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佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

vs 自家用車ライドシェア タクシー王子の攻勢~日本交通 会長・川鍋一朗×尊徳編集長

2016.07.11

経済

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写真/芹澤裕介 文/赤坂麻実

公共交通として、たびたび法律による規制緩和と強化を繰り返してきたタクシー業界。それでも秩序は保たれてきたが、近年、アメリカ生まれの配車サービス「Uber(ウーバー)」が上陸したことで事態は一変。国会では自家用車ライドシェア(相乗り)解禁も検討され、事業領域を侵食されつつあるタクシー業界は反発。対抗策として打ち出した、初乗り運賃の引き下げは攻勢の狼煙となるか? ”攻めの戦略”で知られる業界大手、日本交通の”タクシー王子”こと川鍋会長に、対自家用車ライドシェアの戦略を聞いた。

株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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日本交通株式会社 代表取締役会長

川鍋一朗 かわなべ いちろう

1970年生まれ、東京都出身。日本交通の創業者・川鍋秋蔵氏の孫。1993年、慶應義塾大学経済学部卒。1997年、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学し、MBAを取得。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社、経営コンサルタントとしての経験を積む。2000年、日本交通に入社。専務、副社長を経て、2005年、業界最年少の34歳で社長就任。3代目としてIT戦略を推進し、「全国タクシー」などの配車アプリを開発。2014年、東京ハイヤー・タクシー協会の会長に就任。2015年、社長職を譲り、自身は会長へ。2016年現在は、「全国タクシー」を運営するJapanTaxi株式会社の代表として活躍中。

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IT事業者の哲学はリアルの運送業に適さない

尊徳 Uberなど、海外では自家用車を使ったライドシェア(相乗り)ビジネスが広がっているけど、端的にタクシーとの違いを説明してもらえる?

Uber

2014年3月、日本国内にてサービスを開始したアメリカのウーバー・テクノロジーズが運営する配車サービスで、タクシーに加え、一般人が自家用車をシェア(ライドシェア)することもできる。世界477 都市で展開中。

川鍋 突きつめれば、国土交通省の認可の有無ですが、大きな違いは、何かあったときに自ら責任を負うか負わないかでしょう。

事故が起きたとき、両者とも保険はかけているので賠償などの金額は同じでも、タクシー会社は被害者の元へ謝罪に駆けつけます。しかし、Uberが会社として謝ることはしないはずです。

Uberが特にモラルに欠けるという話ではなく、ITプラットフォームの事業者ってプラットフォーム上の個々のサービスで発生したトラブルには責任を負わない文化なんですよね。

尊徳 確かに、Uberが生まれたアメリカと日本では、責任の割り振りについて、考え方が異なるところだよね。

川鍋 ただ、そういう考え方をリアルの安全・安心に大きくかかわる業種に当てはめるのはどうでしょうか。2016年1月に起きた軽井沢のツアーバス事故を思い出してください。

旅行業者が運営するツアーバスは、交通業者が運営する高速バス(路線バス)より規制が甘いなかで痛ましい事故が起き、旅行業者や国交省に強い批判、非難が集まりました。同じことがライドシェアでも起きる恐れがありますよ。

尊徳 Uberには企業から個人までいろんな形態の事業者が参加するけど、それを統率するのはサービスを提供するためのシステムだから、プラットフォームは責任とか管理は放棄しているだろうね。軽井沢の例も、可能性としては否定できない。

川鍋一朗

競争するなら公平な条件でやらせてほしい(川鍋)

写真/芹澤裕介

タクシーがライドシェアより”高い”のには理由がある

川鍋 もう一つは、コスト構造の違いです。Uberは高級車を迎車料金なしで配車するので、タクシーよりお得だという評もありますが、安価にサービスを提供できるのは、人件費によるところが大きいです。

タクシー会社の乗務員は、二種免(第二種運転免許。年齢や運転経験期間などに要件がある)を持った正社員で、われわれは社会保険料を払い、税金を納めます。一方、自家用車ライドシェア陣の運転手はアルバイトですから、社会保険料がないし、税率も低い。これが、運転手の人件費に2割の差を生んでいます。

タクシー会社が既得権益を守って、利用料をことさら高額に設定しているわけではないんです。競争させるなら、タクシー業界の規制を緩和し、ライドシェア陣にもきちんと規制を敷いて、公平な条件でやらせてもらいたいですね。

尊徳 地方にはUberのようなサービスが必要だという意見もあるよね。東京は深夜でも簡単にタクシーがつかまるけど、地方でバス路線が廃止されるような町では、アプリで呼べて迎車料金がかからないUberが救世主になるとも言われているけど。

川鍋 地方の公共交通、特に過疎地域では誰がやっても赤字が出るでしょう。Uberがサービスを展開しているのは大都市ばかりですし、赤字を出してまで地方のインフラを担うとは到底考えられません。

地方公共交通の救世主はタクシーのシェア

川鍋 私が思うに、”タクシーのシェア”こそが、地方公共交通を支えるベストな解の一つです。ライドシェアは何もUberの専売特許じゃないんですよ。

同じような時間に同じ方向に行く不特定多数の人をまとめる。これをやれば、今のタクシー業界のコスト構造が変わらなくても、お客さんにとっては価格が半分以下で済みます。収益不足は、既存のタクシーをシェアして稼働率を上げることで補えばいい。

利用料がUberより高い場合があるとしても、タクシー会社から社会保険料や税金が地方自治体に入りますから、行政が利用補助に当てることもできるじゃないですか。

川鍋一朗

ライドシェアは何もUberの専売特許じゃない(川鍋)

写真/芹澤裕介

尊徳 でも、タクシーのシェアは現行制度ではダメなんだよね?

