から“雑”な表現を使ってしまい、その部分をメディアが“舌禍”としてピックアップするケースが多く、その代表が「ナチス発言」を性懲りも無く繰り返す麻生氏や、アフリカの人々を「黒いの」とサラッと言ってのける山本氏である。また、「知識・語彙不足型」には稲田氏が「防衛大臣として」と投票を呼びかけたように、根本的な政治知識の欠如によってもたらされる失言も含まれる。

そして最後が「誤爆型」である。マスコミや聴衆に対して、明確なメッセージがあり、自らの主張によって世の中をそちらの方へ“誘導”しようという強い攻撃の意思をもって語りかけるも、スピーチの一部やインパクトの強い表現だけがメディアに切り取られ、自分が意図するものとはまったく異なる誘導がなされ、自らが被弾してしまっているというパターンだ。

その代表が、菅官房長官の「怪文書みたいな文書」や、安倍首相の「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という発言だ。2つに共通しているのは、ネガティブな要素や批判を逆手にとって、自分たちの正当性を訴えていこうという攻めの姿勢である。ただ、残念ながらその“口撃”はブーメランのごとく失言として切り取られ、かなりのダメージを負うこととなってしまっているのだ。

ちなみに、このような批判を逆手にとって、自らのイメージアップを図るというやり方は、欧米では「ブリッジング」と呼ばれ、政治家や企業経営者などが身につけるスピーチテクニックとされているが、日本の場合は「誤爆型失言」につながることが多いリスキーな話法である。

vsジャーナリスト 露呈する“甘さ”と“慢心”

このような失言パターンは、政治家自ら陥る場合が多い一方で、記者やジャーナリストの質問によって“誘導”されるケースも多い。わかりやすい例が、今村前復興相を「出ていきなさい!」と激昂させたフリージャーナリストの質問だ。

あの会見議事録を見ると、フリージャーナリストが「自己責任ですか」と水を向けたところから、“被災者に自己責任を強いる無責任な政府”という批判を展開させている。フリージャーナリストの術中にまんまとハマってしまっているのだ。そう言うと、なにやらフリージャーナリストを批判しているように聞こえるかもしれないが、そんなことはない。

アメリカではホワイトハウスの会見場を「スピンルーム」と呼ぶ。政府の正当性を伝えたい側の情報操作(スピンコントロール)と、そのシナリオを崩す質問を投げかけるジャーナリストたちの“頭脳戦”の場という認識なのだ。つまり、記者やジャーナリストの質問によって誘導されてしまうような政治家は、それだけ未熟だというのが世界では常識だ。

にもかかわらず、日本の政治家はなぜ失言が多いのかというと、“慢心”が大きい。

選挙演説、後援会の挨拶、講演会など政治家は人前でしゃべる機会が多いので、自分のことを「弁が立つ」と過信している。そのため、面白いことを言おう、ウケることを言おうというスケベ心が強く、それが失言を引き起こし、記者たちの誘導に乗りやすくさせている。

つまり、自分たちの発言は常に「スピンコントロール」の標的になる、という危機感が無いのである。このような“平和ボケ”を克服しない限り、日本の政治家の失言が消えることはないだろう。