政治

いつ解散?消費増税は?与党辛勝で深まる安倍首相の悩み

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衆院北海道5区と京都3区の補欠選挙が2016年4月24日に投開票された。焦点だった北海道5区の与野党一騎打ちは辛うじて自民党候補が勝利。僅差となった結果を受け、新聞各紙は「首相、衆参同日選見送り」と報じた。与党の苦戦により、”衆参ダブル選”は本当に消えたのか。消費増税は見送るのか――。首相の判断にますます注目が集まりそうだ。

野党善戦も無党派層を起こせず

北海道5区は自民党新人で、故町村信孝衆院議長の娘婿である和田義明氏=公明、日本のこころ、新党大地推薦=と、野党統一候補で無所属新人の池田真紀氏=民進、共産、社民、生活推薦=による一騎打ちの構図。事前のマスコミ調査でも接戦と伝えられていたが、結果は和田氏が13万5842票を獲得。12万3517票だった池田氏を辛うじてかわし、初当選を決めた。

開票日当日は政党関係者も、マスコミも揺れた。ある大手マスコミの出口調査では期日前投票が和田氏有利、当日の投票では池田氏有利との結果に。政党幹部も新聞記者もどちらの結果となっても対応できるよう、2パターンの”予定稿”の作成に追われた。

北海道5区の選挙結果を共同通信の出口調査を使って分析すると、和田氏は与党支持層、池田氏は野党支持層をしっかり固めたとみられる。与党は自民、公明、野党は民進、共産、社民の支持層のいずれも9割程度を確保。無党派層は和田氏に約3割、池田氏に約7割が投票した。

無党派層の支持をつかみきれなかったにもかかわらず、和田氏が1万票以上の差をつけて当選できたのは、与党の支持率の高さ、組織力の強さがあったからだろう。

産経新聞社とFNNが4月23、24日に実施した世論調査によると、内閣支持率は49.4%。一時の勢いはないものの、一般的に危険水域とされる20%台を大きく上回っている。北海道で一定の地盤を持つ鈴木宗男氏の力も借りて、組織戦を展開したのが奏功したようだ。

一方の野党は有権者の関心を集めきれなかったのが敗因。投票率は57.63%。前回の衆院選(2014年12月)をやや上回ったが、政治への関心が薄い無党派層を”起こす”ことまではできなかった。理念の異なる民進党と共産党が組んだことで、一定の票が離反した可能性もある。

京都3区で浮き彫りになったおおさか維新の弱点

一方、同日行われた京都3区は民進党の前職とおおさか維新の会新人の2人を軸にした、野党候補6人の戦い。こちらは事前の予想通り、衆院議員を5期務め、内閣府政務官などの要職も務めた民進党の泉健太氏=社民推薦=が貫録勝ち。投票率が低迷する中、6万5051票を集め、2万710票にとどまったおおさか維新の森夏枝氏らを引き離して大勝した。

京都3区の補選が実施されたのは、自民党に所属していた宮崎謙介前衆院議員が不倫騒動を起こして辞職に追い込まれたから。与党は責任をとって候補者の擁立を見送っており、民進党にとっては当然の勝利といえる。

逆に、痛かったのはおおさか維新の会。関西は地盤であるうえに、安倍政権と政策が似通うことから与党支持層を取り込めば勝利も可能とみていた。しかし、ふたを開ければ民進党候補の得票の3分の1にも満たない完敗。擁立が直前になったことから候補者名が浸透しなかったのに加え、”おおさか”という名を敬遠する有権者も多かったとみられる。

維新内部ではかねて党名の変更を主張する声がある。松井一郎代表らは「党名の”おおさか”は地名ではなく、改革を象徴する言葉」などと主張してきたが、今回の惨敗によって松井氏らの主張が受け入れられてないことがはっきりした。今後、大阪以外の地域からは”日本維新の会”などへの党名変更を求める声が強くなる可能性がある。

補選の結果は国内政治にどんな影響を与えるか

朝日新聞は選挙結果を報じた4月25日付朝刊で、さっそく「首相、同日選見送り」と報じた。補選の結果と熊本県での一連の地震被害を踏まえ、復旧・復興対応や補正予算の編成を優先すべきと判断したためだ。

首相が衆参ダブル選を検討しているのは、参院選を単独で行うと、有権者がバランス感覚を発揮して与党に”お灸をすえる”可能性があるため。それを避けるために”消費増税の再延期”を名目に衆院選も同時に実施し、”政権選択選挙”にすることで安定与党の座を維持しようという狙いだった。

だが、地震被害が広がり、避難も長期化するなかで衆参ダブル選挙を断行すれば「災害対応より政局を優先した」との批判が広がりかねない。補選の苦戦で与党内に慎重論が広がったことも受け、首相はダブル選の回避に傾いたというわけだ。

しかし、その場合は2017年4月に迫る消費税率の10%への引き上げをどうするかという問題が生じる。「前回の延期の際は解散・総選挙に打って出たのに、今回は信を問うことなく大きな政策判断を変更するのか」。解散を見送れば、必ずそんな批判が政府・与党を直撃するだろう。

さらに、解散にもたつく間に支持率がどんどん下がっていった”麻生政権の悪夢”も頭をよぎる。今回の補選の結果によって、首相の悩みはますます深まったに違いない。

大災害時の辛勝は安倍政権の今後を暗示?

 

今回の北海道の補欠選挙は、与野党が本当の意味で全面対決になり、今後を占う意味でも非常に重要だと注目していた。熊本の地震が起きたために取りやめになったが、中盤には安倍総理大臣も現地入りするはずだった。

大災害が起きると、対応さえ間違えなければ与党に有利に働くと言われている。選挙前は町村前衆議院議長の娘婿・野田氏が知名度からも圧勝とみられていたが、共産党をも含めた野党の選挙協力もあって、やっとの思いで与党の辛勝だった。

以前から、大義のない衆議院解散などできるはずがないと僕は公言していたが、熊本の大災害もあり、これで衆参同日選挙は完全になくなった。負けてもともとだった野党は、この追い上げである程度の手応えをつかんだとみられる。半信半疑だった共産党との選挙協力が進んでいくことになり、7月に行われる参議院選挙である程度の善戦も見込まれる。

年内の衆議院解散をにらむ安倍総理は難しい政権運営を迫られることになった。