川鍋 現行制度では”1運送1契約”が原則。乗合タクシーは、空港や深夜帯など一部の条件下で許可されていますが、「乗合」自体は基本的にバスの領域なので、規制改革が必要です。

尊徳 それを実現するにはITが絶対に必要だよね。「誰か、こっち方面行く人?」って募れるツールが要る。

川鍋 おっしゃる通り、ITは必須です。それと規模ですね。ユーザーの母数が少ないとマッチングが難しいですが、大勢が一つのアプリを使っていれば容易です。

例えばイベントやっている東京ビッグサイトから、大きな荷物を持って都心まで車で戻りたい人が多数いるとか、マッチングしやすいシーンもありますし。国交省も真剣に検討してくれているので、2017年度中には実現できると思います。

佐藤尊徳

Uberの評判良いみたいだけど(尊徳)

写真/芹澤裕介

ダブルスタンダードはやめてフェアな競争を

尊徳 Uberに話を戻すけど、利用した人は、おおむね満足しているらしいよ。タクシー運転手の対応に不満を持ったことがある人は少なくないと思うけど、サービスの差はどう考えてる?

川鍋 そこは、われわれがUberに学ぶべきですね。実際、彼らが来てから、タクシー乗務員たちも以前より身だしなみに気を配るようになりました。スターバックスが日本に上陸したときに、ドトールコーヒーが高級版のエクセルシオール カフェを展開したのと同じです。

尊徳 競争原理が働いたんだね。

川鍋 そうです。だから、とにかくフェアな競争を望みます。二種免の取得から、1日2回のアルコールチェックまで、タクシー会社は課されるものが多すぎるし、逆に自家用車ライドシェア陣にはあまりに規制がなさすぎる。二重行政ですよね。

だいたい、Uberは私のアカウントを何の通知もなく、いきなり凍結したんですよ。何とかしてもらいたいけど、コールセンターもないし、問い合わせメールをしても返信がない。(日本法人の)高橋(正巳)社長に直接話しても「調べておきます」と言うだけ。明らかに公共心に欠けた体質だと思います。

尊徳 ここまで言うとは、相当キてるなあ(笑)。結局、適法かどうかグレーな部分が一番もうかるわけで、安心や安全はどうしたって企業の利益とは相反するものだよね。だから規制があるわけで。

僕は改革論者だから、規制は撤廃しろってすぐ言うけど、規制強化が全部悪なわけじゃないし、緩和する部分と強化する部分と、メリハリをつけなきゃいけないと思う。事実、2014年のタクシー減車は乗務員の利益になったわけだから。ただ、消費者利益になるところは優先的に緩和しないとね。

JapanTaxi株式会社のIT戦略

JapanTaxi(旧株式会社日交データサービス)は、日本交通の100%出資子会社。「『移動』で人を幸せに」をモットーに、タクシーを中心としたサービスの提供、ソフトウェアからハードウェアまで一貫したシステムの開発を行っている。「全国タクシー」をはじめとするアプリ開発に際しては、クラウド型経費管理サービスのコンカーと提携、LINEにも技術提供するなど、パートナーシップによる顧客拡大に積極的。

 

<配車アプリ「全国タクシー」>
2011年リリース。スマホのアプリから乗車場所を指定するだけで迎車を手配可能。全国47都道府県のタクシー事業者173グループ(台数:30,061台)と提携。

 

タクシー業界のIT屋 日本交通の戦略~すべては”選ばれる”ために

川鍋・尊徳

東京オリンピックまでにタクシー業界はこう変わる

尊徳 今後、タクシーは、どう魅力をつけて、どうユーザーにアピールしていくの? 自家用車ライドシェア陣にこれだけ言うなら、それなりの戦略があると思うんだけど。

 東京オリンピックまでに3つ、やります。1つ目は東京都内での初乗りを約1kmで400円台にすること。これは、値下げじゃなく組み替えですね。タクシーは「総括原価方式」なので、運送全体に対する運賃の合計は変わりません。ただ、これまでは近距離の人がやや割高、長距離の人がやや割安になっていたのを是正するということです。

尊徳 長距離の人は少し高くなるけど、近距離の人は安くなる。

川鍋 そうです。これだと”ちょい乗り”需要を喚起できて、ユーザーの母数が増えると思います。タクシーを使う習慣がない人も、利用のハードルが下がるはず。早ければ2016年12月、遅くとも2017年4月には始めるつもりで動いています。

2つ目が、新型車両の投入。トヨタ自動車が2017年度に、居室が広くて快適なタクシー用の新型5人乗りワゴン「JPN TAXI」を発売するんですが、都内のタクシー会社は、東京都の補助を受けてこれを合計1万台導入します。日中、東京を走るタクシーの3台に1台はJPN TAXIになりますね。

そして、このワゴンに多言語対応のタブレット端末を装備して、海外の決済システムにも対応させます。これが3つ目。

尊徳 ハード、ソフト両面をしっかり強化すると。

川鍋 それに加えて、先ほどの「タクシーのシェア」、それから、「前決め運賃」もやりたいと思っています。アプリで運賃を計算して、途中で渋滞しても最初に決めた運賃を払う方式。「遠回りして運賃が高くなった!」というクレームが減るので、乗務員も心穏やかに堂々と、プロならではのルート選びができます。

ぶっちゃけ、Uberのライドシェアという概念やステキなアプリの使い心地は勉強になっています。当社もITエンジニアリングを強化してきたので、これからは相当なスピードで追いかけますよ。Uberに学んで、東京のタクシーはどんどん良くなると思います。

尊徳 川鍋君の熱意、だいぶ伝わったよ。その柔軟性があれば、この危機を乗り越えられるかもしれないね。

株式会社損得舎代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。
Twitter:@SonsonSugar
ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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