佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

【藤田晋×佐藤尊徳】ネットはテレビで起爆する AbemaTVがマスメディアに化けたとき

2018.2.16

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【藤田晋×佐藤尊徳】ネットはテレビで起爆する AbemaTVがマスメディアに化けたとき

写真/芹澤裕介 取材/赤坂麻実

目下、社運をかけてインターネットテレビ「AbemaTV」に注力しているサイバーエージェント。好調なゲームやマッチングアプリのほか、2017年10月には仮想通貨取引事業も始め、グループ全体から勢いがうかがえる。次世代の主軸と位置づけるAbemaTVが“マスメディア”に化けたとしたら、それら事業とのシナジーは計り知れない。同社を20年牽引してきた創業者として「辞めるに辞められない」という藤田社長の次世代マスメディア戦略を聞く。

【藤田晋×佐藤尊徳】サイバーエージェントはなぜ株主に許されるのか AbemaTV先行投資200億円

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長

藤田 晋 ふじた すすむ

1973年5月16日生まれ、福井県出身。青山学院大学経営学部卒。学生時代にベンチャーの広告代理店で営業を経験。1997年、株式会社インテリジェンスに入社。1998年、同社を退職し、株式会社サイバーエージェントを設立。2000年3月、26歳で東証マザーズに上場、当時の史上最年少記録を打ち立てる。2014年9月に東証一部へ市場変更。
2004年9月にブログサービス「アメーバブログ(現Ameba)」、2009年2月に仮想空間アバターサービス「アメーバピグ」をリリース、根幹となる「アメーバ事業」で業績を拡大。2011年には株式会社Cygamesを設立し、ソーシャルゲーム事業に本格参入。2015年、定額制音楽配信サービス「AWA」を開始。2016年4月、インターネットテレビ「AbemaTV」を本開局。「亀田興毅に勝ったら1000万円」、稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾の3人が出演した「72時間ホンネテレビ」など話題の番組を次々配信。2017年5月、株式会社新R25を設立しメディア事業を拡大。2017年10月、仮想通貨取引事業を行う新子会社として株式会社サイバーエージェントビットコインを設立。
Twitter:@susumu_fujita

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株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。 井川意高氏とは2004年頃からの付き合い。仕事を通して知り合い、その後、公私を共にする仲に。

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テレビ局の行き過ぎた自主規制を「いったんリセット」

尊徳 AbemaTVをナンバーワンのメディアにするという話ですが、マスメディアになれば、公共性が問われるはずです。藤田くんは、そこをどう考えていますか?

藤田 今はまだ駆け出しで、AbemaTVを多くの人にまず見てもらい、サービスの存在や価値を知ってもらう必要があるので、あえてとがった内容を選んでいますが、本当に生活に根づくようなメディアになれば、公共性は当然、意識します。AbemaTVは公共の電波を使いませんが、そこは自分たちで線を引くつもりです。

AbemaTV

サイバーエージェントがテレビ朝日との合弁事業として2016年4月にスタートした無料のインターネットテレビ。アプリダウンロード数は2600万を突破。週間アクティブユーザー(WAU)は500万。藤田氏は1000万WAUが当面の目標だと公言している。麻雀や将棋などの専門チャンネルが充実しているほか、2018年からはオリジナルドラマも開始。恋愛リアリティーショーをはじめ、特番「亀田興毅に勝ったら1000万円」や稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾の3人が生出演した「72時間ホンネテレビ」など、地上波がやらないテイストの番組はネットでも話題になっている。

サイバーエージェント社長・藤田晋

メディアを運営する以上、モラルは絶対に必要だと思っています。ただ…… 

尊徳 AbemaTVは既存のテレビ局のように放送免許制で電波法に則って、という環境ではないけど、ルールうんぬんの前に社会に受け入れてもらわなければいけないですからね。

藤田 ただ、既存のテレビ局は現状、コンプライアンスやスポンサーを重んじるあまり、ともすれば委縮しているように見えます。この10年ほどで急激にその傾向が強まりました。

尊徳 既存のテレビ局は自主規制が行き過ぎて、コンテンツとしての魅力を失ってしまったと僕は思っています。ただ、テレビ番組の内容に対するネットの声も大きくなり、昔は鷹揚だったところも今はそうではなかったりして、舵取りが難しそうな印象だけど。

藤田 最近バラエティ番組の内容に批判が殺到した問題も、批判していた人たちが普段、テレビを見ている人たちなのかといえば、そうとは限らない気がします。

そもそも(テレビ制作側の)大半の人は問題なく面白い番組を作っているはずなんです。でも、ひとたび何かあれば、普段その番組を見ていない人も含め、ネットなどで批判が過熱するので作り手が委縮してしまっている。それでは何もできませんよね。

尊徳 AbemaTVはどの辺りを水準にしていくことになるんでしょうか。

藤田 メディアを運営する以上、モラルは絶対に必要だと思っています。ただ、今のテレビは自主規制しすぎだと思うので、その辺りの考え方をいったんリセットしたテレビを作っていくつもりです。

政経電論編集長・佐藤尊徳

視聴者数が増えて、それに比例したマネタイズができるようになる?

AbemaTVでサイバーはどう儲けるのか

尊徳 AbemaTVはここまで、藤田くんが想定した通りの進捗ですか?

藤田 想定以上の良いスタートが切れたと思っています。でも、まだ始まったばかりですからね。このまま会員数を順調に伸ばして利益を出せるようになるまでが一区切りですが、今はまだマネタイズに着手していないし、ユーザーを増やしている最中ですから。

尊徳 今後、視聴者数が増えて、それに比例したマネタイズができるようになりますか?

藤田 そこは比例する必要はないと考えています。Netflixなどは、質の高い番組を揃えて10年ほど配信サービスを続け、世界的に普及して大きな利益を生んでいますが、必ずしも利益とコンテンツは比例したものではないはずです。

ただ、利益の基盤があることで新しいコンテンツにまた資金を注ぎ込めるのは確かですから、当社も何らかの高収益な事業をグループで持っていればいいという考えです。

尊徳 AbemaTVが直接大きな利益を上げられなくても、AbemaTVがあることのメリットをグループで享受して、ほかの事業とのシナジーが出ればいいということですね。

既存のテレビ局の場合は広告以外に、有料のビデオ・オン・デマンドやブルーレイ・DVDの販売を収益源としていますが、AbemaTVも何らかの番組2次使用で利益を上げる考えは?

藤田 それは今のところ考えていません。他事業とのシナジーに期待するところが大きいです。テレビで紹介されると、ネットのサービスの認知度やユーザー数が跳ね上がるんですよね。

2005年にライブドアがニッポン放送買収に動いたのも、テレビでライブドアの社名が連呼されることこそ、(当時社長だった)堀江(貴文)さんの狙いだったという話があります。AbemaTVを使って、収益源を多角化していきたいと思っています。

サイバーエージェント社長・藤田晋

尊徳 多角化ということですが、AbemaTV以外の事業の調子はどうですか?

藤田 広告事業がずっと好調で、広告事業とゲーム事業がそれぞれ年間200億円超の黒字になっています。その他メディア事業を合わせて500億円。AbemaTV以外が好調なので、この間にAbemaTVを育てなければいけません。もちろん、既存事業も強化します。

ヒットしたゲームタイトルとAbemaTVで連携して、さらにゲームを伸ばすことも考えています。ほかには、マッチングアプリも新たな注力分野として成長しています。若い人たちは、こういったもので出会うことに抵抗感がないようです。それから、仮想通貨取引事業も開始予定です。

尊徳 新しい事業領域に踏み出すとき、既存事業との親和性はどこまで考慮するのでしょうか。

藤田 基本的に、インターネットから軸足をブレさせない。新規事業を考えるときのルールはそこですね。

尊徳 Googleが自動運転車の開発に乗り出したり、Amazonがスマートスピーカーを作ったり、IT・ネット分野の企業がハードウエア分野に進出する例が増えていますが、そういったことは……。

藤田 インフラやデバイスに手を出すつもりはないですね。あくまで、うちがやるのはインフラやデバイスが普及した後のコンテンツ、メディア、広告、eコマース。そういう意味では収れんしていると思います。

尊徳 藤田くんは早い段階でスマホの浸透を予期して、事業のスマホシフトを加速させて成功されましたよね。スマホの次には、手元のデバイスはどうなっていくと考えていますか。

藤田 ガジェット好きの方などは“スマホの次”をつい想像したくなるようですが、“次”はもうないんじゃないですか。テレビデバイスが“スマホの大きいもの”として機能するようになるといったことが、ハード側に起きる大きな変化だと思います。

少なくともこの10年の間に何か新しいものがスマホほどに普及してきて、それに対応しなきゃいけないということにはならない。今の延長で、粛々とやっていきます。

政経電論編集長・佐藤尊徳

国家の威信や権勢にかかわるので、当然厳しく規制されるはず。

ネットバブルに似ている仮想通貨の現状

尊徳 昨年10月には仮想通貨取引所を手がける「サイバーエージェントビットコイン」を設立しました。年明けから話題に上っている仮想通貨のことをちょっと聞きたいんですが、今の状況をどう思いますか?

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